第02話】-(追いかけるだけ
〈主な登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
奏多/カナタ〉主人公に想いを寄せる少年
──────────
そして今日はその翌日。
なんとなく一年が過ぎるとどうなるのだろうと
どうせなら記憶の全てを消し去って元の日常に戻してくれてもよかったのに、とあまつさえ思ってしまう程に。そのぐらい
「私、異世界に残ろうかな」
ポツリと私は
奏多の身体が一瞬揺れたのが分かった。
「嘘……元の世界に戻るよ」
私は視線を下に向け答えた。
奏多が瞬時に私の方に振り向く。
「どうしてですか? 僕はてっきり紬は異世界に残ると思ってました」
「そうだね。あっち(異世界)には私の自信へと繋がるものが沢山ある。でも」
私は風を受け視線を正面に向けて。
「奏多が前に言ってたよね?
これが正論なのかもしれない。
だけどこれが本音であるかと言われると
「でも、あっちの世界で
私は今度は
「奏多はもう決めているの?」
「僕は、とっくに決まってますよ」
「え⁉──」
奏多は即答だった。私は
─────
「愚かだと
「──っ⁉」
なんの
何を言っているんだ。
そんないとも簡単に。
堂々と。
─────
私はカッとなってしまって顔が
「私がもし、異世界を選んでしまったら、奏多の家族の記憶から消えてしまうんだよっ‼……それでもいいの?」
最後の言葉を告げる頃には人目もはばからず両手で奏多の胸元の服を握りしめ頭を預けていた。私の髪に奏多の息が
「そうですね……それでも、もう僕の一番は紬なんですよ」
またしても私の瞳が大きく見開く。
頭の中が一瞬からっぽになる。
足元だけが視界に映るだけ。握りしめた手の力が少し緩む。全てを投げ捨てて私を選ぶというこの気持ちが切なくて苦しい。顔を上げると奏多はどこか儚げに
その顔は少年ではなく大人の顔に見えた。
「ずるいよ……」
私に決めさせるなんて。なんて
「それじゃぁ、僕が決めた世界に紬はついてきてくれますか?」
「それは……」
汗が流れる。
奏多の事は嫌いじゃない。
けれど、ついて行くとは言えなかった。
彼を傷つけてしまっただろうか。
「僕のこと……邪魔ですか?」
「それは違うよ」
自信のない声が私の心の中を
邪魔だなんて思うわけないのに、何故聞いてくるのだろう。
「……良かった。僕は紬の生きる世界で存在したいんです」
奏多は私の頭の後ろに手を置き自分の肩に引き寄せる。
「か……奏多、誰かがきたら……」
私は奏多の胸元に置いた手を離し、逆に押し戻そうとする。奏多は、私の頭に置いていた手を背中に回しさらに強い力で引き寄せてきた。片手だけの力で私は
「僕は全然気にしませんよ」
私の
「僕が紬を追いかけるだけですよ。それに一瞬でも僕だけがいるこの世界を選んでくれました。それが何より嬉しいです」
私の
「奏多はそこまでして……私のことを?」
「今更。ここで手を離したら僕は絶対に後悔しますから。僕は僕に正直に生きます」
こんなにも私の事を想ってくれていることに心が騒いだ。と同時に自分に正直に生きる……この
それに、私だってこれだけ奏多と長い時間を過ごしてきたんだ。心のどこかでついて来てくれると言ってくれて安心している自分がいる。でも言葉に出すことは出来なかった。
「あの神も意地悪な選択を要求してきますね。でも僕は紬との記憶が消えないだけで充分です」
「……」
私は正直な気持ちを
「まだ、決められない……」
「はい……」
奏多は私の頭を優しく撫でてくる。
でも、今はそんな
私の頭には異世界で起こった様々な光景が、それはまるで本の
嬉しくて綻んだ事、悲しくて瞼を閉じた事、悔しくて唇を噛みしめたこと……。
この溢れる気持ちをどう整理すればいいのか、今の私には荷が重すぎる。いくら頭を振ったとしても刻みこまれたこの記憶を消し去ってしまうことなんて出来ない。
「紬、僕に一つ提案があるんです」
「……提案?」
「ちょっと最後にあがいてみようかと思いまして。ちょっと耳を貸してください」
奏多が顔を下げ私の耳元に
私の瞳孔が大きく開く。
(迫られる究極の二択 終わり)
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