第13話】-(私はフルミネさんと同じ景色を見てた

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

エテル・男性〉主人公に想いを寄せるギルメン

フルミネ・女性〉人食らいになってしまった少女

──────────


(紬/イトア視点 続き)


 私は驚きのあまり自分の瞳孔が開くのが分かった。エテルの鼓動は早くもなく遅くもなく。私の頭にエテルの吐息といきがかかり。


「フルミネは本来とても心優しい人なんだよ。森の番人として、森に愛され、そして人間をいていた。そんな彼女の苦しみをあんな形でしか解放してあげることが出来なかった自分の無力さがつらいだけなんだよ」


 そう心の内を打ち明けてくれた。だから私が苦しむ必要はない、と。


「さっきのは嘘だよ。あの質問の答えを求めるのなら許す……かな。というよりそれはフルミネが決めることかな。今思うと君で良かったのかもしれない。フルミネと同じ景色が見える君で。


それに僕は君の全てを受け止めているから大丈夫だよ。これで安心してもらえたかな? イトアの事嫌いになんてならないよ。今だってこうして会いに来てくれていとおしいよ」


 全て受け止める……。


 それは私の狂った姿も受け止めるということ?私はゆっくりと顔を上げた。エテルの慈悲深くて優しい瞳に心が震える。その時の私はもうこぼれ落ちそうな涙を必死に我慢することで精一杯だった。


「もう、イトアは泣き虫さんだね」


 エテルは私の頭をポンと撫でた。その拍子ひょうしで涙が零れる。彼の身体と手のひらの温かさが私の冷えきった心さえも温めていく。泣きべそをかきながら私は。


「私、謝りに来ただけで……嫌いとかその理由できたわけじゃぁ……」

「え⁉ 違うの⁉ てっきり僕に嫌われたんじゃないかと思ってきてくれたんだと思ったよ」


 私は一変して大赤面するしかなかった。でもエテルは本気で思っていたようで目を丸くしている。エテルのこのちょっとズレた考え方に私は救われる。


「ちょ、ちょっと意味が違う気が……」

「僕は君の夫になる男だよ。そんな器の小さい男じゃないよ」

「いや……話しがどんどんれてますけど……」


 彼のこの調子に丸め込まれていく。この「知らないふり」に助けられて、私は泣き笑いを浮かべた。そんな私にエテルはそっとハンカチを差し出してくれた。そこへエテルはここぞとばかりに私に不満を垂らしてくる。


「イトア、ちっとも僕に会いに来てくれないじゃないか。聞くところによるとトゥエルのところには行っているみたいだけど」


 エテルが私に向けて目を細めた。


「そ……それはぁ……」


 私は両手を顔の前にかざし視線をらし言い訳を探す。


 ──でも。


 エテルはフッと笑う。

 私を胸から離したエテルは雨の森がある方向に天をあおいで。


「イトア、フルミネは死んでしまったんだよ。僕とイトアは生きている。それだけが真実だよ」


 エテルの白百合色しらゆりいろの髪が隙間風すきまかぜにさらされ大きく揺れた。


「フルミネがね、儚雪スノー・ノエルのことを雪のようだと僕に言ったんだ。イトアが二人目だよ。ね、君はフルミネと同じ景色を見てる。こんな偶然があるんだね」


 そして彼は「こう考えてくれないか」と続ける。


「確かにフルミネの悪意から呼び覚まされてしまったかもしれない。だけどイトアの力を引き出した。フルミネの形見としてあの力は受け取ってほしい」、と。私の身体を突風とっぷうが突き抜けていった。


「フルーヴとあの力を制御しに行くんだよね。頑張っておいで」


 エテルは私の方に振り返り胸を締め付けるような切ない笑顔を向けた。私はフルミネさんのことを決して忘れない、そう心に誓った。


 二度とあんなことをしないように……私は涙をぬぐい決意を固める。


(尊し雨の愛しい君へ[人食らい討伐編] 終わり)

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