第10話】-(じゃあ、僕と逃げましょうか?
〈主な登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
奏多/カナタ〉主人公に想いを寄せる少年
その他ギルメン〉エテル、ユラ
──────────
(紬/イトア視点 続き)
私は頭から
窓を開けると風が吹きすさび、新鮮な空気が
何故、私の家を知っているのだろう。一人しか思い浮かばない。揺由だ。すると奏多は今度はおいでと手の合図を送ってきた。
私はその光景を他人事のように眺めていた。それが私に送っている事だと気がつくのに時間がかかった。
でも……悩んだ
身なりも適当で頭には寝ぐせ、目にはくまを作り奏多の前に姿を
玄関から出て奏多の前に行くと、余程髪がぼさぼさだったのか彼は手で寝癖を直してくれている。それでも私は無抵抗で照れることも無く。
「私の部屋にくる?」
この陽の当たる場所は私には
「え⁉ いいんですか⁉」
奏多が目を丸くしている。
「うん。外にいるよりかは落ち着くし。片付いてないけどいいかな?」
「それは気にしませんけど、ご両親が心配するんじゃないですか?」
「うち、共働きだから。まだ帰ってこないから」
機械的に動く私の口は、奏多を私の世界に招いていた。時刻は四時すぎ。奏多は下校の帰りに寄ってくれたのだろう。私は奏多を二階にある自室に通した。カーテンは閉じたままの薄暗い部屋。
奏多が一瞬、
片付けていないといっても私の部屋はゴミが散らばっているわけでもなく、どちらかというと
そしてまたこの世界が私を呼んでいた。奏多にクッションを渡し床に座ってもらう。奏多はそこにあぐらをかいて座った。
私はベッドの上に戻り毛布を頭から
「ごめん。明日は(異世界に)行くから心配しないで」
「そんな事はどうでもいいんですよ。何があったんですか?」
「聞いてないの?」
「詳しくは……でもあちらのユラにもこちらの揺由にも相談にのって欲しいと言われました。ユラは揺由のままですね」
ちらりと奏多を見ると彼は微笑んでいるように見えた。今の私にはその優しい眼差しが苦しくて見ていられない。思わず顔を腕に
「聞いてもいいですか? 何があったのか」
奏多は優しい声色で私を
「話すだけでも楽に……」
「楽になる? それならとっくに話してるよっつ‼‼」
私はカッとなって顔を上げると顔に熱を浴び奏多の言葉を
「……ごめん」
奏多は──はぁ、と
「僕は男ですよ。紬が声を荒らげるくらい、まぁ、言ってしまえば平気です」
「言い方を変えます」
「?」
「何があったか話せ。それまで帰らない」
お返しだと言わんばかりに奏多は私に反撃してきた。
私の肩が跳ね上がる。普段聞かない低い声にたじろいでしまった。帰らない……奏多ならやりかねない。
私は眉をひそめ視線を横に
リミットの存在、私が暴走したこと。
エテルの大切な人に
時々言葉を詰まらせながら。
思い出す度に瞳に涙を溜め込みながら。
奏多は黙って聞いてくれていた。もしかすると何か反応していたのかもしれない。けれど私は奏多の顔を見ることが出来ず。
「私、どうすればいいのか分からない」
一通り話し終わると私は
─────
「じゃあ、僕と逃げましょうか」
「──っ⁉」
─────
「あの世界は広いんですよ。街だって他にあります。それに力の有効期限まで時間もありますし、ギルドを抜けて、二人で旅をするのも楽しいかもしれませんね」
奏多は元の声色に戻り。私の心を
──瞬きが止まった私の瞳から一粒だけ涙が零れてしまった。
私に儚い期待を持たせてくる奏多に私は問う。「奏多はついてきてくれるの?」、と。すると奏多はまた大きく
「紬は忘れん坊ですか? 僕の
──二粒目の涙を零れさす。
鮮明に思い出す光景。私はあの時、戦いを心の底から楽しんでいた。相手を支配できることにとてつもない満足感を得ていた。もし相手が仲間だったとしたならば私は自分を止めることが出来るのだろうか。
怖い。自分が怖い。
私の手はもうあの時真っ赤に染まってしまったのではないか。自分の手のひらを見ると赤く染まっているように見えてしまう。自問自答を繰り返しながら。
「私、またああなってしまうかもしれないんだよ? 奏多は私のこと気味が悪いと思わないの?……怖くないの?」
「思いませんね。僕は実際に見た訳ではありません。でもそんなに辛いのならもう戦いの場に行かなければいいんです。僕が紬を支えます」
あっさりと、当たり前かのように、なんの
──私を否定しないその姿勢に三粒目の涙を零れさす。
「何でそんなに優しいの?……苦しいよ」
「自分だけが苦しいとでも?」
(続く)
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