第03話】-(人食らいとの激闘

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

フルミネ〉人食らいになってしまった少女

ギルメン〉トゥエル、エテル、ユラ、フルーヴ

──────────


「狂ってやがる」

「……最低ですわ」


 ユラとトゥエルが悪態を吐く。一頻ひとしきり笑い終わると少女はエテルをじろりと一瞥いちべつすると舌なめずりをした。私はゾクリと悪寒おかんが走った。


「ねぇ、エテルも食べさせてよ」

「……『も』だと?」


 再会の余韻よいんはあっという間に消え去りエテルの顔がゆがんだ。


「さあ、楽しみましょう? それに私、丁度お腹が空いていたの」


 お腹が空いた……私たちをえさと見ている。


「メインディッシュはこれから……」


 少女の灰色の瞳に殺意の光がともる。そして着ていたローブを剥がしその姿をさらした。私の目はその少女の風貌ふうぼうに釘付けとなった。


 華奢きゃしゃかと思っていた身体はしなやかに鍛え上げられた肉質にくしつで。乳房ちぶさと秘部を隠す程度の当て物、太ももから足先にかけて反物たんものを巻き付けたような装束しょうぞくまとっていた。動きやすさを重視した容姿。


 そして少女の両手にそれぞれ投擲とうてきの武器が具現化された。鋭い鎌のような刃が二つ。円を描くように形づくられた円月輪。彼女はその円月輪のふちを握り構えの体制をとった。


 エテルはその少女の姿に驚嘆きょうたんうつむくと剣の刀身を巨大化させていく。


「では……作戦通りに」

 エテルが口火を切った。



★ ★ ★



(客観的視点)


 小雨が降りしきる中静かに戦いは始まった。イトア達は視界をさえぎっていたフードを雨着を脱ぎ捨てた。そしてトゥエルが詠唱を始める。彼女の足元の真横に魔法陣が現れた。



 ──『ワルキューレ』



 トゥエルが召喚したのは戦女神。全身に白銀はくぎん甲冑かっちゅうを身にまとい剣をたずさえている。頭には翼を模したかぶと相貌そうぼうは女性。無表情のままあるじの指示を待っていた。金髪の長髪を揺らしながら。そしてトゥエルは続けざまに。



 ──『争闘円舞リュット・ヴァルス



 今度はトゥエルの足元に魔法陣が現れる。その陣の中心に立つと、彼女は舞を始める。それと共にワルキューレが動き出した。まるでその動きは舞うトゥエルの意思が込められているかのようにこまやかに動き出す。


「ふふ。面白い技を使うのね」


 フルミネはあごを上げ目を細め挑発するような一言を放った。エテルは大剣の刀身を人と同じくらいの大きさまで形状変化した。そして彼は刀身を土にわせ、ワルキューレは切っ先をフルミネに向け疾走しっそうしていく。


「うおおおおおおおおおおっ‼」


 エテルの胸声きょうせいにフルミネはフッと笑うと両手に持っていた円月輪の片方を大きく横に振りかざすと二人に向かって身体を後方から半回転し投擲とうてきした。真横から旋回しながら高速回転した刃がエテル達を襲う。


 全身が刃と化した円月輪はその道筋にある雑草を狩りその葉先を周囲にまき散らし、行く手をはばむ大木をなぎ倒し飛んでくる。エテルは側面から襲い掛かるその刃を間一髪で飛躍し回避。フルミネとの間合いを詰めていった。


 エテルと対角線上から疾走しっそうしていたワルキューレもその刃を回避すると先にフルミネの側面からぎ払いの構えをとった。フルミネはその切っ先をもう片方の円月輪で受け止める。ギギィと切っ先とやいばこすれあい火花が飛び散る。


 片手をさえぎられたフルミネに向かって、先程飛躍したエテルが木々を足場にさらに飛躍し、その勢いに任せ上空からその大剣を彼女に向かい真正面から振りかぶる。


 瞬時に察知したフルミネが後方に飛躍し二人の攻撃をかわした。エテルの大剣は地面に亀裂を生じ破砕はさいしていく。


 その頃、先刻せんこくフルミネが投擲とうてきした円月輪が大きく旋回しながら彼女の元に帰ってくる。背後から忍び寄る刃に今度はエテルとワルキューレが後方に下がり回避した。


「噂には聞いていたけど、エテルが冒険者になるなんて。そして剣を交える日が来るなんて、私嬉しいわ」


 自分の元に帰ってきた円月輪の刃先はさきをぺろりと舐めながらフルミネはエテルを一瞥いちべつした。トゥエルはエテルの呼吸に合わせてワルキューレを操作していった。


「その余裕もいつまで続くかしら。わたくし達を舐めないでもらいたいですわ」


 これが自分達が長年パートナーとしてつちかってきた連携だと言わんばかりに隙を与えない猛撃もうげきは続く。


「まずは、こちらのナイトからあああああっ‼」


 フルミネはワルキューレを操作しているトゥエルを潰しにかかってきた。エテルとワルキューレの攻撃の隙間をついて両の円月輪を後方にいるトゥエルに向かって投擲とうてきする。無防備なトゥエルに向かってその二つの刃が豪速ごうそくで左右から襲い掛かかった。


 その刃がトゥエルに触れようとした刹那せつな。ガツンッという衝撃音と共にユラがトゥエルの身体全体を覆う防御壁プロテクションを具現化しそれを弾き飛ばす。


「させるかよっ‼」

 無防備なトゥエルの隣で防衛に徹するユラ。


 その頃フルーヴとイトアの詠唱が終わった。

「イトア……行くよ」


 二人は息を合わせフルミネに向かい手をかざし解き放つ。



 ──『堅剣猛炎ソード・インフェルノ



 二人分の魔力が注がれたその魔法は威力を増し、炎をまとった数百の剣の切っ先がフルミネに向かって一斉に牙を向ける。作戦通りその攻撃に合わせエテルとワルキューレが間合いを取る。


 この広範囲の攻撃にフルミネに逃げる場所など無く。もろに剣の餌食えじきとなる。フルミネは防御の体制をとるが、腕に足に腹部に剣が容赦なく突きささった。


「うぐうっつ‼」


 フルミネが悪声あくせいを零す。剣が突き刺さったまま全身を血まみれにしたフルミネは一瞬後方によろけた。顔を伏せ長髪が彼女の身体を隠した。


 彼女はしばしもだえ苦しんだ後、双眼そうがんを吊り上げイトア達を見たかと思うとおもむろに片方の口角をあげた。


「うふふ」


 不気味ぶきみな笑みを零す。すると突き刺さっていた剣が弾くように一斉に肌から飛び出してきた。そして傷跡がするすると回復していく。その様子に一同は驚愕きょうがくし目を見開く。確かに全身を剣が貫いたはずだ、と。


 しかし彼女には無意味ノーダメージだ。


「思ったより回復が早いな。手数てかず勝負ってことか」

「それではきりがありませんわ」


 ユラは防御壁プロテクションを維持しながら。舞いを中断したトゥエルがその異常なまでの回復の速さに歯がゆさを現す。


「皆、心臓を狙うんだっ‼」

 エテルが次の攻撃の構えをうつ。


「おいっ‼ あいつの心臓をよく見てみろっつ‼」

 そこへユラが叫んだ。


 一同の視線がフルミネの心臓に向けられた。左の胸にはフルーヴ達が解き放った剣が一本も刺さった形跡がない。


「そんな……」

「急所を……強固したんだ……」


 イトアは焦りの色を見せ、フルーヴが冷静に考察を述べる。彼女はこの場所の皮膚を硬化する為、他の部位を全て捨てたのだ、と。


「かまうなっ‼ 突っ込むぞっ‼」


 エテルの合図を皮切りにフルミネの身体が回復している間にも攻撃の手は休まることはなく。


(続く)

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