第12話】唇
〈主な登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
トゥエル・男性〉ギルメン、半分心は乙女
──────────
「イトアか? 開いてる」
聞きなれない声が招き入れる。誰かお客さんがいるのかな。そんな疑問を抱きながら私が扉を開けると──。
そこで私は目を見張った。そこには、出窓の
窓の戸は少し開き
「トゥエル、その恰好⁉」
「部屋にいる時はたまにこの格好でいるんだ。楽だし」
「え⁉ それに声が⁉」
私は驚きのあまり口を手で覆う。
あの扉越しの声の主はやはりトゥエルだったんだ⁉
「やっと声変わりできた。もちろん女声もできるけど」
そう言うと自分の首元に手を置くトゥエル。それをまじまじと私が見つめていると照れた様子でトゥエルが
「そんな、じろじろみるなよ」
「わわっごめんなさいっ⁉」
トゥエルは流し目で私に注意してきた。私はあわてて視線を
ということは、
「この間買い物に付き合って貰った時のダージリンだ。お前が来るのを待ってた」
トゥエルは本棚に本を戻しながら私に声を掛けた。私達が席に着くと使い魔の執事がティーカップに紅茶を注ぐ。
「見立て通りだな」
トゥエルはいつもの様に満足そうに紅茶の入ったティーカップを揺らした。
「はい、私やっぱりこの香りが好きです」
私の為に選んでくれた紅茶。私はご機嫌で紅茶に口をつける。嬉しくてフフとにやけてしまった。
「当然だ。俺が選んだんだから」
トゥエルは、ティーカップ越しから横目で私に視線を向けツンとするように見おろしてきた。俺……違和感ありありだ。
それに男言葉になっても変わらないこの
「今の姿、
「今さらこの姿をみせても面倒臭いし。それに女の姿も気に入ってるし、何かと都合がいいからな。ふふふ」
トゥエルはティーカップから口を離し、ほくそ笑む。この腹黒さも健在のようだ。そして彼はティーカップをテーブルに置くと
「この間は無理をさせて悪かったな。フルーヴから後で
「え⁉ フルーヴが⁉」
「俺的にはイトアと
トゥエルは両手を頭の後ろに回し天井を見ながら後ろに椅子ごと少しだけ身体を
「それにお前が使った魔法、本来フルーヴくらいの奴しか具現化できないものだし。お前センスあるのかもな」
今度はテーブルから身を乗り出し目を細め私の
「
あの時は本当に必死だったからそんな大それたものだったとは……。そりゃぁ、
「なあ、そろそろその敬語、辞めにしないか?」
トゥエルは乗り出した身を戻すとテーブルに頬杖を突き不機嫌そうにティースプーンを指で回す。私は意外なトゥエルからの申し出に目が点になる。
「もう俺たち秘密を分かちあっているわけ、だ・し・さ」
「──なっ⁉」
一転して私の反応を確かめるかのように意地悪な瞳が
─────
それにその唇の合図。
あれは
すると彼は自分の椅子を私の隣に移動する。
頬杖をついて私の顔を
空いてるもう片方の人差し指を私の唇に当ててきた。
私の肩が大きく揺れる。
あまりの驚きに私はされるがまま……。
「お前の唇、凄く柔らかかった」
私の唇を上唇からそっとなぞってくる。
トゥエルが顔を
─────
私の頬は一気に赤らめた。なんというか少年のトゥエルは一言で言えば魅惑的。あの初めて少年の姿を見せてくれた恥じらったトゥエルが遥か遠くにいってしまった。私は、もしかすると危険なものを呼び覚ましてしまったのかもしれない。
私は首を左右にブンブンと振って回想から現実に戻る。
「え……えっと、敬語……うん⁉ 分かった」
「よろしい」と、トゥエルは
そして帰り際私がドアを出ようとした時、私の背後からトゥエルの両手がドアを
「あの変態共が襲ってきたら俺のところに逃げてこいよ。分かったか? イトア」
「は……はひっ(い)」
私は声が裏返ってしまった。
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