第03話】-(幸せの価値観
〈主な登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
トゥエル・男性〉ギルメン、半分心は乙女
その他ギルメン〉フルーヴ、カルド(ギルマス)
──────────
一通り買い物を済ませたというか、もう手荷物が一杯で持てなくなった私と使い魔の執事を見てトゥエルが帰路に就くと告げる。午前中から出かけていた私達は、すっかり正午を過ぎもうすぐ夕暮れが訪れようとしていた。
帰り道、森のような木々が立ち並ぶ大きな公園に差し掛かった。自然が大好きな私の好奇心がうずく。ご機嫌で先頭を歩いているトゥエルに向かって私は勇気を振り絞って声を掛けた。
「ちょっとここで休憩しませんか?」
トゥエルが立ち留まって私の方を振り返る。私はできうる限りの笑顔を
「そうねぇ……普段はこういうところ立ち寄りませんけど……まあ、イトアが言うなら仕方ないわね。少しだけよ」
「ありがとうございます」
少し、間があったのは気になったけれどトゥエルは
レンガ作りの家が
青く茂った芝生では小さな子供が駆けている。
私達はその湖の近くにあったベンチに座ることに。大量の買い物袋や箱を
「いつも討伐と宿舎の往復でこんな場所があるとは知りませんでしたわ」
トゥエルが
「私もです。まあ、私の場合は魔法の勉強で外に出ていなかったわけですけど……トゥエルは討伐で忙しくてこんな場所、普段来ませんよね⁉」
私は
「そうね。少なくともエテル様やカナタよりは実力も魔力も上ですし」
最近何かとこの二人を引き合いにだすトゥエルに私は空笑いでやり過ごす。
「まあ、
トゥエルの口からそんな言葉がでるとは思わなかったので私は思わず「え?」と間抜けな顔をしていたかもしれない。隣に座っていたトゥエルの顔を
「フルーヴだって始めはあなたと同じように暇さえあれば魔法書を手放さなかったのよ」
「そうなんですか⁉」
意外だった。確かに、フルーヴからもらった魔法書はどこかくたびれていて本の中にはメモ書きがびっしりと書かれていた。そのメモのお陰で覚えられた魔法も沢山あった。フルーヴは無口だけれどメモはとても
「そういえばイトアはどういう
トゥエルの思いかげない質問に私はドキリとして体が固まる。
だって自分が冒険者になったきっかけがとても
「私は……実のところ、流れ的っていうか……」
両の人差し指の先を合わせ私は恥ずかしくて
私は今度は自分の足元を見ながら太ももに手を置き、肩を上げさらに頬を赤く染めながら話を続けた。
「私、以前は何もかも嫌になってその現実から逃げてしまったんです。そんな自分が本当に嫌でした。そんな頃
先日カルドと話したことを私は思い出していた。
そして私は話を続ける。
「でもここで色んなことを知りました。諦めない自分が心の中にいて。負けず嫌いな自分を知って、誰かを想う気持ちを知って、誰かと一緒にいる楽しさを知って、一緒に悲しんでくれる仲間がいることを知って。こんな毎日がずっと続けば良いなって」
私の時間には限りがあることは分かっている。それでも今の毎日が
「だから私、今は冒険者になって良かったなって思ってます。こうして
私は顔を上げトゥエルに向かって照れ笑いを浮かべた。トゥエルは一瞬、
そして今度は私がオウム返しをする。
「トゥエルはどうして冒険者に? トゥエルならこんな危険な事をしなくても生きていけるのではないですか?」
「そうね。理由は簡単ですわ。飽きたからよ」
「へ? 飽きた?」
「
「?」
「与えられる幸せがそれは
自分の髪を指でくるくると回しながらトゥエルは照れ隠しのようにそっぽを向いて答えた。
トゥエルの言っていることは本当で
私はトゥエルには失礼かもしれないけれど、とても真面目な考えに少なからず
カルドもそうだけれど、冒険者になるということは、みんな何かしらの覚悟や想いを
「でも、イトアにそんな一面があっただなんて。今のあなたからでは想像がつきませんわ」
この異世界では私はどのように映っているのだろう。でもこの反応からして少しは私も進歩しているのではないかと
「それに選定試験で死にそうになった時、声が聞こえたんです」
「声?」
「どうせ生きるなら命を焦がして生きろって」
「命を焦がすって……それはどんな
トゥエルは興味深い様子で横目で私の瞳に尋ねてくる。
「うーん、一瞬、一瞬を大事に生きるってことですかね……」
私は人差し指を口元に添え空を
横目で見るとトゥエルはまるで何かを思い出すかのように視線が湖から流れる雲へ移っていた。風でトゥエルの結い髪が舞いあがる。その瞳は空よりも遠くを眺めているかのようだった。
「時の流れだけは平等……響きは良いですけどまあ、そんな容易いものでもないわ。でも……あなたらしいわね」
「あはは……そうですよね」
雲から視線を降ろしたトゥエルはどこか切ない表情を浮かべたかと思うと厳しい言葉でばっさりと切り離す。「私らしい」──か。
そんな何かの歌の歌詞に出てくるような夢みたいな言葉、
でも彼女は私に視線を向けて、目を細め、口角を少しだけ上げて表情を緩めた。可憐で儚いその笑顔に私の頬は赤く染まった。
「さて、そろそろ帰るわよ。イトア」
「はい」
「……? イトア?」
(続く)
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