10 選択 [全2話]

第01話】迫られる究極の二択

〈主な登場人物〉

紬/イトア・女性〉この物語の主人公

奏多/カナタ〉主人公に想いを寄せる少年

フェテュール〉異世界の創造主

──────────


 私と奏多は下校時刻が過ぎ。黄昏たそがれ時、学校の屋上に二人、たたずんでいる。


 揺由には今日は二人で話があると伝え先に帰ってもらった。最近の奏多は私の事が絡んでくると何かと渋い顔をする揺由にどこかおびえている様子で。精一杯の笑顔を取りつくろっていた。


 きっとこの間の公園での出来事が引き金になっているのだと思う。


 あの後、揺由に引きずられていった奏多のその後を聞くのが怖くて、私は触れないようにしている。二人の無言の攻防戦こうぼうせんの中、なんとか最後には彼女はしぶしぶと承諾しょうだくしてくれ、私はそんな二人の様子に苦笑いを浮かべ揺由を見送った。


 現実世界では、陽がかげる時間が徐々に早くなり、夜に近づくほど風は心なしか冷たさを増していく。


 筋雲すじくも茜色あかねいろに染めた空。もうすぐ季節は夏の終わりを告げようとしていた。私はフェンスを握り屋上から見える景色を眺め、奏多は私とは逆にフェンスを背もたれにして空をあおいでいる。


 二人の間に会話はない。

 私と奏多は昨晩の出来事を回顧かいこしていた。



──回想


 私はいつものように異世界に行く為うなじにある紋章を触った。でも目を開けるとそこはいつもの場所ではなくて──。


 真っ暗な空間の中、一か所だけスポットライトを浴びた場所。そこには丸いテーブルと三脚の椅子だけが用意されていた。既に先客が座っている。


 一人は異世界の創造主であるフェテュール。

 そしてもう一人は奏多だった。


「紬ちゃん、お久しぶり~元気にしてた? っていうかいつも天から見てたんだけどねっ」


 私に向かってウインクを投げかける創造主は相変わらず軽いノリで。私はその天真爛漫てんしんらんまんな姿に相変わらずだなと苦笑する。それにしても初めて会ってから既に半年以上も過ぎている。


 久しぶりすぎて名前すら忘れそうになっている自分がいた。彼女は初めて出会った頃と同じように淡い桃色の瞳を潤ませ可愛らしい顔で私を見つめてきた。


「なんか、二人ともなかなか私の世界で楽しんでくれてるみたいじゃなーい? 私としては嬉しいな」


 創造主が今度は奏多の方に視線を移す。


 奏多はというとフェテュールの意味ありげな言葉に動じる様子もなく笑顔で答えていた。一方で全てを見られている……と思うと私は一瞬にして顔を赤らめた。


 だって、あんなことやこんなことまで見られているわけで。まともじゃないけど奏多の顔が今は直視できない。はずかしめにさらされているようなものだ。


 フェテュールは含み笑いを受かべながら上機嫌でテーブルに両手で頬杖を突き笑顔を零していた。そして私に「とりあえず紬ちゃんも席に座ってちょうだい」と席にうながす。


 私は顔を真っ赤にしながら席に座ると彼女は背筋を伸ばし頬杖から指を組み話を切り出してきた。


「二人とも、もうお友達みたいだから今日は二人一緒にここに呼んじゃった。それでね、今日は二人に大事な話しがあるの」


「大事な……話し⁉」

 私はごくりと喉を鳴らす。


「あのね、もう少しで力の有効期限の一年が立つでしょう? それからの話をしようと思って」


 私と奏多はお互いの顔を見合わせた。

 続けてフェテュールは話を続ける。


「力の有効期限が過ぎる時、二つの選択肢があるの」

「二つ……?」


「そう、異世界に残るか、現実世界に残るか二人に選択させてあげる」

「「──⁉」」

「二人は私の想像以上に楽しませてくれたから。まあ、お礼?って感じかな」


 フェテュールは首をかしげニッコリと微笑んだ。

 そこへ奏多が真面目な顔で問う。


「どちらかを選んだ場合、残された世界の方ではどうなるんですか?」


 フェテュールはその言葉を待っていたかのように。そして幼女の瞳ではなく妖艶ようえんな瞳に変わり。それはまるで成熟せいじゅくした女神のごとく言葉をつなぐ。


「選ばれなかった世界でのあなた達の存在は抹消まっしょうされるわ。正確には記憶を封印する。初めから存在しなかったことに」

「…………」


 私はこの二人のやり取りを見ながら終始絶句していた。


 私が口を挟む前にどんどんと話が進んでいくのをただ二人の顔を交互に見ているだけで。混乱して頭が、心が、追いついていかない。こういう時冷静に判断していく奏多がいてくれて本当によかった。


 透かさず奏多が質問を続ける。

「僕と紬の記憶はどうなるんですか?」


「そこは心配しないで。二人の記憶には干渉しないわ」

 奏多は一瞬、安堵あんどの表情を見せた。


 フェテュールはまた幼女の顔に戻りニコリと笑う。


「だから力の有効期限が切れる前に二人にはどちらの世界を選ぶか決めておいて欲しいの。まだ時間もあるしゆっくり考えてみてねっ」


「それじゃねっ」と言うと私達の視界は変わり、気が付くと私は異世界のベッドの中で目を覚ましていた。彼女はまたあの軽いノリで去ってしまっていた。


──回想終わり


(続く)

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