第04話】-(時の間(ときのま)
〈主な登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
ユラ・女性〉主人公と同じギルドのメンバー
カナタ、エテル〉主人公に想いを寄せるギルメン
──────────
(ユラ視点)
「おいっ‼ しっかりしろっつ‼」
決して開けることのない瞳を見つめながらユラは叫んだ。今、ユラの腕の中にイトアがいる。イトアは、黒竜の尾で振り払われ宙に舞った。そして黒竜は
それは岩に亀裂が入る程の衝撃だった。
イトアの背中には四本の爪跡が深く刻まれ、そこからどくどくと血が溢れている。いや背中だけではない。岩からずるずると血の跡を残しながら地面に転がったイトア。その元へ一番早くに駆けつけたユラは絶句した。
イトアの体は、正面も見るに無残な血の海だった。全身が血に染まっていた。
目を開けないのは分かっている。それでも声を掛けずにはいられなかった。
「おいっ‼ ……起きてくれよぉ……頼む」
イトアの顔に一滴、二滴と大粒の雫が落ちていく。
「イトア―ッッ‼」
沈黙から目が覚めたカナタが血相を変えてイトアの方に向かってくる。
「くるなああああああああああっ‼」
ユラは強い口調で怒鳴った。
そしてカナタに背を向け、自分の身体全てを使ってイトアの顔が、身体が見えないように隠した。イトアの血がユラの服に染み込んでいく。「こんなイトアの姿を見せるわけにはいかない」とユラは必至だった。
「バカヤロオオオッ‼ まだヤツ(黒竜)は生きてるんだっ‼ こっちじゃないだろっ‼」
さらに
「そうだカナタ‼ 早く戻れええっ‼」
カルドが近寄り
ユラの周りには、イトアと同じく黒竜の
そう、イトアの傷が一番深かったのだ。
そしてユラには分かっていた。
──イトアが事切れていることを。
自分が羽織っていたローブをイトアの頭から足までその身体が見えないように被せた。そして近くにいる仲間から、歩ける程になるまでの簡易治癒を順に
時折、イトアの方に目を向けてはその存在を確認する。
「ギャオオオアアアアオオオオアアアオオオオオオアアアアアァァァ‼」
少し離れた場所から地響きと共に黒竜の断末魔が聞こえた。今回の討伐は負傷者が多い。戦闘が終わると他の
黒竜は無事討伐。負傷者多数、死者一名。これが今回の討伐結果となった。
「ユラッ! そっちの状況はどうだ⁉」
傷だらけのカルドが息を切らしながらユラの元に駆けてきた。
「こっちはおおかた終わった。後は宿舎でだな……早くイトアを『時の間(ときのま)』に連れて行ってやりたい」
「ああ……そうだな。急いで
─────
『時の間』
そこは死者を蘇生することができる聖域。
世界に数カ所点在している。
今回、イトアは王都の城の中にある「時の間」につれていかれる。「時の間」には部屋全体に複雑に描かれた大きな魔法陣がある。
その陣の中心に死者を寝かせる。すると死者の体は浮き上がり、記憶はそのままに肉体だけ生きていた時間まで巻き戻すことができるのだ。
しかし、だからといってすぐに目を覚ますことはない。この時点では、鼓動は戻るが傷はそのままだからだ。
この状態の者への治癒魔法は効かない。鼓動の復帰と肉体の
傷は何もしなくても少しずつ回復していく。傷が回復するのに必要な時間は、その
今回のイトアの状態をみるとざっと五日はかかるだろう、とユラは思った。通常ほとんどの場合、一~二日もあれば回復し目を覚ますことが多い。それほどまでにイトアの
─────
討伐後エテルとカナタが血相を変えてイトアの元へ
重傷を負ったエテルは
「「イトアはっ‼」」
「……ああ、時の間につれていく」
ユラからの言葉にエテルは
エテルは立ち上がり
「死者が運ばれる場所だ」
「──っ‼」
カナタの顔から一気に血の気が引いていく。
一点を見つめながら小刻みに手が震えていた。
「そんな……くそっ。守れなかった。イトアは……生き返るんですよね?」
顔の半分を右手で覆いながら今までみたことのない悪態と悔しさの感情を表にだすカナタ。
「ああ、イトアは一度目だからな」
冷静にユラが答えた。
「……どこですか?」
ユラは何も言わず、ただ静かに自分のローブでイトアの全身を包んだ方向に視線を移す。そこには既にエテルが立っていた。ローブをめくろうとする。
「エテル、見るんじゃねええええええええええっ‼」
ユラの
「……僕が時の間につれていく」
そのユラの様子を見ながら瞳の色を消したエテルが口を開いた。
「いえ、……僕がつれていきます」
しかし、二人の元に近づき強い
「経験の浅い君に出来ることは無い……ひっこんでろっ‼」
始めは冷静に徹するも一転して怒りと苦痛で顔をひきつらせカナタをあしらおうとするエテル。
「そんなの関係ないですよ。彼女は僕にとってもう……大切な存在なんです……誰にも触らせたくない」
カナタも食い下がらない。普段のカナタからでは想像出来ない程の気迫。絶対に譲らないという強い意志を全身から漂わせている。
「僕が連れていくと言ってるんだっ‼ ……二度も言わせるなっ‼」
その悲しみと悔しさの感情に身を任せ、エテルはカナタの胸ぐらを
「……その傷でどうやって連れていくんですか?」
負傷したエテルに向かって、カナタが
カナタは胸ぐらを掴まれたまま、
「くっ……」
「…………」
二人は向かい合ったまま顔を
─────
ほんの少し前まで彼女は生きていたのに。
助けたはずなのに。
……助けられなかった、と。
─────
いくら
こんな時に……。
ユラは苛立ちがこみ上げていた。今にも爆発しそうだった──その時。
(続く)
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