第02話】-(初めての上級魔法
〈主な登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
カナタ・男性〉ギルメン、主人公と同期
その他ギルメン〉ユラ、エテル、カルド、フルーヴ
──────────
(客観的視点 続き)
三人から少し離れた暗闇から、カンッカンッと剣の
するとそこには、これまでの
「なんか、違うのがいるんですけどぉおお‼」
「
新手の登場にイトアは発狂に近い声をあげ動揺で二、三歩後退りし詠唱が途切れた。同じくしてユラも目を細めながらその
「僕が他のやつら《死霊》はひきつけますから、エテルがカタをつけるまで二人は踏ん張ってください!」
交戦しながらカナタがイトア達の方に振り向き指示を出した。
鎧の
容赦なくエテルの腹部、心臓、急所目がけてその切っ先を向けてくる。その素早い動きにエテルは
「……くっ」
その
一方、カナタとユラ、イトアはジリジリと
──『
ユラが頭上に手を
「思った以上に数が多いな……。とりあえずはシールド内にこいつら入ってこれないからっ‼」
ユラが汗を
ユラは手を掲げたまま、魔力を注ぎそのシールドの強度を高めていく。それでも破られるまでの時間は短い。
シールドは時間が経過すると共に小さく範囲を縮めていった。三人は背中を合わすような体制で後ずさりしながらシールドの中央に追いやられていく。
──敵の方が優勢に傾きつつあった。
「うっっ……」
「カナタ‼ 大丈夫⁉」
カナタが歯を食いしばり苦しげな表情を浮かべ悟った。イトアの魔法と自分とではさすがにさばききれない数だ、と。
「エテル、急いでくださいっ‼ 僕達もそろそろ受け止めきれそうにないです!」
「すぐそっちに行くっ‼」
まさかこんなに手こずるとは……。
エテルは苛立っていた。剣を持つ手にさらに力がこもる。
その頃イトアは魔法を放ちながら
「……あ」
間抜けな声と共に何かを
「ユラ、初めて使う魔法なんだけど……やっちゃってもいいかな?」
「この状況でっ⁉ それ大丈夫なのか⁉」
「……上手くいけば」
「……」
一瞬顔をひきつらせたユラだったが、このままでは形成を逆転する事など出来るはずもなく。
「あ─もうっ、分かったよ!」
イトアは
「えっ⁉ イトア……何か無茶な事試そうとしてませんか⁉」
「……(詠唱中)」
その変化にカナタも気が付く。
そしてイトアの詠唱が終わり準備が整った。──が放とうとしない。かざした手を小刻みに震わせ顔を
「イトアっ! 迷うなっ! やるならやれっ‼」
「心配ですけど……ここまできたら仕方ないですね! 後はなんとかしますからっ」
二人の呼び声がイトアの背中を押す。イトアはユラと目を合わすと、覚悟を決めた瞳で無言で
──『
光の上級魔法。それまで暗黙だった空全体に雲が晴れ大きな魔法陣が浮かび上がった。その魔法陣は辺り一面を神々しく照らす。そして魔法陣の中から
強烈な光に
「うおおおおおおおおおおっ‼」
エテルは、光に
鎧ごと腹部を切り裂かれた
──討伐完了。
「や……やった⁉」
イトアはその場にぐにゃりとへたり込んだ。一気に緊張の糸が
「皆、大丈夫⁉ ごめんごめん、あんなヤツがいるなんて」
エテルが剣を元の大きさに戻し、三人の元へ駆け寄ってくる。
「なんとか~」
「はあい……」
魔法を解除したユラが体をふらふらさせながら手を振って合図をする。イトアも座り込んだまま返事を返した。
「簡単な討伐ではなかったですね」
カナタは
イトアに怪我はなかったが。
「なんか、魔力を使い果たしたみたいで、立てないみたいです……」
またしても涙目になりながら情けない表情を浮かべ
「こんなところでいきなり上級魔法を使うからですよ。全く」
「ひやひやさせんなよ~。それにしても意外と挑戦者だな、イトア」
ユラはイトアの無鉄砲な一面に呆れた顔で笑う。カナタはやれやれとイトアの方に手を伸ばそうとしていた。しかしその手が届くことはなく──。
その前にイトアは、エテルの腕の中にすっぽりと包まれていた。エテルはひょいとイトアの体を持ちあげ、いわゆる「お姫様抱っこ」をしていた。
「ひやぁっ‼」
「──なっ‼」
大赤面のイトア。目の前で起こった出来事にカナタが言葉にならない声を漏らす。そんな二人の様子を
「イトアありがとう。今回はイトアが大活躍だね。でもあんな上級魔法、急に使っちゃだめだよ。イトアはまだ体が慣れていないのだから。僕がこのまま連れて帰ってあげるから安心して」
エテルは、イトアに向けて微笑みかけた。暗いとはいえ至近距離からのエテルの顔をまともに見られないでいるイトアが
「い……いぇ。たまたま上手くいったていうか、その……」
「上手にできていたよ……ちゅっ」
「──っ⁉」
するとエテルはイトアの頬に軽く口づけをした。その突然の出来事に口をわなわなとするイトア。口づけされた頬に手を当て固まっている。
「ご
エテルは満面の笑みでイトアの瞳を見つめていた。ユラはその様子を見て口を引きつらせる。
「お前なぁ……こんな時に手だすか?」
「──ちょ、ちょっと‼」
そしてまたもやカナタが言葉にならない声を漏らした。
「さぁ、倒したことだし帰ろうか」
二人のことなど
「おいっ! 私もへとへとだぞっ! しかも歩くのはやっ」
片手を上げながらぞんざいな扱いにユラが抗議する。
「(ぼそっ)ちっ……あんな真似……」
いつも平常心なカナタには珍しく小声で悪態をついていた。最後尾で頭の後ろに手を組み歩いていたユラが三人を見ながら小さく
「こりゃあ……波乱の予感がするな」
こうしてイトアは「お姫様抱っこ」という
「あれ⁉ ちょっと手こずったか? というかイトアはなんでそんな状態なんだ⁉」
「あ、え、えっと……魔力を消費しすぎて歩けなくなってしまって……」
未だお姫様抱っこされたままのイトアは、顔を赤らめ
「お姫様を連れて帰ってきただけだよ?」
エテルがカナタの方をチラリと見ながら冗談交じりに言うと満足気に笑みを零した。
「──っ‼」
それを見たカナタがまたもや
フルーヴはイトアが上級魔法に成功したことを聞くと「良い子良い子」と子供にするように無言で頭を撫でた。
「ははは……フルーヴありがとうございます」
さらにイトアは
「でも……身体を慣らしてからじゃないと……ダメ。身体が……壊れる」
フルーヴはイトアを
(初めての実践[死霊討伐編] 終わり)
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