第06話】蒼
〈登場人物〉
紬/イトア・女性〉この物語の主人公
カルド・男性〉ギルドマスター
カナタ・男性〉主人公と同じギルドのメンバー
──────────
現実世界での四時間は、異世界では一日の長さに相当した。つまり私は日中、学校へ登校し、夜は異世界で一日過ごすことが出来た。
異世界に行っている間、自分の体はどうなっているのか不安があったけれど、母曰く部屋で大人しく眠っているそうだ。
さすがに姿が見えなくなってしまったら大騒ぎになってしまう。なんだかよく分からないけれどその辺りはあの創造主が上手くやってくれているようだ。
──異世界
光の魔法の具現化に成功し少しずつコツを掴めてきた私は、中級程度の魔法ならなんとか具現化するところまで成長した。
そしてカルドから「イトアもこれから冒険者として生きていくのなら、ちょうど選定試験のできる街にいることだし、まだ試験まで時間もあるからカナタと共に試験を受けてほしい」と告げられ、今まさに選定試験の勉強中である。
試験は座学と実技の総合スコアから合否が決まるらしい。まさか異世界でも試験勉強をする羽目になるなんて……。
「うぐぐ……」
私は
「イトア、聞いてます?」
そんな
「あ、ごめんっ」
私は我に返り肩を揺らす。
元々この世界について何も知らなかった私にとって座学はなかなかの曲者で、こうしてカナタの時間が空いている時に教えてもらっている。
いつの間にかカナタにも気作に話すようになっていた。両手で頬杖をつき、ぶぅと頬を膨らませながら私はカナタに尋ねた。
「カナタはすごいよね。私と同じくらいに座学を始めたのにもう覚えているし。何か覚えるコツとかあるの?」
「うーん。だいたい昔から本は二回くらい読むと頭に入るので、そんなに苦労したことないですね」
そう満面の笑みで答えてくれた。
「あはは……そうなんだ」
私は空笑いで受け止めた。
私の現実世界での成績は、
私だってこれがゲームのことならすぐ覚えるのになあ。というか今ゲームの世界にいるようなものだった。あはは……。
なんて考えていると。コツッと頭に軽い衝撃が。
カナタに頭を軽く
「ほら、またよそ見していますよ」
カナタは眉をひそめ少しむすっとした顔で私の顔を
それは置いておいて。
──ち、近い⁉ 私の顔のすぐ隣にカナタの顔がある。
私達は隣同士に座って勉強を教えて貰っている。確かに同じ目線で教えてもらった方が分かりやすいんだけれども。カナタの肩が
男性慣れしていない私にとっては
でもそれだけ一生懸命カナタは教えてくれているわけで。私は時々頬を染め上げながら勉強に
「うぅ……もう頭が一杯一杯で破裂しそぅ…… ちょっと休憩を……」
頭に手を置きこの世の終わりのような表情をして
「そうですね。気分転換が必要ですね」
私は色々な意味の開放感から目を見開いた。
「嬉しいっ! 私何か飲み物を持ってくるね‼」
「あ、ちょっと待って下さい。気分転換に試してみたいことがあるんです。少し付き合ってもらえませんか?」
私の言葉を
「うん! 何?」
「実は僕も少しだけ魔法を覚えたんです。どうも僕、風の加護が強いようでこれだけしか使えないんですけど……」
そう言うとカナタは私に近づき右手を握ってきた。
「──っ⁉」
思わず声が漏れそうだった。
動揺を隠しきれない私はカナタの成すがままに連れていかれる。テーブルから少し離れた場所に行くとカナタは詠唱を始めた。
次の瞬間。
ふわっとした感覚が私を襲う。これは、飛行機で離脱する時のあの感覚に似ている。足元に視線を落とすと。足が地面から離れている。
「わわっ⁉ う……浮いてる⁉」
「風の魔法です。もう少し上に上がってみてもいいですか?」
「う……うん。大丈夫……だと思う」
「じゃあ、行きますね。落としたらいけないので失礼します」
そう丁寧に告げるとカナタは私の左手も握ってきた。宙に浮いている私。さらには両手を
私達の身体は向かい合い両手を
「ひゃぁ⁉」と声にだす私。それに反応してカナタは「これ以上は危ないのでここまでで」と言うと上昇が止まった。
私はカナタの手のひらから伝わる体温に完全に反応して赤面していた。落としてはいけないと思ってカナタはぎゅっと握っていてくれている。私がモゾモゾしている事に気がついたカナタは私の身体を案ずる言葉を掛けてくれる。
「あっ! 高くまで上がりすぎましたか? 気分でも悪いですか?」
「う……ううん。違うの」
私は意を決してさらに顔を真っ赤に染め上げて目を
「わ、私、その……今まで男の人と手とか
そう、異世界二日目にして早速エテルと手を
「あ」
カナタが一瞬固まる。
次に慌てふためきながら
「ご、ごめんなさいっそんなつもりはなくて……あ、手離しましょうか⁉」
「え」
今度は私が固まった。
「……今、手離したら私死んじゃうよ」
見つめ合う二人。
そしてお互い爆笑。
「そうですよね。今離したら……クク」
無邪気で子供みたいに笑う、初めて見た顔。
「そうだよ。カナタ、酷いよ」
私はこのやり取りのお陰ですっかり緊張が
「でも是非イトアにこの景色を見てもらいたくて。少しでもいいので眺めて貰えませんか?」
「うん」
自然と笑みが零れる。
私はふわふわとした感覚の中で辺りを一望した。私達は、もう宿舎全体を見渡せるくらいの高さにまで上昇していた。街の遠くにある噴水や建物が
私がいるこの王都は周辺を森に囲まれた中にポツンと存在している。エテルが連れていってくれた高台からの景色とはまた違い、上空から見える景色はとても勇大だった。
「すごく綺麗……」
そんなありきたりな言葉しか口に出来なかった。こんな少しだけ高い場所なのに空気がずっと澄んでいる。風が心地いい。私はふと空を
「わわっ⁉」
カナタが目を丸くして動揺している。私が身体を回転させると自然とカナタも空が見えるように
─────
銀髪が天高く舞い私の視界を遮る。
見上げた空は、どこまでも青くて広くて。
風を背中に受けてまるで鳥になった気分だ。
離した右手を天に
雲一つない空。
この広い青を掴み取る事は出来ない。
そしてまるで私の瞳が蒼色に染まっていくように瞳一杯に広がっていく。
私が今まで見ていた世界にこんな青、あっただろうか。
エテルと出会い人の温かさが蘇った。
初めて
そして今度は私の心に青い澄みきった色が蘇っていくようだった。
──世界はこんなにも綺麗だったんだね。このまま溶けてしまっても構わない。
私は目を細め微笑む。
─────
「ふふ。気分転換になりましたか?」
カナタの言葉でハッと我に返った。
気がつくと私は瞳を閉じ大きく深呼吸をしていた。横を向くと前髪で隠れていたカナタの
「うん……久しぶりにこんなに空を見上げたよ。私、なんだか泣きそうになっちゃった。
「可笑しくなんてないですよ。僕も随分久しぶりです」
「ありがとうカナタ」
私はちゃんと微笑んでいられただろうか。そしてまた空を
瞳が重なった時、カナタは何故か一瞬目を
「僕の方こそ」
「なんで、カナタがお礼を言うの?」
「秘密……です」
そうして体制を戻すとゆっくりと下降していった。地面に足が着くとその反動で私の長髪が舞い上がった。髪はカナタの顔の前にまでふわりと舞い、カナタはその髪をそっと手のひらに乗せやさしくなぞった。
「な……っ⁉」
言葉にならない音。
私は耳まで一気に熱を帯びる。
「あ、ごめんなさいっ‼ イトアの髪、光が当たるときらきら光って綺麗だからつい……」
「う……うん⁉」
私はちぐはぐな返事をする。
自分の髪を褒められた事なんて初めてだし。まごついてしまう。それにこの姿は異世界での私の姿。ふと
「さあ、続きをしますよ」
そんな私の気持ちを
頬の
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