27.リエリの思惑
馬車の爆破事件でそれどころでは無くなった為に謁見は明日に持ち越された。今日はイスパハル城に泊めてもらえることになりサザは来賓用の客室に案内された。
ユタカは事件の報告と調査の為に出かけている。きっと夜遅くなるだろう。豪華な天蓋付きの一人ベッドに寝転がって、サザはため息をついた。
リエリには、絶対に感づかれた。目の前でサザの行動を見られたのだから誤魔化しようがない。
それに、きっとリエリはユタカから直接事情を聞かれている筈だ。サザはとっさに嘘をついたがその不可解な行動のこともきっと話すだろう。
(でもあの場でリエリを見捨てて自分だけが生き残る選択肢は私には無かった。どうしようもなかったんだ)
謁見が延びたせいでまだ真実の誓いを交わしていないため、サザは今暗殺者だとばれても死刑にならずには済む。しかし、少なくとももうユタカとは一緒にいられないだろう。
これ以上ユタカを守る事は出来なくなってしまう。サザはそれが心残りでならなかった。
「サザ様」
ドアを叩く音がする。女性の声だ。
「どなたですか?」
「リエリ・キャラハンです。お話があって来ました」
(そうだよな……)
サザは深呼吸をするとドアの鍵を開けた。そこには思い詰めた表情のリエリが立っていた。
サザはユタカに気遣われて事件の後はずっとこの部屋にいたが、近衛兵はその後、皆調査に駆り出されたはずだ。遅くまでずっと働いていたのだろう。
リエリは髪が汗で湿っていて、目の下に少しくまがある。
軍服はサザと地面に倒れた時に汚れたのか、群青色の上下が白っぽく汚れている。サザは部屋にリエリを入れ備え付けの椅子に座ってもらった。
「サザ様。夜分遅くに、失礼します。少佐はまだ軍の上層部の方々と今日のことについてお話されてるようですから、戻られるのは夜半過ぎになると思います。先程まで陛下とアトレイド少佐に呼ばれて、今日の出来事についての事情を説明していました」
「遅くまで、ありがとう」
「しかし、私はまだサザ様の事は一切お話ししていません」
「えっ」
サザは驚いて思わず声を上げた。
「私はサザ様が私を助けたのを隠された事に何か大切なご事情があると思ったのです。私はサザ様に命を救われました。直接お話をお聞きするまでは他の誰にも話さないでおきました」
サザはリエリの律儀さに涙が出そうになって俯いた。
「……リエリ、ありがとう」
「でも、どうか私には、訳をお話頂けませんか? 私は恥ずかしながら、あの攻撃を全く予測できませんでした。並大抵の鍛錬では無理でしょう。サザ様は本当はどなたなのか、教えてもらえませんか」
「……分かった」
サザはリエリの真摯な行動に、彼女にはもう真実を隠しておくべきでは無いと思った。それにサザの行動を見られているのだ。もう既にばれているようなものなのだし、彼女の姿勢にサザがきちんと応えるべきだ。
「私は本当は、暗殺者なの」
「……まさか」
リエリは予想外の答えに表情を強張らせて俯いたが、すぐに顔を上げて真っ直ぐサザを見た。
「お話を、聞かせて下さい」
サザはカーモスの暗殺組織をカズラとアンゼリカと抜け出して来てイスパハルで暮らし始めたこと、森での本当の出来事、サザがユタカを負傷させて激しく後悔したこと、暗殺者からユタカを守りたいと思っていることも、全てをリエリに話した。
リエリは真剣な表情で最後まで話を聞いてくれた。
「リエリ。今話したことを領主様に報告して。さっきの調査では私に口止めされて仕方なく嘘をついたと言えば問題ないよ。そうすればリエリは私のことを隠蔽した罪にはならないから」
「いえ。私はこのままサザ様の事は隠しておきます」
サザは思っても無いリエリの答えに驚愕した。
「そんな、私のことを暗殺者と知ってて隠してるのがばれたら、リエリも大変なことになるんだよ⁉︎ 近衛兵もクビになる」
「そうです。でも、私はお話を聞いてサザ様が今までやってきたことが間違ってるなんてとても思えませんでした。私は他のイスパハルの大多数の人と同じように、暗殺者に対して強い反感を持っていましたが、サザ様は憎まれるべき暗殺者ではありません。これでサザ様が罰せられるなら、法の方が間違っていると思います」
リエリはきっぱりと言った。
「……」
「それに、アトレイド少佐をお守りしたいのは私も同じです。森の事件に続き、今日の事件もサザ様のお陰で誰も被害を受けずに済みました。少佐をお守りするにはサザ様の力がなければいけません。サザ様のことは絶対に誰にも言いませんから、陰ながら、協力させて下さい」
「ありがとう」
サザは思いがけないリエリの言葉に思わず涙が溢れ、また俯いた。
「どうぞお顔をお上げ下さい。私は今日からいつでも、サザ様の味方でいます。もうすぐ少佐が戻られると思いますので、私はこれで失礼しますね」
リエリはにこりと微笑むと椅子から立ち上がり、丁重におじぎをすると、部屋を出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます