第36話

 彼女達は僕が部屋に着くまで、それはそれは辛い思いをされていたらしい。


 凍える程に居心地の悪い空間とは…?

 

 なんというキングハラスメントだ!



「しかし、カガワ殿は本当にメロメロだったのですね。あの時は、いったいどうなる事かと肝を冷やしました。」


 カティアさんが訳の分からない事を仰られている。


「何故ですか?そんな筈ないでしょう。王女姉妹と会ったのは今日で4回目ですよ?」


「「えっ?」」


 まったく、人を惚れやすい男と思わないで欲しいものだ。


「で、では何故?メロメロである事を否定された時は、水晶の色は変わったではありませんか!カガワ殿も見た筈です。あの水晶は嘘を答えれば色が変わるのですよ?」

 

 ユリスさんが問うて来る。


「あぁ、あれですか?あの水晶は結構いい加減な物でしたよ?王妃様が最初に質問された事を覚えていますか?」


「確かロザリーに虐げられていますか?でしたか?」


「そうです。確かに時計も蝋燭も用意されていませんでしたし、彼女は起こしてさえくれませんでした。言葉使いも上からでしたし、他人から見れば虐げられていると言われても間違っていないのでしょうね。ですが……」


「ですが、何ですか?」


「僕は敬われるような人間ではありませんし、そのような雑な扱いを受けても仕方ないのかな?と思っているだけですよ?虐げられているのではなく、当然の扱いを受けていると思っているので。ステータスも低いですしね。それで否と答えただけです。」


「「…………。」」


 気持ちや考え方さえブレ無ければ反応しないウソ発見機など、ただの玩具だ。


「次にされた質問も同じ事です。僕は彼女を庇ったのではなく、彼女への質問を遮っただけです。否と答えても嘘にならないでしょう?」


 ただの屁理屈でもあるが…。


「…メロメロ、メロメロは?」


「そうです、メロメロはどうなんですか?」


 何という国だろうか?


 いや、世界がおかしいのか?


 王族から近衛騎士に宮廷魔導士まで、


 年頃の娘さんがメロメロメロメロと…。


「最後の質問は只の事実確認です。嘘を見抜くようなものではなかったのですよ。」


「それは、どういう意味ですか?」


 ユリスさんが不思議そうにしている。


「僕は昨日、あなた方と国の最高権力者の前で宣言したではありませんか。」


「「?」」

  

「簡単な事じゃないですか?この国の王族全員が、僕がユーリ様とセレス様に対してメロメロであると一度認めているんですよ?それがメイド達の噂程度で覆るとでも?」


「いや、ですがカガワ殿のお気持ちは…」


「気持ちなどは関係ないでしょう?権力者がメロメロであれというのなら、いつでも僕はメロメロなのです。」


 地球の、ましてや日本人にとって本音と建前を分ける事など日常茶飯事なのだから。


 カティアさんとユリスさんが何故か心配そうにされている。


「重要なのは王族が一度でも認めたという事実と、そうであれと期待しているという事実です。あの場でキングや姉妹は言うまでもなく、王妃様ですらメロメロなんですね?と念押しで問いかけて来ました。権力者が黒だと言えば、白い物でも黒くなるんです。それを理解している僕が、どんな返事をしても問題が起こる筈がないでしょう?」


「「…………。」」



 今度こそ、お二人は黙り込んでしまった。


 長いものには巻かれておく、それが僕の処世術だ。


「すみません、何か気分を害してしまったようで。」


「いいえ、私達で何か力になれる事があれば、どんな事でも申し付けて下さい。」


 カティアさんが力なく答えてくれる。


「はい、ありがとうございます。」



 異世界よ、僕は何故同情されてしまったのだろか?

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