第34話

 異世界は夕食という名の詰問会があるらしい。


 まぁ、予想していたけれど。



「ロザリー、答えられないのですか?」


「すみません。おそらく彼女は伝えようとしたんだと思うんですが、僕が色々と話しかけたりお願いをしてしまってタイミングを逃してしまったんだと思われます。」


 ロザリー様を責めようとする魔王様を遮る。


 しかし猛攻は続く、


「彼女は貴方の部屋に時計や蝋燭を用意していなかったと聞いています。決められた時間に起こしに行ってすらいなかったのでは?」


「決められたルーティン、生活習慣を身に付け体内時計を調整して自分で起きるのは世界が違えど当然の事でしょう?誰かに起こして貰わなければ起きられない、時計を見なければ動けないなどといった教育は受けておりません。」


「なるほど。あくまでも彼女を庇うと仰るのですね?ならば私にも考えがあります。ロゼ、持って来なさい。」


 大魔王は美しいロゼさんから水晶のような物を受け取り、こちらに差し出す。


「こちらに触れてから私の質問に答えて下さい。」


 僕は水晶に触れ邪神と目を合わす。


「宜しい。では問います。貴方はロザリーに虐げられていましたね?」


「いいえ。そんな事実はございません。」


 我が敬愛するロザリー様はそんな事はしない。


「………貴方はロザリーを庇っているのですよね?」


「いいえ。そんな事はしておりません。」


 僕は邪神から遮っただけだ。


「……………では、ここに来て先程までの質問に1度でも嘘を答えましたね?」


「いいえ。何故でしょうか?先程から質問の意図が分かりませんが。」


 当然だ。嘘を答える必要がない。


 ジャパニーズサラリーマン予備軍に打ち勝てるロザリー様に対して、僕は絶対の自信を持っている。


 水晶は持たされた時のまま何の反応もない。


 嘘でもつけば反応するのだろうか?


 しかし、なんと居心地の悪い空気だろうか?


 だが邪神は淘汰され大魔王くらいに格下げにはなったようだ。


「ごめんなさいね、ロザリー。」


「い、いえ、とんでもない事でございます。」


 幾分か柔らかくなった大魔王様がロザリー様に謝罪されておられる。



 これにて一件落着か、そう思っていると更なる爆弾が投下される


「カガワ様、メイド達の間でカガワ様が娘達にメロメロだというのは嘘だという噂が流れているようなのですが、お心当たりは?」


「いえ、心当たりなどありません。いったい、誰がそんな心無い事を言い出したのですか?」


「そこのロザリーです。」


 ホワーイ?


 ロザリー様だった。


 後ろにいる彼女の表情は分からない。


「では、カガワ様。はっきりさせましょう、貴方は本当にユーリとセレスにメロメロなんですね?」


 辺りに緊張が走る。


 カティアさんもユリスさんも青ざめて震えている。


 最早キングは気を失っておられるのではなかろうか?


 ユーリ様とセレス様は期待した表情、美しいロゼさんの表情からは何も読み取れない。


 大魔王ブリザードクイーンは無表情だ。


 でも大丈夫、僕は簡単には死なぬよ同志達。


 それに昨日、宣言しておいたじゃないか。


「いいえ、全然、まったく、これっぽっちもメロメロではございません。」


「「「「「……………」」」」」


 同志達の息を呑む音が聞こえる。


 そして水晶は真っ赤になっていた。


 やはり、思った通りの物だったか。



 気付けば室内には春が訪れ、


 僕の前には、それはもう優しい表情のパオラ王妃様が微笑んでおられた。

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