第32話
カティアさんは少し急用が出来たそうで、訓練を抜けるそうだ。
さすがに騎士団長様は忙しいご様子。
僕が次に向かったのは水沢や長岡、エルトさんのところだ。
何故なら横手と八戸は宿舎の2階なので昼食の後で周りやすいのだ。
水沢が2メートル程の槍を悠々と振り回している。
彼女も盾を持っているので槍は片手だ。
ファンタジー極まってる。
長岡もざっと50メートルほどだろうか、弓で軽く的に当てている。
弓道って20メートルくらいじゃなかったのか?
2人は勝ち誇った顔で僕の方を見ているが悔しくはない。
だって僕は武器を持てないのだ。
このままだと荷物持ちすら出来ない、文字通りの荷物ですらあり得る。
すいません、この世界にパワーレベリングという概念はありませんか?
昼になったので水沢・長岡と3人で兵舎へ向かう。
「2日そこらで、あんなに動けるようになるの?勇者補正入ってる?」
「入ってるんじゃない?中学の薙刀術を習ってた時と身体の動きが違い過ぎて戸惑ってるくらいだし。」
「うん、矢が外れる気がしないし。何本でも当たる気がする。身体も疲れない。」
やはり一般人は僕だけなのか?
今日の昼食も味付けが違うだけで似たようなメニューだった。
だが、大変美味しゅうございました。
午後からは兵舎の2階へ顔を出す。
サボっている訳ではないと、僕自身に言い訳をする。
また後で走るのだ。
ユリスさんと横手が魔法の概念について勉強していた。
化学式や原子論は存在しないようだが、マナやらオドやら精霊やら言っていた気がする。
悲しいかな、化学式や原子論が頭に入っていない横手には有効なスピリチュアル理論かも知れない。
最後に八戸の元へ。
神官さんから白魔法を習っているのだったろうか?
教えられた部屋にノックして入ると、何とカインさんの治療中だった。
You、ここにいたのかい?
聞いていた通り既に回復魔法を使えるようで、羨ましファンタジー。
八戸の表情を見る限りでは、落ち着いているように見えるし問題はなさそうで良かった。
カインさんの表情は至福に満たされている。
随分と探し回ったのだが………。
静かに部屋を出て僕は走り出した。
ゆっくりと考えをまとめながら。
元々の才能や技術に寄るところも大きいのだろうが、成長補正はスキルによる物と見て間違いないだろう。
疲れないと言っていた身体能力はステータスに依存する物だ。
あれでレベル1なのだから恐れ入る。
厄災までにレベリングも考えられているのだろうか?
まさかレベル1で挑む事は考えられないし、何処かで実戦は積ませて貰えるのだろうが。
横手の魔法の試し撃ちもあるのだろうし、ぶっつけ本番だと彼女の魔法に巻き込まれる未来しか見えない。
そして僕は戦闘に参加出来るのだろうか?
取得経験値10倍なんて上等な物を持ちながらも指輪しか装備出来ないなんて…。
何か装備者に恩恵のある指輪がないか、今晩あたりユリスさんに聞いてみようか。
などと考えている内に、気付けば訓練場の入り口辺りを走っていたようだ。
緊急の案件から戻られた我が同志、カティアの姿が見える。
「お疲れ様です。おかえりなさい。」
「ええ、只今戻りました。無事に王室のブリザードは解除され、シリウス様も何とか復調されました。」
「それは朗報ですね。いやぁ、心配していたんです。」
「つきましては、本日の夕食は一緒に取るようにとのことです。いいですか?私は伝えましたよ?」
「死刑宣告ですか?」
異世界よ、お前もか?
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