第42話 体育祭なんてやってる場合か05
体育祭当日。
「うし」
とりあえず体操服に着替えて鉢巻きを巻く。
僕らのクラスは赤組。
気合い十分なクラスメイトたちを見やりながらお茶を飲む。
「司馬!」
四谷が声をかけてくる。
「百メートル走」
「おおう」
「応援してくれるし?」
「してくれるし」
「じゃあ頑張る!」
「いいことだ」
ラピスは例外として、四谷も運動は得意だ。
パンと
スタート。
ダッシュ。
十秒後。
四谷は一等賞を取った。
「ブイ!」
こっちを見て朗らかに勝利のサイン。
どうにも嬉しそうだ。
一等賞を取ったからか……って言ったら久遠にはたかれた。
「ほい」
冷えたタオルを放り投げて、お茶の入ったカップを渡す。
「おお。冷た……」
熱を持つ体温を冷やすタオルと冷茶。
「御苦労様」
クラスメイトのフォローに回るのも悪くはない。
実際に現存欠席の僕と違って、四谷はチームに貢献しているので、比較できるレベルですらないだろう。
「どうだったし?」
「格好良かった」
「乙女の評じゃないよ!」
「ギャル?」
「今風なだけだし!」
「まぁねぇ」
茶を飲む。
よく冷えていて、とても心地よい……というのも愛妹の差配だから文句の付けようもないわけで……なんだかなぁ。
「久遠は?」
「パン食い競争の準備中。ほらあそこ。見えるでしょ?」
お茶を飲んで汗を拭くと、「どうも」とタオルとカップを返される。
「司馬さんは?」
「さて何処でしょう?」
僕も知らない。
ラピスも忙しいのか。
あるいは別の事情があるのか。
「司馬は楽しい? っていうか楽しめてる? 覇王陛下だったりすると、こういうことも迷惑かな?」
「いやいや。青春だね」
「ならいいんだけど」
「一応手伝い程度はしてるから全く不参加じゃないしね。思春期の想い出作りにはちょうどいい塩梅じゃない?」
「本番はいいの?」
「さてどうでしょう」
「また道化ぶる……」
「細やかな見栄だよ。気になる?」
「嫌いじゃないけどさ」
「有り難く」
じゃあ改める必要は無いわけだ。
「昼食一緒しない?」
「お弁当でいいのなら」
「意外と司馬って家事できるよね」
「愛する妹のためだもの」
「妹さん……?」
「さいです」
「司馬さんの妹だよね?」
「さいです」
「やっぱり頭良かったり?」
「年齢相応にはね」
「メギドフレイムとか撃てるクチ?」
「無茶」
さすがにラピスと比べるのは対象にならない。
いや同一人物なのだから、たしかに個体としては先に表現したように同一なんだけど、この場合は多分ラピスがイレギュラー。
時間とか越えてくるし。
夢を見続ける事が ……まぁファンタジーだよね。
「だしょー」
あはは、と笑っていたけど少し湿り気が足りない。
思うのは無理ないけどね。
「あ、久遠」
「頑張れし!」
声が聞こえたのか。
「――――――――」
何かを喋って手を振られる。
振り返す僕と四谷だった。
「パン食い競争は昼ご飯かな?」
「足りないっしょ?」
久遠の御曹司なら弁当も豪華だろうけど。
「しかし器用な奴」
久遠は一位でゴールしました。
顔が良く、あらゆることをそつなくこなす。
「妥協案」
とはラピスの言だけど、
「普通に格好良いよね?」
僕はそんな意見。
「どうだろ」
四谷は不可思議に首を傾げました。
「なにか久遠に不満でも?」
「不満って言うか……はぁ……マジで司馬陛下は有り得ないし」
嘆息されたよ。
「僕が何かした?」
「それが司馬だよね」
「???」
ちょっと不安というか懸念というか……なんだか四谷が呆れ果てた口調に取り変わったのが納得いかないというか。
なんでしょう……この空気?
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