第32話 私の愛妹は凶暴です01
「~♪」
嬉しそうなラピスさんでした。
月曜日の二限目、数学の時間。
教卓前のいわゆる『ハズレ席』で堂々とスマホを弄って楽しんでいらっしゃる。
「ぐぬぬ……」
その講義中の教諭はと言えば、「巫山戯ているのか」と授業に集中していないラピスに憤り、「これを解いてみろ」と彼女を指し当て、サックリ回答されて、それから、「じゃあこっちからも問題を出すのが筋ですね」とラピスに五次方程式の問題を出され、「解けたら講義に戻って良いですよ」と挑発を受ける羽目に相成りました。
残念。
まぁ五次方程式を黒板で解くのも一苦労ではございましょうけど。
とりあえず講義が一向に進みそうに無かったので僕は教科書の復習に精を出す。
「兄さん?」
「何だろ?」
すっごいヤな予感。
けれど甘える風の、懐いた子猫のような赤眼は僕の心臓に突き刺さる。
「キスしましょう」
「「「「「――――――――」」」」」
クラスメイトがもれなく吹き出した。
僕も頭を痛める。
いやまぁラピスは可愛いし、可愛がりもするし、実際に可愛がった経験もあるけども……それにしたって此処で、ですか。
「また次回にね」
「餌を渋るんですね?」
飼い猫か。
が、その紅の瞳は純粋の愛情を湛えてございました。
愛されるのは嬉しいんだけどね……アルビノの外見の愛らしさも、ルリの順ずるその純情さも……僕は確かに知っているけれど。
そんなこんなでタイムアップ。
数学の講師は暗算で五次方程式を解くラピスを瞠目し、畏れ退散しました。
多分二度と当てないんだろうな~。
そんなことを思います。
「お、警察?」
講義と講義の間の休み時間。
窓から見える校門で、誰かがそんな呟き。
僕とラピスもクラスメイトに混じって窓を見やります。
パトランプを回転させながら警察が乗り込んできていました。
「おー。対処が早いですね」
――え?
思考に空白が生まれる。
今度は別の意味でヤな予感。
いや確かに、ラピスの言動は常時ハリケーンみたいなものだけど。
一緒にお風呂に入ったしね……至福……。
なわけで聞いてみた。
「何かしたの?」
「世界征服宣言です」
さくじつ撮ったビデオのことでしょうか?
そういえば動画を編集するとか言ってたっけ。
「さいで」
無垢な瞳。
コクリと頷かれる愛らしさはルリズムを形成。
こんな純真な瞳で覗き込まれたら、どんな悪徳でもイエスと答えそう……ジーザス。
「衛星と電波をジャックして世界中のお茶の間に流しましたから」
「……………………」
…………えーと。
「世界中でセンセーショナルになるでしょうから見逃した視聴者のためにようつべにも投稿しましたよ?」
――抜かり無しです。
ムフンと張られる大きな胸でした。
揉みしだくよコノヤロー。
「…………全世界のテレビをジャックしたの?」
「はあ」
――だから何か?
目がそう語っておりました。
さすがの電波やネット回線も、未来人のシステムクラッキングまでには対処が追いつかないらしいですね。
そして校内放送。
「司馬軽木さん。司馬ラピスさん。校長室までお越しください」
まぁそうなるよね。
「兄さんは人気者です」
嬉しいのか?
喜ぶところか?
いまいち手綱を握れていないけど。
暴走、あるいは迷走か。
ラピスが嘘や冗談を言っているのなら警察が動いたりはしないだろう。
逆説的なテレビジャックの証明だ。
日本規模なのか世界規模なのか。
おそらくは後者なのだろうけども。
やるやるとは言っていたけど、本当に実行為されるのは……うーむ……シスコン愛妹の善意故の行動ならお兄ちゃんとして歓迎すべきか?
にしても世界征服とくる。
愛と徳の絶対王政。
世界制覇王国の産声。
世界覇王の君臨。
夢であるならソレが一番良い。
まず順当に……壊れかけレディオならぬ壊れかけのカルテジアン劇場が、現実を現実だと明確に示してもいる。
「司馬軽木さん。司馬ラピスさん。校長室までお越しください」
頬を抓っても痛いばかりなり。
「いきましょ兄さん」
軽やかなソプラノが僕を引っ張る。
「いいけど怒られるのはなぁ」
「世界覇王陛下に比べれば校長なんて羽虫です」
本気らしい。
いや、ジョークだった場合は、警察がパトカーのサイレン鳴らして学内に押し入ることもなかろうし、要するに逆説的に全世界のチャンネルをクラッキングしたのはファイナルアンサーだろうけども。
「兄さんは覇王ですから偉そうにしていればいいんです」
それもどうよ?
「散る花を……なにかうらみむ……世の中に……」
「我が身も共にあらむものかは~!」
南無。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます