第30話 五分で出来る世界征服05
食事を終えた後のこと。
脚立にカメラを設置して録画を開始……っていうか何故に?
全く以てホワイ。
「じゃあ兄さん」
「はいはい」
「こちらです」
「僕も動画に映すの?」
「言ったはずです」
何と?
「兄さんは世界覇王になるべきです」
言ったね……確かに……。
アレ本気だったんだ……。
そんなわけで世界征服宣言の動画を取るはめに。
一々ツッコミも追いつかないし野暮ではあろうけど、その行動力だけは我が妹ながら褒めそやしたい。
ルリもその内、人生を楽しめるようになるのなら、こんな未来形も悪くはないわけだ。
ちょっと突き抜けすぎている気もするけども。
「どうも。お茶の間の皆様こんにちは」
絶世の美少女がカメラの前で可憐に笑う。
いかん……鼻血が出そう……愛らしさの天元突破で。
「このたび私……司馬ラピスは全世界に対して新国家樹立を宣言します!」
快活かつ簡潔。
潔いにも程がある。
「この新国家は地球全土を領土とします」
カメラは回る。
「国名は『世界制覇王国』とし、一つの地球統一国家と為します」
国連に喧嘩を売っているのだろうか?
今のところビデオで撮影しているだけなんですけど……こんなもん動画サイトに投稿すると炎上しますよ~。
「全領土制覇を前提とし、あらゆる国家は世界制覇王国の属国と見做します」
ジョークで済めば良いけど……ラピスの言動を考えると……。
「特別ワンワールド主義でも無いので属国の運営に口は出しませんが……」
――出しませんが?
「世界制覇王国の運営と方針は属国全てに適応されることを銘記してください」
まぁ世界征服する国家だしね。
「世界制覇王国はこちらの――」
――と、僕の腕に抱きついてにゃんごろ……ムニュッと大きな胸が二の腕に押し付けられる幸せよ。
「司馬軽木お兄様を世界覇王と称し、その権限はあらゆる国家の法律の上位に位置します」
えーと……。
「世界各国の政治部に於いては、理性ある回答を期待するや切であります」
誰が承認するんだろう?
「なお世界制覇王国を支持する国は、属国から臣国に格上げ。対価として無尽蔵のエネルギー供給を約束します」
え?
出来るの?
「そんなわけで世界制覇王国の承認の程……よろしく御願いします~」
キャピッとウィンクしてカメラを停止させるラピス。
「……ラピス?」
「何です兄さん?」
「この動画をばらまくの?」
「はあ」
――それが何か?
そう赤い瞳は言っていた。
多分だけど……こっちの懸念を完全に理解能っていないのが空恐ろしいほどだ。
「世界征服……」
「兄さんを世界覇王とする愛と徳の絶対王政です」
「愛と徳は何処に?」
「愛はルリズムに。徳は臣国へのエネルギーイノベーション」
「エネルギーを供給できるの?」
「まぁ地球単位でなら些末事ですけど」
未来人って凄いんですね。
「では私はコレを動画編集して、世界各地のお茶の間に流しますので」
「国連の法廷に立たされたりしない?」
「純軍事的に有利ですから心配はいらないかと」
「純軍事的……」
「はいな」
軽やかにラピスは笑った。
何処まで本気なのか計りがたいけど、「多分」「全部」「本気」なのだろう。
「ラピスが世界覇王にならなくて良いの?」
「私は兄さんを世界で一番幸せにするために現われたんですから」
「そのためだけに世界征服宣言を?」
「兄さんを地球で一番偉い偉人にします。後のことはそれからですね。何にせよ、独裁者は歴史に名を残しますし、世界覇王となれば、まず順当にやりたい放題です」
世界覇王ね。
「内申点が恐くてしょうがないんだけど」
「政治と学業は関係ないでしょう」
平民視点で見ると……ラピスのやっていることはネット上の悪ふざけにしか映らないんだけどね……。
「大丈夫です」
「何の根拠があって?」
「兄さんは世界覇王になる素質を持っています。これはもう妹である私がよく知っていまして」
「カリスマとは縁が無いけどね」
そんなものがあるなら、もうちょっと僕の交友関係は広いはずで、ついでに色々と便宜も図ってもらえているだろう。
久遠がそのクチか。
「愛と徳の絶対王政には良識こそが寛容でしょう。兄さんが世界で一番優しいのは、ルリが一番よく知っています!」
あ~いえばこ~ゆ~。
「では」
動画を撮ったカメラを手に、私室に引き籠もるラピス。
「……………………」
「……………………」
僕とルリは視線を交差させた。
紅の瞳は綺麗の一言。
今日も可愛いうちの妹は、まるでフィーバータイムを想起させ、ラブリーな天使として完成されている。
萌え萌え。
「お風呂入ろっか」
「お兄ちゃんと……?」
「お兄ちゃんと」
あらゆる至福の最上級。
ルリズム原理主義過激派ですので。
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