藤原埼玉の初恋~あとがきがわりのなんらか~
「講評だ!講評が来たぞ!」
神ひな学園にもついに幕切れがやってきた。藤原は全作の講評が書かれた分厚い冊子を受け取り、ごくりと喉を鳴らす。愛する主催人こと神崎ひなた……彼に自身のノベルスを評価して貰えるだけで満願である。
藤原はひとりきりの寮部屋に戻りひとまず自作の講評を読んだ。すばらしい講評だった。文字数、各ノベルスの読み込み、白熱する賞選考……感極まった藤原は、まだ半分も読めていないうちに神崎のいる主催人室まで走った。
「ひっ、ひなたん!!」
勢いよく扉を開き、驚いた顔の神崎を抱き締めso happy end....のはずだった、が!
驚いた顔で振り返った人物は二人だった。
「あ、玉ちんや。神ひな学園も終わりやなあお疲れちゃん」
「お疲れさまでした藤原。熱量のあるすばらしいノベルス、僕も評議員も楽しませていただきました!」
えっこいつなんでいるの?
目が点になった藤原は関西弁のいまいち信用できない男、草の顔を凝視する。それからはっとした。
草は至るところに包帯が巻かれていた。椅子に座り上着を脱いで、神崎に背中を見せる形である。草の背後にいる神崎は手に包帯や消毒液を持っていた。
ラブコメなどの一話目定石の「二人きりで怪我の手当」シチュエーションに他ならない。藤原は激怒した。だが愛する神崎の前なので冷静を装った。
「く、草……退去したんじゃなかったんだな……」
さりげなく部屋に入り二人の近くに歩み寄る。草と神崎は同時に口を開きかけてつぐみ、何故か翳りのある自嘲気味の笑みを浮かべた草が、心配そうにする神崎に言葉を譲った。
いやなにそのやり取り?藤原は突っ込みたい気持ちをおさえながら神崎を見た。
「藤原、実は……草さんはあのあと、ぼろぼろのところを野良レビュアーと野良ノベラーに襲われて……藤原もご存じでしょうが、野良は容赦がありません。草さんは野良達にあっという間に囲まれてしまい、大切なノベルスたちを人質にとられ仕方なく……」
聞くにも語るにも無惨な有り様であった。神崎も瞳に涙を浮かべている。
満身創痍の草を見つけた神崎は学園へ連れて帰り、こうして手当をしてあげていた、ということだった。
オレの愛する男はなんて心優しいのだろうか!藤原は感動した。それを邪魔するように草が神崎を振り返る。
「ほんまにありがとうな神ひなちゃん。怪我の手当の感謝だけちゃうで。玉ちんにGを押し付けた、ウチのような悪漢のノベルスも講評してくれるとは思わんかったわ。しかもあんな熱い……」
「あっ、も、もう!草さん!恥ずかしいので口頭はお止めください!」
「神ひなちゃんはかわええなあ!せやけどほんまに感謝しとるで、ウチもいつか神ひなちゃんと学園を……」
「草さん……」
固まりながら話を聞いていた藤原はやっと意識を取り戻した。
二人の空気はこう……なに……?神ひなちは何故草食ったのブレインダムドを絶賛してくれ……?雪と小屋の時からだった……神視点に同期した藤原もはっとした……。
もしかしてひなたんは、草のノベルスが「好み」なのでは……!?
ゆゆしき事態であった。藤原は慌てて二人の間に割って入り、
「いやいやいやいや!草がやるならオレだってひなたんのために!」
そう口走った。
神崎はキョトンとしたあとに満面の笑みになり、藤原の手をぎゅっと握り締めた。
「嬉しいです藤原!いつか絶対、一緒に学園をやりましょうね!」
藤原の周りに花が咲いた。神崎はにこにこと笑いながら藤原を見つめている。
その様子を見ながら草は苦笑した。神ひなちゃんは渡さへんで玉ちん……そう呟いたが、藤ひなが気づくことはなかった。
草藤ひなの運命の歯車は……今急速に回りだす……!
(講評ありがとうございました&お疲れさまでした!)(身内ゴリラぶちこんですみませんでした……たのしかったです!)
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