第56話 クレア
ギルド長の妹さんに家に入れてもらい、俺たち三人は椅子に座った。
「自己紹介がまだだったね。ボクの名前はクレア、よろしく」
俺たち三人もそれぞれ自己紹介を終える。
「そっか……君たちはお姉ちゃんのギルドの冒険者達なんだね」
「はい、それでギルド長にクレアさんを紹介してもらいまして……」
「あ、ボクと話すときは話しやすい話し方でいいよ。あまり堅苦しいのは好きじゃないんだ」
「わかった」
クレアがテーブルの上に用意してもらったお茶を一口飲んでから話始める。
「アレス達には悪いけど、ボクはもう武器を作るのはやめたんだ」
とても悲しそうな表情だ。
「……どうして?」
エリンが心配そうに尋ねる。今の表情を見たら自然と生まれる疑問だ。
クレアの表情から、武器を作るのが嫌いになったわけではないと言うことがわかる。
造ることが嫌いになったのなら、こんな辛そうな表情はしないはずだ。
「もう造るのが辛くなったんだよ」
「……そうか」
「だから、ごめん。で、でも、少しくらいなら力になれるかもしれないから、君たちが持ってきた剣を見せてくれないかな?」
断ったことで俺が落ち込んだように見えたのか、慌てている。いい人のようだ。
布でぐるぐる巻きにしてある剣を取り出すと机の上に置く。布を取り、剣を晒す
「これ……」
クレアは目を見開き、黙って剣を見つめる。
「すごく珍しいものなんじゃない?」
「分かるのか?」
「分かると言うほどじゃないけど、なんとなく普通の物とは違う感じがしたから」
「この剣はとある遺跡の中にあった物なんだ」
「遺跡……少し触ってみてもいいかな?」
「あぁ」
恐る恐る手を伸ばすと、壊さないようにそっと触れる。
しばらくの間、まじまじと観察した後剣を置く。
もう冷めているであろうお茶を一口飲んで口を潤す。
「この剣は、ミスリルやアダマンタイトと言った特別な鉱石が使われているみたいだね。造られたのもかなり昔みたいだ」
アメリアさんが言っていたことと殆ど同じ内容だ。
剣の解析には数日と複数の専門家で調べたと言っていた。ほんの少し見ただけで分かるなんて、ギルド長の言う通り天才なのだろう。
「見ただけで分かるものなの?」
アウラが感心したように言う。
「うん、錆びた時の色とか崩れ具合、触った時の感触、あとは臭いなんかで分かるんだよ」
「すごいわね」
「ちょっとした特技みたいなものだよ。鍛治くらいにしか使えないよ。まぁ、もう必要ないけど……」
少しだけ自慢げな顔をしたが、すぐに曇ってしまった。
「この剣を打ち直すにしても、今は難しいかもしれない」
「なんで?」
「ミスリルやアダマンタイトは珍しい鉱石のだから、採れる場所が限られているんだよ。今、その採掘場所に魔物が住み着いちゃったみたいで、採ることが出来ないでいるんだ」
「大変じゃない」
「でも、何人かの実力のあるドワーフ達で討伐に向かっているから大丈夫だと思うよ」
「そうなの?」
「うん、数日の間には戻ってくると思うから、それまでは鍛え直せないと思う」
「そうか……」
その前に打ち直してくれる人を見つけないといけないな。
その後も腕利きの鍛治士の情報や、鉱石の値段や採掘方法などいろいろ教えてもらった。
買うよりも自分で採りに行ったほうが安くなるらしい。魔物が討伐されたら採りに行ってみようと思う。
「色々教えてくれて助かった」
「ううん、こっちこそ力になれなくてごめん」
軽く挨拶をしたあと俺たちはクレアの家を後にした。
「何か抱えているみたいだったね」
歩いているとエリンが、ふとそんなことを言う。
「そうみたいだな」
悲しそうで辛そうな表情だった。
「彼女に打ち直してもらえないのは残念だったわね。天才なのでしょう?」
「ギルド長の話だとそうみたいだな」
この剣は特別なもので、並の鍛治士では手に負えないそうだ。でも、ドワーフの村なら打ち直すことができる人も見つかるだろう。クレアからも、腕利きの鍛治士を教えてもらった。
「まずはクレアが紹介してくれた鍛治士の元に行ってみるか」
「そうだね」
描いてもらった地図をもとに彼らの元へと向かった。
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