第38話 招待状

 リオンが剣を振り下ろす。その一撃で魔物は絶命し、地面に倒れ伏した。


「ふぅ」


 リオンが息を吐き、昂った感情を鎮めている。流れる汗を拭っている。


「おつかれ」


 エリンが声をかけながら近寄り、それに続いて俺やモルナたちもリオンのもとに集まる。


「今日の討伐対象はそこまで強くなかったね。思ったよりも早く依頼を終えることが出来たよ」


 たしかにそこまで強い魔物ではなかったが、それでも俺たちの実力が上がっているからこそ簡単に倒す事ができた。

 先日パーティランクもAランクからAAランクへと昇格を果たした事からも、俺たちの実力が上がっている事が分かる。

 他のみんなが実力を付けてきたおかげで、俺は加護の干渉に集中する事が出来ている。


 盾役であるキーラの守護神の加護に常に干渉するとしても、その他の俺を含めた四人にはタイミングを見計らって加護に干渉している。例えば、モルナが魔法を行使するタイミング、俺やエリン、リオンが魔物に攻撃を仕掛けるタイミングと様々だ。

 戦いの最中は色々なことに意識を向けなければならないが、皆んなが実力を上げたおかげで少しだけ余裕を持つ事が出来ている。

 パーティの総合的な戦闘力が上がったことに俺の加護への干渉をし易くなった事が少なからず影響していると言えるだろう。


 加護への干渉に集中する事が出来ているのはいい事なのだが、直接的に戦闘に貢献できていないような気がする。今回だって、リオンやエリン、モルナによって魔物は倒されていた。

 一応加護への干渉でパーティに貢献しているがあまり目立ってはいない。加護への干渉が他の人には分からないことも影響している。はっきり言って地味だ。

 エリンは俺の加護へ干渉する力のことは知っているが、他の三人は知らない。

 完全に信頼を寄せていないため、自分の手の内を晒すことはリスクになると考えて黙っている。いずれ時期を見て話すつもりではいるが、まだその時ではない。


 魔物たちの処理を終え、討伐完了の報告をするためにギルドに向かっている最中にモルナに話しかけられる。


「アレス様、お疲れ様でした」


「モルナもお疲れ」


「最近リオンやエリンさんの活躍は目覚ましいですね」


「そうだな。モルナも十分活躍していると思うぞ」


 モルナの言う通り、リオンやエリンが目立っているのは間違い無いだろう。特にあの二人は魔物に攻撃を仕掛ける回数が多いから余計に目立つのだ。


「ありがとうございます」


 そう言って笑う姿は、何故だか少し怖いと感じてしまった。


「でも私は、アレス様の活躍をもう少し見たいと思っています」


 モルナの言葉を要約すると、もっと戦ってパーティに貢献しろ、と言うことだろう。

 加護への干渉でパーティには貢献しているが、それはモルナたちには分からないことだ。足を引っ張っているわけではないと思うが、エリンやリオン達の活躍に比べれば、見劣りしてしまっているのも事実かもしれない。だが、力についてはまだ言うつもりはない。


「悪い。頑張るよ」


「期待していますね………………私も迷ってしまいますので」


 最後の方は小声だったため、何も言っているのか聞こえなかった。なんと言ったから聞き返そうと思ったが、タイミングを逃して結局聞くことは出来なかった。


 ◆◆◆◆


 ギルドへの報告を終えた俺とエリンは、今生活している宿に戻ってきていた。


「どうしたの? 何にか悩み事でもあるの?」


 ベッドで横になっていた俺を覗き込むようにこちらを見ている。

 髪の毛が顔を撫でてくすぐったい。女の子特有の甘い香りに包まれる。


「なんでもない」


 そっと俺の頭を撫で始める。


「話を聞くくらいならいつでも出来るから、抱え込まないでね」


「ありがとう。その時は存分に甘えさせてもらうよう」


「うん」


 エリンはしばらくの間、俺の頭を撫で続けていた。俺も特に何もするわけでもなくそれを受け入れる。

 そんな時、扉がノックされた。


「私が出るよ」


 そう言ってエリンは扉に向かって行った。


「お客さんだよ」


 戻ってきたエリンの隣にはホーゼスさんの姿があった。俺は慌ててベッドから飛び起きる。


「すみません。変なところを見せてしまって……」


「いえいえ。こちらこそ、お休みのところ突然お邪魔してしまってすみません」


 ホーゼスさんところ直接会うのは久しぶりな気がする。


「えっと、どのようなご用件でしょうか?」


「今日はアレス様方にお届け物があって参りました」


 そう言って手紙のようなものを懐から取り出すと、こちらへと手渡す。


「これは?」


「こちらは招待状になります」


「招待状……?」


 裏返すとそこには差出人の名前が書いてある。


 《リオグラウンド ルーデルス》


「ルーデルスって……」


「はい、国王様からです」


 思わず目を見開き、ホーゼスさんをまじまじと見つめてしまう。


「本当ならばもう少し早く会っていただく予定でしたが、遅くなってしまって申し訳ございません」


 そう言って頭を下げる。


「い、いえ……」


「実際に会ってもらうのはもう少し先になると思いますが、目処が立ちましたのでこちらをお届けに参りました。詳しい日程が決まり次第、改めてお伝えいたします」


「わかりました」


 国王様と会うことになるとは……心の準備が出来ていない。まだ先だと言っていたから準備しなくては。


「あの、国王様に会う時はどのような格好をすれば良いのでしょうか?」


「ご心配なく。衣装はこちらで用意させていただきます。もちろんエリン様にも素敵なドレスをご用意いたします」


「ドレス……」


 ドレスと聞いて目を輝かせている。やはり憧れがあるのかもしれない。

 エリンのドレス姿か……絶対に見たい。


「後日、使いの者が採寸に来ますので、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ホーゼスさんを見送り、部屋には俺とエリンはだけとなった。


「国王様か……どんな人なんだろうね?」


「街の人から話を聞く限りだと、優しく国民のことを考えてくれる立派な人、らしいな」


「村にいた頃は国王様に会うだなんて考えたことも無かったよ」


「そうだな」


「それに、ドレスも着られるなんて……楽しみだよ」


「エリンならどんなドレスでも似合うと思う」


「えへへ、期待しててね」


「あぁ」




 ホーゼスさんから招待状を受け取ってから数週間後、ギルドから招集がかかり、俺たちのパーティにはじめてとなる指名依頼を受けることとなった。

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