第12話 タイムリミット

 ノエルが生まれてから落ち着きを取り戻し、アルデさんとの訓練を再開した。

俺もエリンも順調に実力を伸ばすことができていると思う。

 今日から木刀ではなく、真剣を使った訓練が始まった。


「俺が使っていた剣だ。今は使っていないが、しっかりと手入れは続けているから問題なく使えるだろう。これをお前たちにやろう」


 そう言って二本の剣を俺たちにそれぞれ手渡す。

 剣はずっしりと重い。だがその重みが少しだけ心地いい。これまで使っていた木刀とは全く違う。

 なんだかんだ真剣を使った訓練を始めるまでに一年近く経っている。

 重さを確かめるように、数度その剣を振るう。


「これからはそいつを使って訓練をするぞ。素振りからだ。まずは本物の剣の重さになれないとな」


 アルデさんに言われた通り素振りを始める。

 やはり木刀の時とは違い腕にかかる負担が段違いだ。

 何度も振っていると腕が上がらなくなってくる。やっぱり重いな。


 何度か休憩を挟みながら何度も真剣を振るう。体に慣れさせるために。


「よし、そこまでだ。今日の訓練はこれで終わりだ」


「ありがとうございました」


 アルデさんとの訓練は回数を重ねるごとに少しずつ訓練の時間が短くなっていった。

 走り込みや筋トレは自分たちでやるようになったし、素振りもある程度体に染み込んでいるため、毎回指導されなくても大丈夫になった。

 アルデさんとの訓練でやることといえば、たまに素振りの状態を見てもらうことと、木刀を用いた組み手だ。

 一から十まで全てアルデさんに見てもらわなくても大丈夫になったため訓練時間が減ったのだ。


 今日の訓練が終わるとすぐにエリンはアルデさんのもとに駆け寄る。


「アルデさん、今日もノエルちゃんと遊んでもいいですか?」


「おう、もちろんだ。ノエルも喜ぶぞ」


「やった!」


 エリンは喜びの声を上げるとすぐにアルデさんの家の中へと駆け込む。

 俺もノエルの後を追って家の中へと入る。

 家に入ると早速ノエルと遊んでいるエリンの姿があった。


「ノエルちゃん今日も可愛いね!」


「ねぇーね、ねぇーね」


「そうだよっ、お姉ちゃんだよ」


 エリンは満面の笑みだ。


「アレス聞いた? 今、私のこと呼んだよ!」


「偶然かもしれないぞ?」


「もう! アレスの意地悪。そんなことないもんっ」


 生まれて一年くらいでもう言葉を話し始めるのか。すごいな。

 今は、はいはいだけではなく、物につかまって立ち上がることまで出来るようになっている。

 俺もエリンとノエルの近くに腰を下ろす。するとノエルがこちらの方に近寄ってくる。


「にぃーに、にぃーに」


「おい聞いたか? 俺のこと呼んだぞ!」


「偶然かもよ」


「偶然なんかじゃないよな」


 ノエルはまるで同意するかのようにキャッキャと笑った。


「もう! さっきは偶然だとか言ってたくせに」


 ノエルは俺たち二人に懐いてくれている。


「ノエルったら本当にお姉ちゃんとお兄ちゃんが大好きね」


 近くで見ていたローナさんが嬉しそうに言う。


 俺はノエルのほっぺをツンツンと突っつく。

 信じられないほど柔らかい頬はついつい触りたくなってしまう。

 ノエルもキャッキャと嬉しそうに笑っている。


「あ、ずるい。私も触る」


 ノエルは俺たち二人にほっぺを突っつかれているが嫌がってはいないようだ。

 ひとしきり突っついたので満足だ。

 ローナさんが仲良くしてくれているお礼だと言ってお菓子をくれたので、そのお菓子を食べ終わるまでノエルと遊んで過ごした。

 転生前は一人っ子だったので妹ができた気分で嬉しかった。


「私たちそろそろ帰ります」


「気をつけてね。またノエルと遊んであげてね」


「もちろんです。任せてください」


 そして俺たち二人はアルデさんの家を後にした。


 ◆◆◆◆


 毎日訓練をし、そしてアルデさんの家でノエルと遊ぶ。そんな楽しく充実した日々は瞬く間に過ぎていった。

 俺が転生して、前世の記憶を取り戻し色々と準備を始めてからすでに二年と言う月日が流れた。

 そう、エリンが死ぬ日が目前まで迫っている。


 エリンが死ぬのは来月の誕生日を迎えてすぐだ。これまで準備を続けてきたが、全く不安はなくならない。もし失敗してエリンが死んでしまったらと考えるだけで恐ろしい。

 エリンとなるべく行動を一緒にして森に近づかないようにしていた。エリンが一緒に訓練を始めてくれたのはある意味有り難かった。


 エリンは森で主人公を庇って死ぬ。だからエリンが森に入らなければエリンは死ぬことはないはずだ。

 これからはより一層気をつけなくてはいけない。決してエリンを森に近づけないために。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る