第11話 決意

 木刀を訓練で使い始めてから、毎日のように木刀を振っている。

 今では素振りだけではなく、アルデさんと打ち合い訓練も始まった。


「アレス、今日もやるか?」


「はい! 今日こそ一本取ってやりますよ!」


「やれるもんならやってみろ」


 俺は木刀を構えると一直線にアルデさんに向かっていく。そのままの勢いで木刀を振るい下ろす。

 アルデさんはそれを涼しい顔で受け止める。


「勢いはいいが、まだまだだな」


 距離を取り、そして一気に距離を詰める。


「さっきと同じじゃ何度やったって結果は同じだぞ」


 アルデさんが木刀を振り下ろす寸前で横に飛び回避する。アルデさんの胴体目掛けて木刀を振るう。


「おっと」


 まるでどう動くかが分かっていたかのように、簡単に受け流されてしまった。


「ほら、一本だ」


 アルデさんの木刀が俺の頭に振り下ろされた。


「イデッ!」


「はっはは、また俺の勝ちだな」


 頭が割れるように痛い。

 躊躇いなく殴りやがって。


「クソッ、また負けた」


「俺だって子供に負けるわけにはいかないからな」


「次こそ一本取ります!」


「いつでも相手してやるよ」


 俺と入れ替わるようににエリンがアルデさんの前に立つ。


「次はエリンだな。いつでもいいぞ」


「いきます!」


 エリンも俺と同じように距離を詰めるが、なんというか俺とは違い動きが滑らかな気がする。


 エリンは力でアデルさんに勝てないので、無闇に攻撃を仕掛けたりしない。攻撃を躱したり、受け流したりして、絶好のタイミングを狙っている。

 防ぐばかりではきつくなってきたのか、攻撃を仕掛けようとして無理やりリズムを崩したことで隙が生まれた。

 アルデさんはその隙を逃さず、エリンに向かって木刀を振り下ろす。当たる寸前のところで木刀を止めた。


「今日も俺の勝ちだな」


「うー、また負けた」


「やっぱりエリンは筋がいいな」


「ありがとうございます」


「このままだとアレスよりエリンの方が強くなるかもな」


 なんだと!? それは聞き捨てならない。


「本当ですか?」


 エリンが嬉しそうな顔をしている。


「いや、俺の方が強くなりますからっ」


「まぁ、頑張れよ。そうしないとお前がエリンを守るんじゃなくて、エリンに守ってもらうことになるぞ」


 エリンが死なないために俺がエリンを守るくらい強くならないといけないのに。


「大丈夫だよ、アレスは私が守ってあげるから」


 違うんだよ! 俺が守るの!


「今に見てろよっ、エリンを守れるくらい強くなってやるからな!」


 そうしないとエリンは死んでしまうし、それ以降に起こる悲惨な出来事も乗り越えられない。

 俺がエリンに負けているところと言えば身体能力だ。まずはその差を埋める。


「俺、走ってくる」


 体を動かしていないと落ち着かない。


 ◆◆◆◆


 アルデさんとの訓練は順調に進んでいたが、今はアルデさんとの訓練はやっていない。一時的にお休み中だ。

 ローナさんが本格的に出産に向けた準備が始まったことが理由だ。

 アデルさんとの訓練がお休み中でも、訓練は続けている。走り込みと筋トレは毎日行なっているし、エリンと二人でお互いに、アドバイスしあったりしている。

 だがお休み期間ももうすぐ終わりだ。


 俺とエリンは久しぶりにアルデさんの家に来ていた。

 そこには生まれたばかりの赤ちゃんを抱いたローナさんと、顔が緩みっぱなしのアルデさんがいた。


「無事に生まれたんですね、おめでとうございます」


「おめでとうございます!」


「二人ともありがとう」


 ローナさんが優しく微笑んだ。


「名前はもう決まっているんですか?」


「ええ、ノエルっていうの。元気な女の子よ」


「すごく可愛いですね!」


「そうだろ、そうだろ。俺の自慢の娘だからな!」


 顔が緩みっぱなしのアルデさんは嬉しそうにしている。

親バカになりそうだな。いや、すでに親バカ全開だな。

 気が早いかもしれないが、ノエルがお嫁に行く時、もしかしたらアルデさんは暴れるのではないだろうか? そんなレベルでデレデレしている。

 幸せそうな二人を見ているとこっちまで幸せな気分になる。


「もしよかったら抱いてみる?」


「いいんですか!」


 エリンが食い気味に聞き返す。


「もちろんよ」


 エリンは落としてしまわないように床に座る。そこにローナさんが寝ているノエルをそっとエリンへと渡す。


「わぁー、すっごく可愛い! 私も赤ちゃん欲しい!」


 いやいや、気が早すぎるでしょ。まだ8歳だよ?


 まぁ、その気持ちは分からなくもない。そのくらい可愛いのだ。

 エリンが赤ちゃんを抱いている姿を見て、もう一度誓った。絶対に助けてみせると。

 エリンが将来、好きな人と結婚して、その相手と子供ができ、そして幸せな家庭を築くことができる。そんな未来を守るために。

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