第38話 喋ってないんだけどっ!?

「……」


『……』


 な、何だこれは? 何で突然黙り込んじゃうの??

 せっかく思い付いた、素晴らしい良案を胸を張って宣言したのに!

 黙られると不安になるんですけど……


 いいや、きっと大丈夫なハズ!

 咄嗟に思い付いたから言っただけだけど。

 現状、私の陣営に属するのは私自身とシルヴィアの2人のみ。

 仲間を増やす事は勿論、戦力の増強が必要なのは歴とした事実!


 あのちょっとサイズが大きいネコちゃんを飼うための建前としては、十分な攻撃力と言えよう!

 あとは、シルヴィア保護者が納得してれるかどうかだけど……


「確かに今後の事を考慮すると、配下の増員は必要ですね……はぁ、仕方ありませんね。

 あのモノを飼うことを許可いたしましょう」


「っ!!」


 やった!

 ついに私は前前世からの宿願を叶えたのだっ!!


「ただし! それはあのモノが、レフィーお嬢様の眷属となる事を了承したらですよ。

 もしあのモノが眷属となる事を拒んだなら、速やかに帰るとお約束してください」


「うん、約束します!」


 一番の障壁たるシルヴィア保護者を突破した。

 これ即ち、癒しのエデンがこの手中に収まったのと同義! ついに私は、この人外魔境の大地にて癒しを手に入れたのだっ!!


「よろしい。

 では、私の側を離れないでくださいませ。

 手負いのモノが最も危険ですので、抱き着くのも眷属とするまで禁止です」


「はい! ……ん? 手負い?」


 あっ、本当だ。

 よく見れば、雪のようにモフモフでふわふわな毛が赤く滲んでる……

 モフモフの事で頭が一杯で気がつかなかったわ。


 何で警戒するようにジッとこっちを見てるのに、動かないのか不思議だったけど。

 怪我をしてるのなら納得だな。

 可哀想に……早く治してあげないと!!


「シルヴィア!」


「……仕方ありませんね。

 治癒するだけですよ?」


「わかった」


 シルヴィアのお許しが出た!

 今治してあげるからね! 私のネコちゃんっ!!


「治れ」


 これでよしっと。

 ネコちゃんは警戒してた鋭い目を見開いてキョトンとしてるけど、これで怪我は問題ない。

 と言うか、そんな事よりもビックリしてるネコちゃんかわゆいっ!


 やっぱり、私に足りなかったのはモフモフだったのだ。

 冤罪で様々な仕打ちを受けて殺され、ささくれた私の心を癒すモフモフが必要なのだ!

 何としてもネコちゃんを眷属にしなければっ!!


「お疲れ様です」


「ん、上手くいって良かった」


 実は回復させたのって何気に初めてだったから、ちょっと不安だったけど。

 ネコちゃんの様子を見るに問題は無かったようだ。


「貴女達が私の傷を癒してくれたのですか?」


「……え?」


 えっと、もしかして今喋りました?

 いやいやいや、それは無いって。

 うん、ちょっとビッグサイズとは言え、流石にネコちゃんが喋るのはあり得ないでしょ?


「その通りです。

 こちらのレフィー様が貴様の傷を癒したのです、感謝しなさい」


 えぇ? 何でナチュラルに会話できるのシルヴィアさん?

 だってネコちゃんが喋ってるんだよ? しかも、この威圧するような話し方はいったい……


「しかし、貴女達からは魔力を感じませんでした。

 いったいどうやって……」


 おぉ! よくぞ聞いてくれました。

 実はですね、私のユニークスキルである付与者を使ったんですよ!


 まぁ当然、魔法の権化たる悪魔の私は回復魔法も使えるけど。

 明らかに私達を警戒してたし、ネコちゃんを刺激しない為にも魔法は使わない方が良いと判断したのです!!


「いえ、すみません。

 助けていただいた上に不躾な事をお聞きしました。

 どうかお許しを」


「……良いでしょう、合格です。

 試すような事をして申し訳ありません。

 貴方がただの獣では無いか確認する必要があったのです、こちらこそお許しください」


「試す、ですか?」


「ええ、実はレフィーお嬢様が貴方を眷属にと仰っておられるのです」


 ネコちゃんとメイドが普通に言葉を交わす。

 何てシュールな光景なんだ……

 と言うか、さっきからその話をしてた訳だし、この距離でネコちゃんが聞こえてない事は無いと思うんだけど……もしかして耳も怪我してたのかな?


『いや、普通にシルヴィアが遮音結界を展開してたからだね』


 全く気がつかなかった……


「貴方さえ宜しければですが、レフィーお嬢様の眷属となりませんか?」


「……」


 無言でスッと立ち上がり、音もなくこちらに向かって歩いてくる白ネコちゃん。

 そして……


「願ってもないお言葉。

 どうか私を貴女様の眷属の末席にお加え下さい」


 服従を示すかのように、私の眼前で頭を伏せた……結局、一切喋る事なく話が纏まったんですけど!?

 

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