エピローグ「天界でのひととき」

 そこは、地上界には蔓延するはずのない何かが存在する世界。


 そのおかげだからか、視界はどこかキラキラと輝いている。宙を見上げると、真っ白な空が広がる。曇りは一切ないし、永遠にないようにも感じられる。

 恐らくこの世界では、罪を犯した人間はいられないだろう。綺麗すぎてあまりにも居心地が悪いからだ。

 下を見てみると、床はない。それは雲なのか、留まることなく流れている、モコモコとした物体が漂っている。


 そんな空間に、二人の天使がいた。性別で表現するならどちらも女性だ。

 一人はそれなりに輝かしい存在で、もう一人は圧倒的に輝かしい女性。

 腹部辺りに漂っている物体に腰かけてながら、世間話をしているようだ。それなりの女性は足を組ながら姿勢を崩しており、もう一人は膝に両手を置いて行儀良く腰かけている。


「いやあー、今回はマジで大変だったっす」

「どうしたの、プリちゃん?」

「先輩、その呼び方いい加減にやめてくださいよ」

「いいじゃないの、可愛いんだから」


 ニコニコしながら言い張る先輩を見て、プリちゃんと呼ばれた後輩は諦めたかのように「別にいいっすけど」と言いながらため息をつく。


「聞いてくださいよ。この前久しぶりに廃れた村に降りたら、亜人いたんすよ」

「亜人って……」

「そうでしたね、すいません。悪魔と人間のハーフっすね。とにかく、それはまだいいんすよ。消すだけなんで」

「天使って意外と物騒よね」

「規則なんで、仕方ないっすね。でもでも、今回悪魔と契約した人間がいやがりやがったんすよ」


 後輩は苦々しく言い捨てる。


「それって亜人よりも大変なの?」

「普通だったら楽勝っすね。ウチらに攻撃なんて当たらないんで。それが、急に悪魔が出てきて、マジーアぶっ放されて、当たったんすよ」

「えー。プリちゃん大丈夫? どこか怪我はない? 血液検査かMRIでも撮る?」


 先輩があたふたとしながら、後輩の体中を見回す。

 過度に心配を示したのか、後輩の全身を隈無く見ながら時折「大丈夫?」と声をかける。後輩は苦笑しながらそれを眺めていた。


「大丈夫っすよ。天使の力なめないでください。それにしても、えむあーる……相変わらず先輩はたまに意味不明なこと言いますよね」

「ゴメンゴメン。まだ天使の自覚が浅くてさ」

「いやいや、そんなことないっすよ。先輩は天使の鏡っす。ウチの憧れっす」

「そんなことないよ。まだまだ未熟で困っちゃうよ」


 先輩は苦笑しながら言うが、後輩は一切笑っていない。むしろ目は輝いている。


「誕生からいきなり序列の最高位二位で、超万能な特殊能力もあって、なおかつ天界きっての人格者ならぬ天格者なんすから。尊敬されない方が無理あるっすよ。ウチみたいなしょーもない序列の天使にこんなに優しくしてくれる上司もいないっすからね。感謝っすよ」


 後輩に誉めちぎられ、先輩は照れながら「ありがとう」と小声で答える。

 後輩はまだまだ言い足りないのか、身振り手振りで言葉を続けっる。


「それに、先輩はその廃れた村に降りてくれたらしいじゃないすか。手負いで満足に祝福もできなったウチの失態もカバーしてくれたっす。本当に感謝してもしきれないっす。ウチは先輩のためなら何でもするっす」

「気にしないでよ、プリちゃん。悪魔と人間が血を流す所が見たくなかっただけよ。それに、私も聞いてほしいことがあったのよ」

「なんすか?」

「どこかで会ったことがあるような気がする人がいたのよ。こんなことってあるのかなって不思議な気持ちになってさ」

「いくら純粋な先輩でも、それはちょっとロマンチックすぎるっすよ。それに、人間と天使の恋愛はご法度ですから」

「分かっているわよ。そんな気がしただけ」


 先輩はフフンと笑うと、後輩から一瞬目線を外して話題を変える。


「それにしても、地上は争いが絶えないわね」

「そりゃそうっすよ。天使と違って人間共は規則は守りませんし、争う生き物っすからね」

「私達天使が、争いのない世界を作らないとならないのよね」

「やっぱり先輩はやばいっすね。他の天使達でもそんな熱心に仕事している奴らいないっすよ」

「それはそれ。私は聖天使様に全てを捧げている存在だからね。この世界が平和になれば、私なんてどうでもいいのよ」

「本気で言ってるから、先輩には叶わないっすね」


 後輩は穏やかな表情に尊敬の眼差しを含めながら、先輩を見ていた。

 話しはそれだけで終わることはなく、しばらく続いていた――。

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