第75話 右大臣の大手柄
さて、戦は関係ないと会議に参加しなかった右大臣を務める北条政子だが、そこは鎌倉幕府を纏めた御仁。ただサボっているだけではなかった。
「よくよく考えたら、総大将自ら挨拶回りなんておかしいわ。というわけで、呼び寄せておきましたから。うん、王って考えるから都にいた帝を思い出してムカつくけど、頼朝殿と同じ地位と考えれば、私にもやりようがあるって思ったのよ」
「は、はい」
ふむふむと頷く政子に、鈴音はそうですねと頷くしかない。清涼殿にて、ずらっと並んだ妖怪を前に鈴音はびっくりするしかないのだ。そして、あっさり呼び寄せてしまう右大臣にもびっくりするばかりである。
「なるほど。王になることが確定しているからな。あとはお得意の演説で呼び寄せたか」
補佐として入っている健星は、さすがだねえと苦笑い。ありゃりゃ、健星まで苦笑いしちゃっている。
そう、政子は鈴音たちが鬼討伐隊の議論をしている間に全国各地、現世に留まる妖怪たちに声を掛けていたのだ。そして、献上品を持って来やがれと言ったらしい。
そして現在、各都道府県を代表してやって来た妖怪たちが、それぞれの特産品を持って鈴音の前に平伏しているのだ。
「み、みんな、今日は集まってくれてありがとう」
「おおう、ちゃんと労ってくれているぞ」
「ちっこい姫さんだが、中身はしっかりしるのう」
鈴音の言葉に、そんな声が漏れ聞こえる。ううむ、何なんだろう。
「これ、総大将を前になんたる言葉を使う。控えよ!」
政子、完全に鈴音を鎌倉将軍に置き換えて考えている。これでいいのかと思って健星を見たら、健星は額を押えていた。うん、ちょっとダメっぽい。あの健星が政子に押されているというのも面白く珍しい図だ。
「ええっと、じゃあ、どこの妖怪から挨拶をすべきかな」
鈴音、この謁見の前に王だから敬語を使うなと注意されているので、難しいなと思いつつも政子に質問。
「左様でございますね。まずは近畿地方からかと。鵺を従え、この冥界を治めることが決定した御方。やはり京都のある地区からかと」
「おおっ、鵺を従えていると」
「しかも姫さんは九尾らしいぞ」
「ほほぅ」
「はいはい、静粛に」
すぐにざわつく妖怪たちに、切り替えの早い健星がパンパンと手を叩いて黙らせる。こいつ、本当に臨機応変だな。
というわけで、まずは近畿地方、それも京都は除くので大阪からとなった。
「
その大阪は、凄く強烈な妖怪だった。だってでっかい蜘蛛なのだ。しかも喋る。
「よ、よろしく」
「特産品と仰るので粉もんが良いかと思ったが冷めてしまうと思い直し、デラウェアをお持ちした。最近、大阪では果物を作っておる」
「あ、ありがとう」
もぞもぞと八本の足を使ってデラウェアの入った箱を差し出してくる様は、怖さを通り越して滑稽だった。土蜘蛛は怖い妖怪らしいが、従うと温厚になるのだとか。
こうして次は兵庫県は
近畿、中国、四国、九州、沖縄と西へと続き、そこから戻って中部、北陸、関東、東北と東へ。最後に北海道のコロポックルという
「す、凄いことになったね」
「ああ。新王よ、ここは宴を催されては如何ですか」
健星に仰々しくそう言われ、ああ、なるほどと鈴音も政子が特産品を持ってこいと言った理由に気づく。
「皆さん、長旅ご苦労様。今日はこれらの品を使って宴だ。存分に飲み食いせよ」
なんか武士っぽくなるのは政子の影響かな。そう思いつつも高らかに鈴音がそう告げると
「宴じゃあ」
「宴会じゃあ」
「酒じゃあ」
と早速大騒ぎになるのだった。
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