第76話


 陛下の待つ玉座の間に着き、礼をとる。私は今はドレスだから、令嬢としてだ。すぐに顔をあげるよう言われその通りにする。


「ほう、その装いは…とても良く似合っている。」


「でしょう?僕からのプレゼントだよ!小さな英雄さん達のね。」


 何ゆうとんのお父様…恥ずかしいわい。お父様は馴れ馴れしく玉座に寄りかかってるし、いいの?あれ。まあ陛下も気にしてないみたいだけど…。



「ではアシュリィ嬢も目を覚ましたところで…改めて。此度は我が国の面倒を魔国の方々の尽力により解決された。謝罪と礼を受け取って欲しい。

 ——申し訳ない。ご協力、感謝する。」



「元凶はこちらだけども、受け取ろう。そして魔国ディスジェイスとベイラー王国の変わらぬ友情をここに宣言しよう!」



 しちゃうんか!?お父様の発言に陛下も宰相さんも大臣達も騎士の方々も口開いちゃってるよ!?


 魔国が友好宣言て…!元々このベイラー王国は大国だけど、これで近隣国からも更に一目置かれるようになるぞ…!下手すりゃ歴史が変わる。…これが、魔王の責務、発言力。お父様の言葉1つで世界は変わっちゃうんだよな…。



「そして残念ながら公表は出来ないけれど、我が娘の友アルバート・ベイラー。リリーナラリス・アミエル。アシュレイ・アレンシア。

 彼らの奮闘も忘れてはならない。この子達がいなければ、もっと大惨事になっていたからね。僕達魔族は、彼らの勇気を称えよう。どうかこれからも娘と仲良くしてね!魔国に来る時は、国を挙げて歓迎しよう!」


 お父様の発言に、3人が目を輝かせる。魔族と人間の関係が悪くならないように、じじいの行動を世間が知ることはない。ならばせめて、魔族の皆とこの場にいる人達だけでも…アシュレイ達が頑張ったことを覚えておいて欲しいな。


「魔王陛下。よろしいですか?」


「うん、何?」


 アルがシュピーンと手を真上にあげた。なんだなんだ??



「魔国とは…ディスジェイスが国名なのですか!?」


「そうだよ?あれ、知らなかった?」


「初耳です!」


 あれ、そうなの…?ディスジェイスとは、初代魔王ウラオノス=ディスジェイス様からとったものだけど…知られていないんだなあ。



 そして私達は1人ずつ陛下とお言葉を交わす。


「アシュリィ嬢、其方がこの国で暮していたのは偶然と聞いたが…其方がいてくれて、息子と友人になってくれて良かったと思っている。」


「畏れ多いお言葉でございます。私こそ…この国でアルバート殿下をはじめ、沢山の大切な人ができました。感謝するのは私の方です。」



 そしてアシュレイもリリーもアルも言葉を交わす。ただ陛下、なぜアシュレイのことを温かい目で見る?そして肩を叩き「頑張りなさい、敵は強大だ」ですって。彼は何と戦っているんだ?


 そして私達は部屋を後にする。お父様が、私がお世話になった場所にお礼をしたいと言ってきた。あらかじめアシュレイ達にどこのどんな場所か聞いてあるそうだ。せっかくなので、皆でこの正装のまま行くとしよう!

 


 ではまず、教会から!!



 どうやって移動するかな?と思っていたら、お父様が空から行こう!と言った。じゃあリュウオウを…



「あ、いいよ。コレに乗って行こう。コレも王家に贈ったんだけど、今日は借りるよ。」



 コレ…って、方舟、水空両用の舟だ。これも王家にあげたんだー。まあ魔国にあっても誰も使わないしね、宝の持ち腐れってやつよ。それにこの方舟の周囲には結界が施されていて、ある程度の魔法・物理攻撃は効かないんだよね。王族にぴったりかも?それでは乗り込み、しゅっぱーつ!!





「まあ、アシュリィにアシュレイ!どうしたの今日は?素敵なお洋服ね。」


 ほいきた教会!お馴染みのシスターと子供達がお出迎え。お父様が父です、と言うとすぐ分かりました。と返されていた。そして私に、お父さんが見つかって良かったわねえ、と言ってくれた。

 ちなみにシスター達はまだ侯爵家のことを知らない。そっちの方角でなんかあったくらいの認識だろう。明日、新聞で知ることになるだろうね。


「それで今日はアシュリィがお世話になったお礼をさせてください。

 やっぱ実用性重視かなーと思って、ひとまず布団30セット。ふっかふかのやつ。あと服だね。子供向けに動きやすくてシンプルなやついっぱい。」


「まあまあ!」


「収納に困るかもしれないから、庭に別棟置いといたよ。外見は小さい物置だけど、中は空間拡張魔法かかってるから広いよ。

 あと食料かな。小麦100キロと色んな野菜沢山と肉。全部劣化防止魔法かけてあるけど、早めに食べてね。まあ子供がこれだけいればすぐ無くなるね!」


「まあ、ま、あ…。」


 お父様は子供達に囲まれて楽しそうだ。可愛いよね~子供って!おじちゃん!お兄ちゃん?お父さん!と色んな方向から引っ張られてる。


「それと、失礼だけど結構建物老朽化してるね。僕の友人に修理お願いしとくよ。じゃ、ルーデン、ドロシーお願いね。」


「「お任せください!」」


「あと…」


「まだあんの!?」


 流石に多いよお父様!!子供達はにこにこだがシスターと神父様と年長の子供達は顔が引きつってるよ!?


「あはは、違うよ。最後にちょっと祈らせてもらおうと思ってね。アシュリィも一緒にやろう。」


 あ、それなら。

 私達は礼拝堂に移動した。ここに住んでいる時は毎日祈ってたなあ。どの神様かよく分からないから、適当に。そうだ、私に加護くれた神様って誰だろう?お父様はステータスに書いてあるみたいなこと言っていたな。じゃ、ステータス!



《エルフェリアスの加護》


 一番下、称号の下にあったわ。…なるほどね。お近付きに…って、称号ついてる?いつの間に…。


称号:女神の卵

効果⦅魔法の精度上昇⦆


 うーん…魔法はこれ以上上手くならなくてもいいんだが。まあいっか。



 私とお父様は揃って膝をつき祈りを捧げる。

 エルフェリアス様、加護ありがとうございます。いつかまたお会いできる日を心待ちにしております。

 それとウラオノス様、ずっと見守ってくださり…ありがとうございました!私はもう大丈夫です。これからは…もう過去を懐かしく思うことはあっても振り返ることはありません。次会う時には美味しいおやつ用意しておいてください。ただしマドレーヌはいりません。

 楽しみにしてるよ、と聞こえた気がした。



 終わると…なんだか身体が光ってる?お父様もだ。これは、祈りが届いたってことなんだって。


「ファインスマーテル様がこの地の豊穣を約束してくださったよ。でもあまり豊作が続くと、加護が切れた後が大変だからほどほどにしてもらった。」


 そりゃすごい!私もなんかお願いしときゃよかった。…なんてね。もう、十分すぎるほど貰いました。



 そして私達は教会を後にする。その前に…シスターにだけ今後のことを言っておいた。リリーもアシュレイも王都に行く。だから、もうあまりここには来られない。そして、私も…



「シスター…いつかまた、必ず会いに来ます。ここは私の家、シスターはもう1人のお母さんだから…。だから、少しの間だけ…さようなら。」


「…そう。貴女がこの教会に来て、そろそろ3年が経つのよね。…私達は、どこにいても貴女の成長を願っているわ。子供達にも挨拶する?」


「もう、した。またねって。今は、それでいいの。」


 そうしてシスターにぎゅっと抱きつきお別れする。また会う日まで、どうか皆お元気で!!



 さあ、次は…






「アシュリィ!!目が覚めたんだな…よかった。」


「ご心配おかけしました、旦那様。」


 やはりここでしょう、ベンガルド家!旦那様は全て知っているらしい。今回の顛末も、お父様のことも。



「まさか魔王陛下に我が家にお越しいただける日が来るとは思いもしませんでした。私はリチャード・ベンガルドと申します。」


「そう気負わないでくれ。僕はリャクル=ノイシット=ウラオノス。娘がお世話になったようだね。」


 使用人皆ガッチガチに緊張してらっしゃる。そして騎士の皆さんはめっちゃ野次馬しとる…。窓という窓全てに誰かしら張り付いてるよ…。

 やべー、すげえ強そう、とか手合わせしてくんねえかなとか聞こえる。ガイラード、よろしく。


「かしこまりました。」


 という訳で野次馬も消えたところで早速お父様が本題に入る。



「この家は服飾系の会社を経営してるって聞いたから…まずはい。魔国産のシルク50キロね。燃えない汚れない優れものだよ。

 あと…アシュリィのお給料とか生活費とか出してくれたらしいからお返ししたいんだけど…僕この国の通貨持ってないんだよね。だからはい、魔石いっぱい持ってきた。換金してくれればそれなりにあると思うから。

 それとこっちがエンシェントドラゴンの鱗と爪を合成して作った剣と盾だよ。それぞれ攻撃と防御が1000ずつ上昇する効果付き。1セットしか用意できなかったんだけどねー。」


「戴き過ぎです!!勘弁してください!!」


 旦那様が絶叫した。そりゃそうだ…シルクはともかく、エンシェントドラゴンて…!退治したんか!?神話に出てくるような生物ですが!?私も目を丸くしていたら、アンリエッタが耳打ちした。


「まだ生きていますよ。陛下が「鱗と牙ちょうだい」と言ったら…「牙は無理。爪ならいいぞ。鱗は勝手に剥いで行け」と言ってくれたんですよ。」


 魔国すげえ!!!なんで探検しなかった以前の私!!?それと、魔石の価値よく分からんけど…あれ全部でいくらくらいかなあ?



「私も専門家ではございませんが…これは、最低でも2万セキズはくだらないかと…。」


 えーと…ハロルドさんが言うには…最低でも20億円以上…?




「…っアホかーーー!!?」


 私はお父様の頭をスパーンとはたいた。痛いなあ、なんてヘラヘラしてんじゃないわー!!!


「陛下、こちらとしてもお嬢様には会社の商品にアイデアを出して頂いたりと利益を貰っているのです。とても魔石は戴けません…!」


 要するにシルクと剣と盾は貰うってことね。まあ全部返すのも失礼だし。

 そうだ、私が今までやってた染色とかカツラどうなるのかな?


「ああ、心配いらないよ。専門でやってくれそうな魔法師を確保したから。それにしても…。」


「「?」」


 旦那様は私とアシュレイを見て目を細めた。奥様もハロルドさんもヴァニラさんも?



「君達が初めてこの屋敷に来たのはたった数ヶ月前なのに…大きくなったね、2人共。君達が魔王陛下のご令嬢でも公爵令息でも…またいつか、遊びに来てくれると嬉しいな。トロとライラもいるし、他の皆も喜ぶさ。」


「「…はい!!」」


 来ます、必ず。最後にアシュレイと一緒に旦那様と奥様に抱きついて、ハロルドさんとヴァニラさんにもぎゅーっとした。ヴァニラさん…号泣ですやん…?

 そしてトロくんにも挨拶した。彼は私達の立場が変わっても、一切態度を変えなかった。私達がそれを望まないって、分かってるんだね。



「もう今までみたいに気軽には会えなくなるね。でも…僕はずっと友達だと思ってるよ。あ、それと僕結婚するから!」


「「マジか!!」」


 ええ~ちょっと、やーだー!!もちろんお相手はベラちゃん!平民は式を挙げずに両家揃って食事するくらいなんだよね。私はお祝いとして、さっきお父様が広げていた魔石を2つ渡した。これで指輪でも作ってくれ!!


「君達の結婚式には招待して欲しいなあ。」


「え?うん、もちろん!」


 ふーむ、私達はどんな相手と結婚するのかなあ。アシュレイだってこれからは、沢山縁談とか来るだろうし。そのアシュレイは、顔を真っ赤にしてトロくんに「ばーーーか!!!」と言っていた。今の台詞のどこに地雷あった…?




 そして旦那様が合わせたい人がいる、と言ってきた。それは…



「おねえちゃーん!」


「…よう。」


 オークション会場にいた、どちゃくそ可愛い女の子と死んだ目をしていた男の子!女の子が私に飛びついてきた。年は私と同じくらいかな?

 旦那様が言うには…この子達は私に会いたいと言って待っていてくれたらしい。今後どうするかは未定だ。


「わたしはもう家族いないから。どうすればいいのか分かんない…。」


「俺は…親に売られた。もう帰る場所は無い。」



「…ふむ。選択肢は3つ。孤児院のお世話になる、どこかで使用人として雇ってもらう…私に、ついてくる?」


「!行く、お姉ちゃんと一緒に行く!」


 女の子はそう言って私に抱きついてきた。お父様がなんとも言えない表情をしているが…私だって、無責任に発言しているつもりはない。


 さっき旦那様に聞いたけど…この子達は、他人を信用出来なくなっているらしい。多分あの会場に着く前までにも…酷い目に遭っていたんだろう。特に大人は駄目みたい。かつてのアシュレイ以上の人間不信っぷりよ。辛うじてランス様だけは近付けたから、彼がお世話していたらしい。

 そしてどうやら私のことは慕ってくれているから…彼らがまた他人を信用出来るようになるまで、私が側にいよう。ああでも、私が彼らにこうして手を伸ばすのは、たまたま知り合ったからだ。これも縁、ってやつだね。



「君はどうする?」


「…あんたに、それだけの力があんのか?」


 うーん、女の子と違って男の子は警戒心…というか猜疑心が強いな。ま、大事なことよね。



「ふ、腐っても魔王の娘。出来ない約束はしない!でもまあ、ただ養うことはできないから…君達が自分のやりたいことを見つけるまで。私の従者でもしてもらうけど、それでいいなら私が必ず守るよ。」


「………。」


 私はまっすぐに2人を見据えて言った。私に従者って柄じゃないけどね…友達になってくれればいいよ。

 そして男の子も、無言で近付いて来て私の手を握った。…うん、行こうか、一緒に!


「…っと!旦那様、あの獣憑きの子は?」


「ああ…えーっと…。」


 忘れてはならない、もう1人!あの子はどうなったんだろう?なんで言いにくそうなの…?



「あの子は…その2人以上に警戒心が強くてね…ご飯も食べてくれないんだ。水はなんとか飲んでいるけど…。

 それに暴れて危ないから…今は部屋に閉じ込めているんだ。私達もどうすればいいのか…。国の方で保護してくれようとしていたんだけど…聞かなくて。」


 

 たっ大変じゃん!!あれから1週間経つのに、水しか飲んでないの!?ただでさえガリガリだったのに!!

 私は大急ぎでその子のいる部屋に向かった。旅は道連れ世は情け。私の魔国行きに、望むのならばその子も加えよう。



 そう、私は…魔国に行くよ。ずっと悩んでいたけど、そう決めた。私は一度…リリー達と離れた方がいい。もう、彼女は大丈夫だから。

 離れて…自分を見つめ直そう。今のままじゃ、また依存しちゃいそうだし(すでにお父様は依存対象ではない。ほんと、なんであのお父様に拘ってたんだ私…?)。

 

 それでもまた、必ず会いに行くからね。もう執事じゃなくなっても…私にとっては、可愛いお嬢様なんだから…。







~おまけ~



「お頭様、何か届いております。」


「開けてくれ。」


「はい。…!こ、これは…!」


「?」


 シャリオン伯爵に届いた物とは…



「手紙が入っています…。

『やあ。娘が少しお世話になったようだから、ちょっとしたお礼を送らせてくれないかな。

 同封したブレスレットは、人の影に入れるアイテムだよ。繋がっていれば別人や建物の影なんかにも入れるよ。でも危険でもあるから3つだけね。諜報なんかに便利だよ。』

 …だ、そうです。差し出し人は、魔王陛下です…。」




「……(なんだこれは…!?こんなもの見たことも聞いたこともない、確かに名を覚えておいて欲しいとは思ったが…これまでの宝物を戴くことまでは想定していなかった…!

 今回の侯爵家での出来事、あの娘の父が魔王であること。全て報告は入っているが…我々はあまり関係あるまい。

 は!!!ま、まさか…お前のことを影から見張っているぞ…というメッセージじゃ!!?娘の頼みに金を取りやがって…という!?)…すぐに魔王陛下に礼状を」


「『追伸。お礼のお礼はいらないよ!もう帰るから、手紙もいいよ。』だそうです。」



「………そうか。」




 その後。影達は大盛り上がりでアイテムを試したりしていたが、伯爵はアイテムに何かメッセージが隠されているのでは…という無駄なことを延々考えているのであった。

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