第73話 アルバート視点



 なんだこの状況は。


 今僕は、正座させられている。もちろん床にだ。そして僕だけではない。父上と魔王陛下、宰相にブルジャス公、ヒュー&アシュレイ。みんな仲良く並んでいるぞ。お姉さん2人は除外。

 国王である父上を正座させられるのは…上王陛下、お祖父様を除けばこの国にただ1人。


「王太子殿下に呼ばれ何事かと来てみれば…陛下、説明していただきたい。」


 それが彼、レイヴァン・アレンシア。ヒューの父にして、この国最強と名高い大将軍だ。

 確かそろそろ55歳くらいだったかな?彼は衰えを知らないというか…年々筋肉が増えてきている気がする。確か魔王陛下の側近に、同じように筋骨隆々な人がいたけど…いい勝負だと思う。


 そして兄上め。ドアの向こうから、ジェイドと揃って覗いている。



「いや…話せば長くなるのだが。」


「構いません。どうぞお話ください。」


 そして父上は、さっきまでこの部屋で何が起きていたのか説明し始めた。

 アシュレイの養子の話から始まり、彼の想い人を暴露させられ。父上達は困り果て魔王陛下が突撃してきて。アシュレイはお姉さん方に慰められて羨ましい限りです。

 そんなことを父上と宰相とブルジャス公が3人で説明…いや言い訳していた。この3人は、同い年の幼馴染みだ。公の場ではちゃんとしているが、他に人がいなければ砕けて話している。そして昔から、レイヴァンに頭が上がらないらしい。



 話を全て聞いたレイヴァンは、少し目を閉じ…カッ!!!と見開いた。全員がビクッとした。


「お話は分かりました。まずこの少年。儂が引き取ります。」


「へ!?」


 そう言って…アシュレイを小脇に抱えた。


「少年、名は。」


「…ア、アシュレイと申します!」


「うむ。お前は今日からアシュレイ・アレンシアだ。ヒュー、お前の弟だ。」


「はい!」


「そしてアシュレイ!!」


「ははははい!!?」


「男子たるもの!!無闇に涙を見せるでない!!儂がお前の性根を叩き直してやろう、来い!!

 次に涙を見せる時は、その想い人と結ばれた時にせい!!!」


「はっはい!!!」


「それとヒュー!!」


「はい!?」


「お前も最近たるんでいる!!鍛え直してやるから来い!!!」


 レイヴァンの言葉を聞いたヒューは…窓から逃げようとした。すぐ捕まったけど。

 そしてそのまま引き摺られて行った。頑張れ、ヒュー、アシュレイ。


 とにかく、アシュレイもこれで公爵家の仲間入りだ。とりあえず今後は僕のことをアルと呼んでもらおう。もちろんアシュリィにもそう呼んでもらいたい。この間呼ばれて、すごく嬉しかったぞ。

 なんだか…アシュリィに殿下と呼ばれるのは嫌だ。距離を感じるし、なぜか悲しくなる。リリスとアシュレイと4人で…もっと軽口を叩き合える関係になりたい。




 レイヴァンの姿が無くなって、ようやく全員立ち上がった。


「やれやれ…まあ、いい落とし所だろう。」


「そうですね、アレンシア公爵家なら…彼は四男ということになりますか。ヒューもわりと自由にしていますし…後継なども問題無いでしょう。」


「では私は帰ります。一体何しに来たのやら…。」


 公爵も帰宅。残った僕達も解散するかー。な空気だったのだが。


「ねえ、他にもアシュリィに気があるような人いないよね?ね?ねえ??」


「「…………。」」


 真っ先に脳裏に浮かんだのは、可愛い弟。多分父上も。


「「知らない。」」


 許せ、弟よ。




「あ、そうだ。渡したいものがあったんだー。」


 帰るのかと思ったら魔王陛下がそう言った。なんでも、今回の騒動のお詫びをしたいのだと。元はと言えば侯爵が禁術を使ったのが原因なのだから、要らないというのが父上の考えなのだが。


「まあまあ。元凶はウチだからね、受け取って。」


 と、押し切られてしまった。だが僕は、どんな品か興味津々である。父上と宰相もだ。



「まずこれ。回復のペンダント 。これを着けていると、死にかけた時1回だけ怪我が全快するよ。でも即死の場合は効果無いんだよね。それと病気には効かないから。」


 …お詫びの品には…勿体ないな?

 というより、まずって言った?まだあるの??


「次ね。魔法攻撃、物理攻撃無効のブレスレット。消耗品だからとりあえず10個でいいかな?あとこれは奥方にどうぞ。魔石で作ったティアラだよ。魔法物理無効と状態異常無効、オプションで美肌効果付き。それとこの杖は、持っている間魔力量が3倍になる。5本持ってきたから、息子達とリリーちゃんとアシュレイにどうぞ。」


 父上の開いた口が塞がらない。僕もだが。


「それとこの子、フェンリルの子供だよ。あ、ちゃんと親には許可貰っているから安心して。女の子だから、可愛がってあげてね。多分自分で主人は決めると思うから。」


「もう勘弁してくれ…。」


 どれもこれも最高級の魔石から作られている…全部合わせたら、小国くらい軽く買えそうな値段じゃ…?

 ちなみにだが、人間の国にこういった装飾品はほぼ存在しない。魔石を加工できる職人があまりいないから。この国には現在いないし。


 そもそも魔石自体、魔物からしか採れない貴重な物だ。その魔物だって本来は魔国にしか生息していない。だが魔国で生存競争に負けた種が外に飛び出して…繁殖した。

 人間の国にいる魔物だけでも僕達にとっては脅威なのだが、その分採れる魔石の価値も大きい。そして…魔国にいる魔物は、更に強力なはず。魔物の強さで石の価値も変動するから…僕達は考えることを放棄した。

 そして神獣。うん、守り神だよね。アシュリィのお父さん。少しだけ人間の常識を知っておいてほしかったなあ…。



 その神獣は魔王陛下の手を離れ…トテトテと…僕のところにきた。



「………。」


「………。」


 すんごい見られている…尻尾ぶんぶん振ってる…。


「ああ、気に入られたね。名前つけてあげてよ。」


 ええ~…。僕が…?こういう時、兄上とかの方がいいんじゃ…。僕が力を得て王位を狙っているとか思われても面倒だし。

 そう考えて兄上の方を見ると…ものすごく首を横に振っている。ジェイドは…逃げた。…くすん。



「名前…女の子……アリス?」


 僕がそう言うと…嬉しそうに鳴いた。……ペットだと思おう!



「王家にはこのくらいかな。あとはアシュリィがお世話になったところにいくつか…。」


「あい分かった!!そっちは直接持っていってくれ!!」


「そう?じゃあアシュリィが起きたら一緒に行くね。」


 そうだね父上。これ以上胃を痛めたくないもんね。でも魔王陛下…意外とアシュリィの心配してないの?


「ん?ああ、あの子はもうすぐ目を覚ますから大丈夫だよ。夢の中でお祖父様と話をしていたみたいなんだよね。」


 夢の、中?それが真実だとして…なんで分かるの?魔族ってすごい。


 渡すだけ渡して満足したのか、魔王陛下一行は出ていった。この宝物、どうするんだろう?途方に暮れている父上と宰相に全て任せて、僕も部屋を出る。




 途中…騎士の鍛錬場からアシュレイの声が聞こえて来る。中庭ではリリスが母上とお茶している。僕はアリスを連れアシュリィの眠る部屋に向かった。



 部屋に着くと、誰もいない。大抵見舞客やお世話のメイドがいるのだが…今はベッドで眠るアシュリィのみ。

 アリスはピョンとベッドに飛び乗り、アシュリィの顔を舐めた。

 

「…ねえ、早く起きてよアシュリィ。アシュレイもリリスも待ってるよ。せっかくお父さんも見つかったんだから、一緒に国に帰るんでしょう?」

 

 悲しみを見せてはいけない。彼女が帰るべき場所へ心置きなく行けるように…僕達は笑顔で送り出さないといけないんだ。

 でもアシュレイは多分追っかけると思うし、アシュリィはリリス大好きだからちょくちょく会いに来ると思う。その時は、僕のことも気にかけてほしいなあ。

 いつか僕とリリスが結婚したら。アシュリィに子供の名付け親になってもらいたい。結局前は、子供どころか結婚式にも呼べなかったからねー。



「…前って、何?」


 …僕、疲れてるのかな。そろそろ部屋に戻ろう。魔王陛下の言葉が真実なら、もうすぐ目を覚ますだろう。


「行くよ、アリス。」


 アリスを連れ外に出る。アシュリィが目を覚ましたら…まず何から話そうかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る