第57話
「なあアシュリィ。さっきの嘘が分かる魔法だけど、あれ使えたら罪の立証とかラクに出来るんじゃないか?」
「んー?それがそうでもないんだよね。」
飛行中アシュレイに問われたので簡単に説明する。魔法っつーのは万能だと思われがちだが、弱点が無い訳じゃない。さっきのだって、アイニーがお嬢様に対して振るった暴力を、本人が暴力だと思っていなければそれが真実になる。
要するにあれは暴力じゃなくてふれあいだとアイニー本人が本気で思っていたら「あなたはリリーナラリスに暴力を振るった」と言われて「いいえ」と答えても水は降らなかったんだよ。
現にお嬢様が「あんた慈善活動とかしてなくね?」と質問した時、「私の美しい尊顔を拝する以上の施しがあって?」っつー答えでも水降らなかったでしょ。だからマジモンのサイコパス相手だったらあの魔法は無意味だよ。
更に言ってしまえば「嘘は言ってないよ、大事な部分を話してないだけで」的な時も同じ。沈黙も。まあ沈黙に関してはそれが答えではあるけど…裁判で使われてんのは事実だが数は少ない。アイニーのような単細胞相手だから出来たのだ。
屋敷に戻り、部屋に急ぐ。作戦会議せな…と思ってたら通信が入った。殿下かな?
〈リチャードだ。用件だけ伝えると、今シャリオン伯の影が来ている。結果を君達に直接話したいとのことなので、すぐに来れないか?〉
このクソ忙しい時に!!!
どうする?このままお嬢様を屋敷に1人残すのは怖い。たとえラッシュが側にいても、だ。もちろんラッシュのことは信頼してるけど…なんか嫌な予感がするんだよな。
なのでお嬢様も連れて行くことにした。旦那様に3人で向かうことを告げ通信を切る。するとまたすぐに通信が入った。
〈あれ、これ通じてる?僕だけど。〉
「はい、届いています。アシュリィです、そちらはあの後どうでしたか?」
〈うーん、パニックだった。お茶会どころじゃ無くなったね。多分父上まで話行くねこりゃ。〉
「はえ?」
殿下の話を要約すると。
アミエル家は私…どころか魔族、延いては魔国を敵に回したと解釈された。このままでは魔国が攻めてくる!自分達はアミエル家とは一切関係無いんだから巻き込まれちゃたまらん!てことでその場はお開き、それぞれ家に急いだ。恐らく家族に報告するんだろうな。
…大事になってるーーー!!!?どうしよう、私が本当に魔族かどうかすらもまだ確定してませんけど!?このまま魔国にまで話が伝わっちゃったらどうしよう!?「魔族を騙る不届き者が…」とかならない!?
…ないか。魔国はここからずーっと離れた国だしい、ネットもないこの世界で伝わる訳ナイナイ。
…フラグじゃないよな?
殿下にもベンガルド邸に向かってもらうように伝えて、急いで向かう。調査の結果が出たという事は、見つかったっていう事なんだから!アシュレイの顔も強張っている、急げば1時間ちょいで着く!
と、その前に。念の為トロくんも避難させとこう。いずれお嬢様がこの屋敷を出る時、トロくんとライラさんも連れて行くか新しい職場を斡旋するつもりではいた。この家に置いとけないからな…。
「え、今すぐ帰れって…僕ここで住み込みなんだけど。」
「そうだった!じゃあ教会に行って、私達が帰って来るまで屋敷に戻らないで!!」
「でも仕事が…。」
「仮病でもなんでもいいから!なんならここで怪我する!?」
「今すぐ教会に向かうね!」
と、私の説得に納得してくれたので安心だ。ライラさんは今日休みだし、実家から通っているので問題無し!…アシュレイ、何その顔?私が脅したとでも言いたいんか、おん?
…飛行中、ふと下を見る。暑かった夏も終わりを告げ、木々が色付き始めている。すぐに秋も過ぎてまた冬がやってくるだろう。
この国はそれほど雪が積もらない。日本ではかまくら作ったり、雪合戦の記憶がうっすらあるから…それなりに積もる地域に住んでいたんだろう。だから、この国の冬はなんとなく物足りなく思っていたんだよねー。
お嬢様やアシュレイと雪合戦したいなーって思ってたんだけど…この国には雪で遊ぶ習慣って無いみたいなんだよなあ。冬の風物詩だってのに…。犬は庭駆け回り猫は炬燵で丸くなるんだぞ、炬燵無いけど。
問題が全部解決したら、なんのしがらみのない子供のように…全力で遊び倒す!!アシュレイとトロくんとついでに殿下の顔面に雪玉ぶつけてやるからな!!!無礼講よ、無礼講。
「アシュレイ、鼻押さえてどうしたの?」
「いえ、なぜかむずむずして…。」
後ろからそんな会話が聞こえる。風邪か、鼻炎か?気をつけなさいよ。
すっ飛ばしたお陰でいつもより早く着いた。するとすぐにお出迎えがやってきた。久々の登場、メイド軍団だ!!
「アシュシュはお仕事でしょ~?お嬢様はこちらへどうぞ!」
「奥様がお待ちですわ、さあさあ!」
「え、ええ…。じゃあ2人共、頑張って。」
「「はい!」」
お嬢様が連れ去られた後、ハロルドさんがやってきた。影と旦那様は応接室で待っているらしい、行くか!
すぐに向かうと、ソファーに旦那様と…この影…できる!!目の前に座っているはずなのに…ちょっと気を抜いたら見失いそう。忍者みたい、カッコいい!!
「来たか。」
声も渋い!!くう、やっぱ私も影やってみたいなー!頭ん中でそう考えながら座ると、ヴァニラさんがお茶を出してくれた。揃って笑顔でお礼を言うと、にっこり笑ってくれたのだ!幸先いいね!
「では早速だが、お頭様に代わり儂が報告をする。ベンガルド伯が聞いても問題無いか。」
ありません、すでに当事者です。影は部屋全体に遮音をかけ話し始めた。
「まず、子供達について。彼らは隣国にて発見、保護されている。ガイラードなる男が連れて行き、孤児院に託したらしい。ここに住所が書いてある。
ついでにスラムにいた大人はそれぞれ自活している。そちらも望むのなら居場所を伝えよう。」
……本当に!!?やった…やったあ!!!生きてる、無事に保護されてる!?やった…!アシュレイも嬉しそう、泣くのを堪えているのがよく分かる。良かったね!全部終わったら、会いに行こう!
でも、なんでガイラード、さんが…?
「そのガイラード。魔族である事が判明した。故に深追いは禁物、手を引く。」
「「「魔族!?」」」
3人でハモった。いや予想外なんだけど…!?なんで魔族が一時期でも子爵に仕えたりしてたの!?子供の保護は…魔王の指示かもしれんが。現魔王のリャクルは人間好きの子供好きだからねー。
詳しく分からなかったのは仕方ない。彼が子供達を保護してくれたってだけで十分だ、もし会ったらお礼言わにゃ。
「次、子爵について。お前達が望むであろう証拠は全て押さえた。これを国に提出すればすぐに騎士団が動くであろう。」
軽く目を通すが…すご…完璧じゃん!!言い逃れ出来ないよこれ、どうやって調べたの!?
「企業秘密だ。」
ですよね!これを…うーん、ヒュー様にお願いするか。彼なら確実に信頼出来るし託せる。
「それと。子爵が参加する予定の闇オークションの情報を得た。ここを制圧すれば子爵のみならず多数の貴族、豪商を検挙し摘発する事も可能。
ここに入手した招待状がある。1名のみ入場可能だ。」
「…そのオークションが開催されるのはいつですか。」
「今夜だ。」
「「「早っ!?」」」
…乗り込むか、どうするか…もっと沢山精霊喚ぶか…?このチャンスは逃したくないよな…。アシュレイと揃って頭を悩ませていたら、旦那様が提案してきた。
「よし、うちの騎士団を出そう。」
…ええええ!!?いや、でも!
「いいんだよ。これは君達だけの為ではない、民の生活の為に剣を振るうのが騎士の本懐さ。」
そう言われたら…私としては断る理由がない。よし、乗り込むぞ!!
詳しく話し合おうとしたが、影がストップをかけた。報告終わったら帰るから、先に全部聞けってことらしい。どうぞ。
「最後に1つ、気になる情報を入手したので伝える。お頭様からの好意である、受け取れ。」
マジか、サービスでなんかくれんのか!!何故かわくわくしながら次の言葉を待つ。
「先ほど話した闇オークションについて。数年前アミエル侯爵が参加し、落札した記録が残っていた。
購入したものは禁書。禁術について書かれた書物である。」
…え?
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