第54話


「ところでわたし、リリーナラリス様のお姉様も孤児院で慈善活動をされていると聞いたんです。同じ場所なのですか?」


 ミーナ様…!ファインプレーですよ、ナイスですよ!!その言葉を待っていましたあ!!!お嬢様もここはすっとぼける。


「そうね…私もよく知らないの、ごめんなさいね。貴方達は何か知らない?」


「私達もお話でしか存じ上げませんね。少なくとも教会にいらした事はないので…別の孤児院でしょう。」



 ここはあえてとぼける。私はなるべくアイニーの自滅に持っていきたいので。今私が否定した以上、アイニーが「いつも行ってるじゃない!」とか言ったらどちらかは嘘つきだ。

 当然私が不利だが…王族という味方がいるので表立って私を批判出来る愚か者はいまい。というか流石にこの状況で嘘をつくほどアイニーも馬鹿じゃ


「な、何言ってるのかしら、行ってるじゃないの。ああそっか、いつもあなた達はいない時ばかりだものね!」


 馬鹿だった!!!お前「アイニー様と仲のいい孤児をリリーナラリスが気に入って云々」の話自分で広めたの忘れたの!!?ちょっと頭痛くなってきた…。

 ほら周り見てみい、ざわついてるぞ。どういうこと?どっちが正しいの?アイニー嬢はあの2人と親しいのではなかったのか?リリーナラリス様は本当に慕われているのね…だって。




 …あの、今更ですけどトゥリン様。お茶会でこんなん計画してごめんなさい!!この舞台が都合が良かったんです、きっと気合入れて準備してくれただろうに…本当に申し訳ない!!

 そう思い主催者兄妹の姿を探すが…どこにもいない?どっか挨拶してんのかな…と思ったら、いた。何故茂みに隠れて観察してるの?2人揃って…気になる。何か会話してるみたいだし…申し訳ないと思いつつも聞き耳送る。




「お兄様、これがシュラバというものかしら?」


「ちょっと違う。でも近い。リリーナラリス嬢が優勢かな。」


「私以前からアイニー様の事あまり好きではありませんでしたの。いっつも口だけで偉そうにしていますもの。」


「同感だな。だが私達は噂を鵜呑みにして第二王子殿下やリリーナラリス嬢を敬遠していたのも事実。正式に謝罪せねば。」


「そうですわね。でももう暫く観察させて頂きましょう!」


「同意する。母上に言われ嫌々主催した茶会だが…面白いので全て良し。」


「私としては、恋の三角関係とか見てみたいわ。」


「誰と誰と誰の?」


「第二王子殿下とリリーナラリス様とアイニー様…は無いわね。殿下達がラブラブすぎて隙がないわ。

 うーん、ミーナ様×ランス様×アシュリィちゃん…違う。アシュレイくん×アシュリィちゃん×ランス様…んん?

 アイニー様×第三王子殿下×ミーナ様…いや。第三王子殿下×アシュリィちゃん×アシュレイくんでフィニッシュ!!」


「ありえる。」


 

 ありえねーよ!!!なんちゅう会話してんだこの兄妹!!妹様、×を使いこなすんじゃあない!私の罪悪感どうしてくれる、こうなったらトコトンこの会場利用させてもらうからな!!!

 ちょいっと傍観兄妹に気を取られていたが、アイニー様はどんどん泥沼化してんぞ。意外としぶといのは、アイニー様の信者がいるからだ。



「嘘よ、その子達は嘘つきよ!アイニー様は子供達からとても慕われているって話だもの、あの子達はリリーナラリス様が用意したのよ!!」


「その通りだ。証拠も無いというのに偉そうに!」


「アイニー様は慈愛に満ちた方であり、勉学も魔法もとても優秀なお方なのだ。そのアイニー様が偽り者だと言うのか!?」


 証拠が無いのはお互い様じゃない?はあ、面倒くさ。もういっそ、真実の魔法でも使おうか?

 



「私達はともかく、敬愛するお嬢様が貶められているのは看過できませんね。提案ですが、全ての真実をつまびらかに致しませんか?」


 私の提案に、周囲はどよめく。理解できていないみたいだね、仕方ないか。


「ご存知の方もいらっしゃるでしょうが私、魔法が得意なのです。そして嘘を見抜く魔法を使えるので、やってみませんか?この魔法は裁判等でも使われているのですよ。」


 あれ、アイニー顔色悪いね?どしたん?とにかく、理解していない人の為にまずは実演して見せましょう。アシュレイにその魔法をかけてみる。そして私の質問に全て「はい」で答えるよう命じる。

 ただ慣れてないから、詠唱に時間かかる…。


「…太陽が示すは真実の光。『裁判開始』


 まず…あなたは男性である。」


「はい。」


 何も起こらない。


「あなたはキノコが大好き。」


「…はい。」


 アシュレイが答えた瞬間、上から大量の水が降ってきた。アシュレイはキノコが大嫌いである、特にしいたけ。



「ばはっなんじゃこりゃ!!?」


「とまあ、この通り。嘘をつくと水責めです。ただこれは私が水に設定したからであって、罰はなんでもいいのですよ。

 例えば…嘘をついたら口が裂けるとか、ね?」


 アシュレイを魔法で乾かしながらアイニー陣営に告げる。ようやく理解出来たようで、動揺が隠せていない。どうする?誰の口を裂こうか?



「そ、そんな魔法知らないわ!適当言って、ただ水を降らせただけよ!」


「そうだ!いくらでも誤魔化しが効くじゃないか!」


 本格的に面倒くさい。ただの脅しのつもりだったけど、本当に裂いてやろうか…?

 そんな事を考えていたら、黙っていたアルバート殿下が口を開いた。


「そうか、お前達の考えはそうなのだな。ならば僕は王族の、第二王子の名誉を賭けてアシュリィの魔法が本物であると証言しよう。」


「同じく、僕も。第三王子の立場、影響力を以てアシュリィ…さんの魔法が真実であると証言する。」


 そんなモン賭けんな!!!いや本物だけどさ、いいの!?もしこの場に陛下とかいらっしゃったら怒られちゃうよ2人共!!(実際この場にいたらアイニー陣営が追い出されるだけです)


「では私も失礼して。アレンシア公爵家を代表してアシュリィを擁護しようか。」


 ヒュー様もいつ公爵家代表になった!!嬉しい援護ではあるが。いくら子供でも、王家と公爵家を敵に回してはいけないと分かる。それきり私の魔法に異を唱える者はいなかった。

「よく考えたら、アイニー様が真実を語ってくださればいいだけの話だしな。何も問題無いじゃないか。」

 とか言ってるけど。それが問題なんですわ。


 私は恭しく殿下方にお礼を言い、改めてアイニー陣営に向き直る。



「恐れ多くも有り難く、私の魔法は証明されました。では早速、私達から始めた事ですから…お嬢様から証言していただきましょうか。」


「もちろんいいわよ?」


 ここは公平に、平等でないといけない。特にこの会場にいる人間は、殆どが傍観者、中立の立場だ。私がお嬢様だけ免除しては証明にならない。

 なので心を鬼にして、お嬢様に魔法をかける。



『裁判開始』



「では…リリーナラリス様は私も住んでいた孤児院である教会で子供達と交流している。」


「ええ。」


「その教会でアイニー様を見かけた事がある。」


「無いわね。」


 周囲にどよめきが広がった。お嬢様になんの罰も無いのだから、その言葉が真実であると証明されたのだ。


「…嘘よ!!私に言わせなさい!!」


 どうしてこの人はここまで愚かなのか?拍手を贈りたいくらいだよ。そして誰も許可していないのに、勝手にお嬢様に尋問を始めやがった。魔法を解こうかと思ったけど…お嬢様がニヤリと笑ったのでやめた。



「リリーナラリス!あなたは子供達なんかと交流なんてしてないでしょ!?慈善活動なんて、実績作る為以外に意味無いじゃない!」


「…最初はそうだったかもしれませんね。私は家族に愛されたかった。家族団欒に私も入れて欲しかった。だから褒めて貰いたくて慈善活動を始めましたの。それは事実ですわ。」


 アイニーは鬼の首を取ったかのように満族気な顔だ。黙って最後まで聞いてろ。


「ほら見なさ「ですが。」」


 対照的にお嬢様の表情は晴れやかだ。…ようやく、決意してくれたんだな。この衆人環視の中、互いに発言を取り消せない状況で。更に魔法の制約により嘘がつけない状態で。

 …大丈夫。私達は、絶対離れないから。大丈夫だよお嬢様。そうして私はお嬢様の手を取った、反対側にはアシュレイも。

 お嬢様はとても嬉しそうに笑ってくれた。



「ですが私は機会があり、アシュリィと親しくなる事が出来ました。その後他の子供達も私を慕ってくれるようになりました。それまで距離のあった護衛とも信頼関係が生まれました。

 そして今年はアシュレイも加わり、私の居場所は完全に教会になりました。最初下心で慈善活動をしていた事を皆に謝罪したら…どんなきっかけであれ、自分達と友達になってくれた事が嬉しいと言ってくれました。私は、その言葉に救われましたの。

 そしてこの2人は、家で虐げられている私を心配してくれて、側にいてくれるために執事の勉強をしてくれました。本来ならば、まだまだ自由のある子供なのに。

 侯爵家が私に与えるモノは口汚い言葉と暴力のみ。…はっきりと、ここで断言致します。



 私の家族はここにいるアシュリィ、アシュレイ。そして教会のみんな。

 侯爵家は、私の家族ではありません!」

 


 お嬢様は言い切った。はっきりと、決別の意を示した。アイニーは鬼の形相で睨みつけている。今のうちにアイニーにも魔法かけとこうっと。


「はっ!だったらあんたに帰る家なんてないわよ、いいのね!?」


「かまいませんよ。」


「今の裕福な生活を捨てるのね!」


「捨てるのではありません、見限るのです。それより、私もお姉様…ではありませんね。アイニー様に質問する権利があります。」


「はあ!?」


 アイニーはもう、聖女の皮被んの忘れてない?



「アイニー様は私に暴力を振るったこと、または使用人を煽動して振るわせたことを認めますね?」


「な…に言ってるのよ!そんな事をするはずが…」


 ばっしゃああ!!と彼女の頭上に水が降り注ぐ。


「では次。私が行っていた慈善活動を自分がしていると言い触らしていましたね。まあこれには侯爵も噛んでいますが、あなた自身は一切行動していませんよね。」


「してたわよ!この美しい私が民達の前に姿を見せてあげること以上の施しがあって!?」


「えーと…質問を変えましょうか。あなたは自身の手で領民達と触れ合ったりボランティア活動をしたり、子供達と交流したりしましたか?」


「するわけ無いでしょう!?そんなの、下賤な者の仕事でしょうが!…ほら、水なんか降ってこないわ。私が正しいって証明されたわね!!」


 うん、証明されたね…。もうアイニーの取り巻きは離れているよ。賢明な判断だけど、ちと遅かったね。お前らもそこの阿呆の仲間だったこと、社交界に知れ渡ってるから。

 アイニーは私を乾かしなさい!とか抜かしてるけど、火炙りがお望みですか?それとも蒸し焼き?というか今度は、あんたが侯爵家の人間じゃないのなら殿下の婚約者は私よね!って言い始めた。その辺どうすっかな。殿下はどうだろう?

 彼は悩む素振りを見せて言い放つ。




「じゃあ婚約解消する?」




 マジか!!!


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