第41話


「くそっ、バレちまったからには仕方ねえ!覚悟しやがれえ!!」



「兄貴!上から俺らに負けず劣らず口の悪い、可愛い声が聞こえてくんぞ!?」


 え、可愛い?やーだー。だが容赦はせん!!…可愛いって言った奴は手加減してやろう。うふ。


 とりあえず分身を回収、ついでに透明化も解く!透明化って自分の姿も見えなくなるから…戦闘中には向かないんだよね。

 しかし私は丸腰だ。魔法でぶっ飛ばしてもいいが宿が半壊しかねない。出来れば武器が…そうだ!

 下に手を伸ばし、窓に嵌っていた鉄格子を掴む。


『生まれ変われ!』


 そうして生成した武器を片手に、鉄格子が無くなった窓を打ち破る。すいません、後で旦那様が修理費出しますから!!

 思った通りそこはボスの部屋だ。他の奴らも大きな音に反応してワラワラ集まって来た。



「な…子供!?」


「油断すんな!ただのガキじゃねえぞ!!」

 


 そして私がただの子供じゃないと気付いたのがボス。流石、慧眼ってやつだな!(この状況で現れた子供が只者じゃないのは明白だが。そこに考えが至らないアシュリィであった)

 つかボスは無精髭のおかげで見分けつくが、他が全然わからん!!お前ら6つ子かコラア!?ハゲ1~6って呼んでやる!!


 そして互いに武器を構える。先に仕掛けるのはどっちか…。



「よう坊主、部屋間違えてんじゃねえか?」


「いや?正しいよ。ちゃーんと目的地に辿り着けたぞ。」


「そうかい。…変わった武器を持ってんな?」


「ああこれ?ふふ、これはねえ…」


 一足で、距離を詰める!!



「…鎖鎌って、言うんだよっ!!!」


「っ!?重え!!」


 ガキイイイン!!と私の鎌とヒゲの短剣がぶつかり合う。流石にいい反応するね!あ、鎌はちゃんと刃潰してあるから。

 その隙にハゲ1、2が左右から飛びかかってくる。1を鎖で捕まえてぶん投げる!と同時に2に蹴りを喰らわせふっ飛ばす。つっても更にヒゲ他が特攻してくる!

 ああもう、5人相手とかめんどい!!魔法で一掃したいが宿が全壊してしまう!せめて動きを止められれば…そうだ!!

 連中をいなしながら頭の中で魔導書の内容を復唱する。練習しときゃよかった!でも初級だからすぐ終わる。



『音声拡張!!』







「わっっっっっ!!!!!」







「!?」

「ぐあっ…!」

「なんだあっ!?」


 成功!!自分の声量を上げて三半規管を攻撃!よろめいた3~6を片っ端から落とす!


 そして残ったヒゲだが…強いなコイツ!?敵ながら天晴だよ!!私は鎖鎌を投げたり斬りかかったりするが、全て流されるわ躱されるわ!もう、やっぱり私はテクニックが足りん!!

 上下左右から斬りかかっても受け止められる、素早さを活かして後ろに回り込んでも反応される!!何者だよコイツ!?ああ、また!

 てかこのヒゲ、なんでよろけないんだよ!三半規管バケモンか!!


「やるねっヒゲ!!」


「ああ?何言ってるか聞こえねえが、ガキに負けてたまっか!!」



 ちゃんと魔法効いてた。しかしコイツら、そういう割にはさっきから…


「だったらなんで武器を使わない!?さっきから防御にしか使ってねえじゃんかっ!!

 なんでだよ、お前ら仕事だったら子供でも殺す悪党だろ!!?それなのにっ…!

 私を気遣うような真似、すんじゃねえっ!!!」


「!?ぐあっ…!」



 私は武器を投げ捨て、それに驚いている一瞬の隙をついてヒゲの両手を掴み頭突きを喰らわす。そうしてヒゲはゆっくりと膝から崩れ落ちた。…ふう。

 少し乱れた呼吸を整える。…うわ、HPが700減っとる!!300以上減ったの初めてだよ。



「…とりあえず、全員吊すか。」


 シーツでロープを生成し、グルグル巻きにするのであった。







「あのー、なんの騒ぎですかい?」



 !?宿の主人!声からして老人だが…今ドアを開けられるのはマズい!!どうする?意識を刈り取るしか…!




「…なんでもねえ。ただの喧嘩だ。」


「はあ、またですかい。程々にしなんせ。」



 そう言って気配が遠ざかって行く。どういうつもりだ、このヒゲ…?



「なあ…話なら聞いてやるからよお。せめて逆さ吊りは勘弁してくんねえか?」











『早く、良くなりますように』



「…んん?」


「あれ、俺ら…?」


 不本意だが治してやる。話を聞きたいしね。そして全員正座で一列に並べる。やっぱお説教にはこのスタイルよな!説教じゃないけど。




「色々聞かせてもらうからな。

 まず、数ヶ月前にザイン子爵領のスラムを解体したのはお前らだな?」


「ああ、そうだ。坊主そこにいたのか?…いや、いたら反撃してきたよな。」


「間違いなくしただろうね。私はいなかったけど、友達がその場にいたんだ。

 …子供達、どうなった?」


 返答次第によっては…私は密かに魔力を編む。


「…知らねえ。」


「あ"あ…?」


 へーえ、ほおう。しらばっくれるんだ、この状況で。へええ???

 私の殺気を感じ取ったヒゲが、慌てて弁明する。



「待てって、本当に知らん!俺らの仕事はスラムの住人を捕らえることだった。子爵にゃ殺せって言われてたがな、ガイラードっつー奴が殺さなくていいっつったからな!

 住人達はガイラードが全員どっかに連れてったぞ。」


「…子供を選別するってのは?」


「見所のありそうな奴は俺らの仲間にしようかと思ってな。あのまんまじゃ奴隷落ちだったろうから、その前に。」


「血塗れで倒れてたオッサンってのは?」


「…ああ!最初っから死んでたぞ。多分呑みすぎか病気だろ。他にも死体はいくつかあったぜ。」



「…今までの話に、嘘は無いな…?」



 …嘘はついてなさそうだけど。信用してもいいものか。だから私は魔力の刃でベッドを細切れにしてみせた。

 嘘だった場合…こうなるのはお前らだ、という感情を込めて。


 その意図に気付いた連中は、壊れた絡繰人形のようにカクカクと首を上下に振った。

 はあ…じゃあ次はガイラードっつー奴の捜査かあ…手掛かりは、子爵だよねえやっぱり。




「あのー、お坊ちゃん?」


「おん?」


 私が項垂れていたら、ハゲ2が声をかけてきた。いや、5だったか?ああもう、分かりづらい!!


「この座り方、足痺れてきてんスけど。解いてくれないっスか?」


 おお、正座させてんだった。拘束は解かないけど楽にしていいよ、と言ったら全員横になった。そこまで楽にしていいとは言ってねえ!!軽く足を蹴っ飛ばしてやった。…さっき発言した奴どこ?



「あああもう!!なんでお前ら全員スキンヘッドなのさ!?毛を生やせや!ヒゲ以外見分けつかん!

 あとそのヒゲ!!無精髭うっとおしいから剃れ!!言っとくがな。整えられたお髭は素敵だが、無精髭は不潔っぽいしやつれて見えるしいいとこ無いぞ!!

 そーれーとー!私は女だバーカ!!」



 だが無精髭に萌える人もいるだろう、異論は認める!!



「え、マジか。しゃーねえだろ、ぼう…嬢ちゃん。楽なんだよコレ。」


「そうそう、いつも風呂入れる訳でもねえしなー。川なんかで洗う時にゃこれが楽でなー。」


 なんかそのままスキンヘッドの魅力について語り出したぞ、コイツら。やかましいいい!!!お前はとっとと髭剃ってこいオッサン!!!


「誰がオッサンだ!!俺はまだ25だ!!」



「え。」

「え!」

「え?」

「え…。」



「「「えええーーー!!!?」」」


「なんでテメエらまで驚いてんだよ!?」


 いやだって、40くらいかと思ったよ!?という私の発言にハゲ1~6も頷く。

 なんと言うか…家庭では嫁姑バトルに板挟み、仕事ではパワハラ上司とモンスター部下に挟まれ。愛しの娘は思春期&反抗期で目も合わせない会話一切ナシ。

 家にも職場にも憩いの場がない、人生ピークに疲労しているお父さんのような寂れを感じたよ!?



「勝手に妄想家族を作んじゃねえ!!俺ゃ独身だし親もいねえよっ!!」


「大丈夫ですよ兄貴ぃ…!」


「いつか娘さんも分かってくれまスから…!」


「だからいねえっての!!」



 そ、そうだったのか…とりあえず髭剃ってこい。

 ヒゲのみ拘束を解き、洗面台に向かわせる。さて、こいつらどうすっかな。


 俺ら捕まるんか?と言ってきたので考える。

 当然騎士団に突き出す事を考えた。だが…もしもコイツらが「ザイン子爵にスラムの住人を皆殺しにするよう依頼された」と証言したとする。当然子爵は否定するだろう。

 腐っても貴族のガマガエルと傭兵。腐ったカエルに軍配が上がるのは必定。

 するとゾンビガエルは今まで以上に慎重になるだろう。それどころか、今までの犯罪の証拠を無理やり消しにかかるかもしれない。

 そして傭兵達が捕まった事を知れば…同じ事。ハゲ共が何も言わずとも、自分に繋がる事を恐れて逃げるだろうな。

 そんな事を呟いていたら、ヒゲが戻ってきた。

 


「嬢ちゃん段々子爵の扱いぞんざいになってねえか?」


「妥当な評価だと思うけど?

 …おお、髭剃ったらまあまあ男前じゃん。もうヒゲとは呼べん…名前は?」


「…トレイシー。」


「…中性的というか。可愛い名前だね。」


「うっせえ!テメエらも笑ってんじゃねえ!!」


 いや、結構ワイルド系イケメンって感じ?身長高いしガタイいいし、お姉様方にモテそう。

 それにしても、本当にこれからコイツらどうしよう。侯爵家は論外、伯爵家に頼るのは申し訳ない…。

 でも一応相談してみよう。



「クックル、アルファに繋いで。」


〈…アシュリィか!?無事か!〉


「はい、私は全然大丈夫です。」


「私、ね…。」


「今の誰だあ…?」


 全員目え逸らしよった。ったく。

 そして旦那様に全て説明した。子供達の行方を知っているのはガイラードだという事も、この後傭兵達をどうするのかも。

 


〈だったら彼らはうちに連れて来るといい。〉


「いえっ!?そこまでご迷惑おかけする訳には!」


〈何を今更…そんな事より、君は早く帰る事を考えなさい。侯爵家に帰る頃には深夜だぞ?〉



 あ。お嬢様にもアシュレイにも連絡してない!!遅くなるかもーとは言っといたが、このままじゃ朝帰りだ!!

 …こうなったら!とことん旦那様に頼る!!



「わかりました!今すぐそちらに向かいます。あと迷惑ついでに、カラスマ亭の部屋ボロボロにしちゃったんで修理費立て替えといてください!

 クックル、オフ。」


〈え、ちょ〉



 傭兵共に急いで支度をさせて、宿のお爺さんにはベンガルド家に修理代を請求するように言って出発!

 ただどうやって移動しよう。このハゲ集団と電車ごっこの如く、リュウオウの上に仲良く並んで乗りたくない。こいつらだって男同士でくっつきたくあるまい。

 さて、ここでちょっとした豆知識。リュウオウには腕が6本あります。

 なので6人はリュウオウが掴んで、残り1人を乗せてやろう。


 話し合いの結果、ヒゲ改めトレイシーが乗ることになった。兄貴をそんな目にあわせられねえ!との事だが、慕われてるねえ。


 では、しゅっぱーつ!!









「………。」


 さっきからトレイシーは静かだ。逆に子分達は下でめっちゃ騒いでる。


「ひー!たっけーーー!!!」

「ひゅーーーう!!!」

「あ"あ"あ"ーーー死ぬううううう!!!」


 うん、楽しそうだなコイツら…。なんか面白いから放っておこう。




「…なんで黙ってるの?」


「…特に話す事もねえだろ。」



 穏やかな風が流れている。下を見れば真っ暗で日本の…都会の夜景のように煌びやかでは無いが、星空がとても綺麗だ。

 そんな星空の中、ついさっき戦った連中と飛んでいるのは変な感じがする。BGMがやかましいから余計に。


 そんな空気のせいだろうか。コイツらと話す事なんて何も無いと思いつつ、つい口を開く。



「ねえ、聞いてもいい?」


「…なんだ。」



「なんで…傭兵やってるの?」


「……他に、選択肢が無かっただけだ。」


「そっか…。」





「やっべええ、落ちたら死ぬ!!!」

「おい、ロットが気絶してんぞー!!」

「漏らしてねえだろうなー!!」

「「「あっははははは!!!」」」




「…元気だねえ。」


「ああ…そうだな。」



 ん?今笑った?トレイシーは私の後ろにいるから表情は見えない。だけどきっと今、微笑んでるんだろうな。




 その後は互いに無言のまま、伯爵家に向かうのだ。








「旦那様、奥様、ハロルドさんにヴァニラさん!忙しなくてごめんなさい、彼らをお願いします!!

 あと修理代もお願いしまーす!!」



 傭兵達を放り投げ、すぐに飛び立つ。旦那様が何か言ってるが今は早く帰らねば!!









 …………。

 さっきまで騒がしかったせいか、なんだか静かで落ち着かない。

 アシュレイにどう説明しようか、お嬢様になんて言い訳しようか。どうやって子爵の調査をするか、考える事は沢山あるのにな。

 飛行に関しては、完全にリュウオウに任せてある。こんな真っ暗じゃあ私には方向なんてサッパリだ。地図を見せたら正確に飛んでくれるんだから助かるね。

 おかげで考え事する余裕もあるって訳よ。


 


「…クックル、アルファに繋いで。」



〈…ん、アシュリィか?修理費の事だったらもう気にしなくていいぞ。〉


「いえ…傭兵達ですが…あまり酷く扱わないであげてください。」


〈…そうか、伝えよう。〉




 はあ、らしくない。アシュレイの家族を奪った奴らなのにな。命令されただけの立場だとしても…。



 そんな事を考えながら、お嬢様達の待つ侯爵邸に急ぐのであった。着くまでには、思考を切り替えておかないとね!


 


 

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