第40話
「こんな所か…。」
「終わりですか?ふぃー、お疲れ様です!」
終わったー!!商談って思っていた以上に面倒だね!
いらんっつってんのにデザイン料とかアイデア料払うって言うし。私が関わった商品の売り上げの何割をどうするとか。
まあ染色に関しては最初っからお給料貰うつもりだったけど。
ただ私はデザイナーでも商人でもないのです。ある程度決めたら、全部旦那様と会社の責任者に丸投げした。
てか染色に関してだって、ジュリアさん出来るんじゃない?と思って旦那様に言ってみれば「ジュリアのセンスは信用ならん」とか言われてるし。
でもまあ、言われてみれば…私もそう思う。
本音を言えば。アシュリィブランド作っちゃう!?とか考えたけど…どう考えても旦那様に押し付ける未来しか見えないのでやめた。私には商才も情熱も無いのでな。
「お疲れ様、アシュリィ。」
「ハロルドさん。あ、ありがとうございます。」
いや~ハロルドさん直々のお茶は美味い。このお菓子も絶品ですなあ。ここに来たのは昼前だったのに、もう陽が傾いてきてるよ。
しっかし、スラムの調査出来んかったなあ。明日にするか、これから行くか…。そんな事を考えてたら、ハロルドさんが封筒を差し出してきた。
「アシュリィ、これを。」
「?はあ。……!」
そこにあったのは…アシュレイが暮らしていたスラムのある領地、ザイン子爵に関する資料。旦那様、調べてくれてたんだ…!
「持ち出しは許可出来ないから、ここで目を通しなさい。」
「はい!」
そして資料を隅から隅まで読む。こいつがエイス・ザイン子爵…うん、ガマガエルだわ。
色々犯罪してんな…人身売買の斡旋から賄賂、税の浪費?うわ、書類の不正の疑いも。
でも…どれも状況証拠しか無いのか。
「その通り。
渡された資料は…スラムを襲撃した傭兵の情報…!
「傭兵と一緒にいたという男は、ガイラードという名前しか判明しなかった。
一時的に子爵に仕えていたようだが…今はもう足取りは不明だ。代わりと言ってはなんだが、傭兵達の現在の宿を見つけた。だから」
「はい!今から特攻して来ます!!」
「そう、慎重に…うん!?」
私は残っていたお茶を飲み干し、窓を開け叫んだ。
「リュウオウ!リューオーーー!!!」
「待て待て待て!!」
「はあ…旦那様、アシュリィに話せばこうなると分かっていたでしょうに。」
「そう!だな!!」
そして空間を裂いてリュウオウが現れる。普段は精霊界(命名:アシュリィ)にいるのだが、契約しているおかげで呼べばすぐ来てくれるのだ。そして窓からリュウオウに飛び乗る。
—おお、やっと帰るのか—
「帰らん!!!」
—は?—
「待て!落ち着け!!」
「待てますかい!!傭兵って事は、いつ国を出ていくかも分からんのですよ!?」
「…じゃあせめて、私に連絡手段を残しなさい!」
えー。ううーん。録音した音声を届ける魔法ならあるけど、やりとりは出来ない。それでいいですか?あ、駄目ですかそうですか。
ああもう!うんうん唸っていたら、リュウオウが声をかけてきた。
—通信か?ならば中級の精霊にちょうどいいのがいる。喚んでみるのもよかろう—
それだっっ!!中級だな、よし!やった事ないから時間かかる…!
…よし!言霊は…
『手伝って、精霊よ!』
小さな召喚サークルが展開され、現れたのは…
「鳩!?ちっっっさ!!雀サイズ!」
なんで鳩!?まさか私、伝書鳩連想した?それか某有名SNS?
—はと?僕はクックルだよ。よろしくね、ご主人さま—
まあいいや!よろしく、くるっぽー…じゃなくてクックル。中級だからか、すんなり契約出来た。相手も乗り気だしね。
「で、君の能力は?通信に長けてるって聞いたけど。」
—早速お仕事?嬉しいなあ。じゃあ見ててね—
そうしてクックルが震えたと思ったら…分裂した。
「プラナリアか!!」
—ぷらなりあ?さあご主人さま、分身に名前をつけて—
「おん?クックルA!…いやBか?うう~ん…アルファで。」
—了解。今日から君はアルファだ。ご主人さま、分身に自我はないよ。ご主人さまの言う通りにしか動かない。
オンオフの切り替えも出来るから—
「そう…じゃあアルファは旦那様に付いていて。普段は私か旦那様の言う事を聞いてくれればいい。」
するとアルファは頷き、旦那様の所に飛んで行った。ちょっと試すか、と思い、声の届かない上空に昇る。
「こんなもんかな。で、クックルに話しかければいいの?」
—うん、アルファに通信って風に言ってくれればいいよ。オフ状態の時に通信が入っていたら目が光るから、オンにしてね。アルファは今オンになってるよ—
つまり…携帯で言うと電源は入ってる普通の状態がオフ。オンの状態だったら向こうが繋いだら操作…言葉無しで勝手に繋がる感じ?ややこしっ。
「よし、アルファに通信。旦那様、聞こえますか?」
〈…ん?鳩が喋った!アシュリィか?〉
「はい、ばっちりですね!!これで心配ありませんね!」
〈まあ…うん…ああもう!気を付けて行って来なさい。〉
「——はい、アシュリィ行っきまーす!!」
夕陽が沈んでいくのを上空から眺める。この国の街並みは日本とは全く違う…気がする?ヨーロッパ、イタリアっぽい感じ?なんだか最近…日本の記憶が薄れていってる気がするなあ。
もうずっと…ずーっとこの世界で生きていた気すらしてきた。
…余計な事を考えてる暇はない。今はただ、傭兵共をとっ捕まえることに集中しよう。
そうして移動中、旦那様にアルファの説明をする。私はこの後オフ状態にするのだ。隠密中に物音でバレるとか洒落にならないしね!!
と言ったら旦那様に、ちゃんと忍ぶつもりだったのかと感心された。失礼な!宿って事は無関係の人達もいるでしょうに、無茶しませんよ!!
〈つまりアジトだったら襲撃していたと言っていますよ。〉
「ハロルドさん!…死なない程度にしますって!」
〈…アシュリィ?聞こえていますね。旦那様から事情は聞きました。
…色々言いたい事はありますが、必ず無事に帰って来なさい。〉
「ヴァニラさん!ごめんなさい、ちゃんと挨拶するつもりだったのに…。」
〈…いいんですよ。その代わり、帰って来たら一緒にお茶を飲みましょう。美味しいお菓子も用意して待っていますからね。
貴女なら大丈夫。沢山、お話を聞かせてちょうだいね。〉
…ヴァニラさん…。
私の死亡フラグ建てないでもらえませんか。とは言えねえ…。
そうして旦那様との通信を切り、傭兵共の仮の住処に向かうのだった。
場所はとある宿場町の外れにある宿。外れな上に現在厳つい男達が出入りしてるもんだから、他にお客はいない。
この宿、カラスマ亭の主人は、ここは副業だから赤字にならなければいいと考えている。だから傭兵だってすんなり受け入れるのだ。
彼らにとって、そういった宿はありがたい。大体何処に行っても野蛮人だと揶揄されるから。
傭兵の仕事は多岐に渡る。荷物運びから護衛、魔物狩りに裏の仕事まで…。
そして、カラスマ亭の2階にて。
「アニキー、いつまでこの国にいるんスか?」
「あ?仕事があるうちはだろうが。」
「もー無えじゃねえっスか。…そーいやあのガキ共、どーなったんスかねえ…。」
「知らねえよ…。」
彼らの身に災厄が降り注ぐまで、あと数分——…
「見いぃつけたあ…。」
闇夜に紛れてカラスマ亭を見下ろす影。そう、我らがアシュリィである。その赤い瞳が、暗闇の中で妖しく光る——
「訳ないでしょうがっ!!…ん?」
私は何を言っているんだ…?まあいい。それより見つけたぞ、傭兵共。
さて、これからどうしよっかな?
リュウオウも一旦引っ込め、屋根の上で作戦会議ターイム!1人で。
「まず敵戦力の把握。資料によると相手は7人。間取りとかわかんないかな…。
…新しい魔法を試してみようか?」
以前私は、アイニー様の部屋に自分の聴覚だけ残した事があったね。あれを二重三重にかけて…。聴覚と視覚を飛ばしてみよう。幽体離脱みたいなもんかな。
『行きなさい』
…うん、集中すると…いける。ただ魔法の…分身とでも言おうか。そっちに集中してると本体が完全に無防備だ。こういう時は!
『周囲に溶け込め』
本体を透明化させる!!これで踏んづけられない限りはバレまい。ただでさえ暗いんだし。
問題の分身だが…慣れないせいか思ってるのと違う方向に進んでしまう…。ああ違う、外出ちゃった!戻らんかーい!!
その後30分かけてコントロール出来る様になった。その30分で色々行動すりゃ良かったんじゃない?という意見は聞かぬ!!
さあ、玄関からレッツゴー!!あまり大きくない宿だから、すぐ見つかるでしょう。
…お、この部屋誰かいるな。お邪魔しまっす。
1人、か。…ふむ。武器は…すぐ取れる位置にあるな、流石。…ここ私がいる場所の真下じゃん!!どんだけ遠回りしたんだ私は!!
はあ、次の部屋行くか。隣の部屋に…今度は3人。つか、まさかコイツら…いや、まだあと3人いるハズ。先にそっちの確認だ。
残りは向かい側の部屋にいた。これまた3人。そしてコイツらも…。
多分1人部屋の奴がボスだろう。
それで…さっきからずっと気になってんだけど…!
「なんっで全員スキンヘッドなの!?見分けつかねーじゃねーか!!!」
「!誰だ!!」
oh やっちまったぜブラザー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます