第14話



 なんとか警備隊のおっちゃん達やシスターに宥められた私は、抵抗する少年を肩に担いだ。

 しかし抵抗は弱々しく、とっとと元気になってもらわにゃ。騒ぐ元気はあるようだが。



「何すんだてめええーーー!!降ろせっゴリラ!」


「うるせえチワワ。あんたどうせ弱っててロクに歩けないでしょうが。このまま教会行くよ。」


「このまま!?女なんかに抱えられたまま大通りを移動すんのかオレ…!?」


「女じゃねえ、ゴリラだ。行くウホヨ。」


「ちくっしょおおぉぉぉ…!」




 そんなやりとりを見守っていた大人達は。


「…実はちっとは心配してたんだが…無用だったなあ?」


「そっすね。」


「ふふ。アシュリィはああ見えて面倒見もいいし、最近は力加減も覚えましたから。

 きっと大丈夫ですわ。」


「たまに遊びに行くんで、あの坊主頼んます。」


「はい、では失礼しますね。」



 そんな会話を、していたらしい。








「さー着いた!ここが今日からあんたの家よ!」


「やっと解放された…。」


 大袈裟な。でも確かに顔色は良くないなあ。


「…お前誰?」


「はあ?アシュリィって名乗ったでしょーが。」


「いやそうじゃなくて…その髪…。」


 ああ、そう言う事。教会に入ったら髪を上げるのが習慣になってるからねー。そんなに変わるものかな?



「赤い目は珍しいらしいから、普段は隠してるの。そういうあんたは…へえ、綺麗な紫色の瞳だね。キラキラしてる。」


 …と素直な感想を言ったのだが、少年は顔を真っ赤にして怒ってしまった。


「うううるっせー!!」




「なんの騒ぎかしら?」


「あ、リリー様。来てたんですね。」


 騒ぎを聞きつけたリリーが廊下の向こうから歩いて来た。少年はリリーの貴族オーラを感じ取ったのか、一瞬で大人しくなり警戒態勢に入った。



「ええ。そっちの彼は?」


「新入りですよー。詳細はまた追々。ところで、私今日から彼の世話係するんです。なので残念だけど、魔法の勉強はまた今度で。」


「わかったわ。じゃあ今日は小さい子達と絵本読んでるわね。」



 そう言って去っていくリリーが見えなくなった頃、ようやく少年が口を開いた。


「なあ…あの女貴族だろ?なんであんな…。」


「リリー様は気さくなお嬢様だよ。後で説明するけど、まずあんたをどうにかしなきゃね。」


 私は少年の手を引いて歩き出した。

 彼はもう抵抗する事なく付いてきたのだった。









「さて、と!」


 私は会議室として使われている部屋にいる。

 談話室には他の子供達もいるからね。


 シスターは私に全て任せていなくなってしまった。ま、いっか。


「まず。怪我が多いけど…痛い所は?」


「…どれも古傷ばっかりだ。」


 ふうむ。…本当かな?そう思って彼の服を捲ってみたら…


「!やめろっ!!」


「わっ!」


「…あ。」


 思っきし突き飛ばされた。痛くも痒くもないが、ちょっとびっくりしたー。しかし反射で抵抗してきたな。こりゃ確かに小さい子達には気をつけてないと。

 少し馴れ馴れしすぎたかな。これからは慎重に…ん?



「あ、わ、わ…悪い…。」


 すんごい焦ってる…。そっか、彼はゴリラゴリラ言うけど私が規格外なの知らないもんね。


「大丈夫だって。私強いから。というよりこっちこそごめんね。」



 …その後互いに無言になってしまった。

 さ、気を取り直して行こう!


 その後も色々聞いたけど、栄養失調気味以外は大丈夫そうね…胃に優しい物から食べさせていこう。

 詰所でもお腹の空くままに食べて吐いていたらしい。アホかーい。


 夕飯の時間になり、彼用に薄めのスープを用意してもらった。私も一緒。同じテーブルで食べるんだから、同じものがいいしね。



「…こんだけか?」


「充分よ。そういえばあんたねえ、いきなりコロッケなんて盗むんじゃない!そんなもん食っても吐くだけ!

 あんた今弱ってんだから、ゆっくり食べなさい。普通のご飯食べれるようになったら、皆と一緒に食べよう。」


「…おう。」




 本当は他にも聞きたいことは山程あるけど…ゆっくり、ね。




「いただきました。」


「…いただきました。」


 彼も見よう見まねで挨拶をする。私が食器を片付けている間も、大人しくしていたようだ。

 気性が荒いって言ってたけど、意外と平気じゃない?よかったー。








実はこの少年。単に女の子に慣れておらず、可愛い子に甲斐甲斐しく世話を焼かれる恥ずかしさ、突き飛ばしてしまった罪悪感やらでどうしていいか分からないだけだった。

アシュリィは、知る由もないのだが。








 ~入浴~


「風呂ぐらい1人で入れるっ!」


「もー…じゃあ入り口に立ってるから、何かあったらすぐ呼んでよ?」


「(死んでも呼ばねえ…!)」




 ~就寝~


「1人で寝るっつーの!!」


「アホ!!ここでは皆男女別だけど何人かでまとめて寝てんの!!我が儘言わない!

 今は会議室に布団持ってきたけど、1つしかないんだから大人しく寝なさい!」


「じゃあオレを男部屋に連れて行ってくれえ!!」


「あんたが皆に慣れるまではだめ!小さい子を蹴っ飛ばしたりしたらどうすんの!?」



「こらっ早く寝なさい。もう時間ですよ。」


「あっシスター。ほら、入って。」


「ううう…。」



 少年は観念して布団に入ってきた。ったく、ガキのくせに一丁前に色気付きおって…。

 まあ疲れていたんだろう、布団に入ったらすぐに寝付いてしまった。

 

「…おやすみ。」




 翌朝。目が覚めたが身体が動かない。どうやら、少年に抱き枕にされているようだ。

 …涙の痕?嫌な夢でもみたか?よしよし、もう大丈夫。ほれ、ぎゅー。

 今日は少年に合わせてゆっくりしていいって言われてるし…彼が起きるまで二度寝といきますか。




 その数時間後。目を覚ました少年の絶叫が教会中に響き渡ったのだった。ちゃんちゃん。

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