第29話 避

 

 朝凪のコートの染みが目立たなくなった時、私の頭は冷え切っていた。


 さっきの男達にも悪気はなかったと思うべきなのか。いや、でもぶつかって珈琲をかけた癖に威圧するってどうなんだ。立ち止まっていた私達が悪いのか。私があの時、朝凪と会ったことが駄目だったのか。立ち話をしてしまったことが駄目なのか。もしも私が彼女の相手をしなければ、朝凪は男とぶつからなかったし取り乱さなかったのではないか。


 それでも私はあの時、朝凪と男の間に入ったことは正しかったと思っている。もちろん先に朝凪の服や火傷について確認するべきだったと反省はしたが、後悔はしていない。


 そこまで考えて、やはり最近の私は甘く丸くなってしまったと苛立った。


「……やだなぁ」


 呟いてコートを少し離して見る。染みはほとんど分からなくなり、叩き続けた部分の生地だけ色が濃くなっていた。今日はもう着られないだろうから朝凪には一時帰宅を勧めるか。いや、そんな所まで気を回すから駄目なのではないか。


 嫌だな、嫌だ、とても、凄く、嫌なんだ。


 私は朝凪のコートを腕にかけ、いつもよりも遅く歩いてしまった。自分の感情をこれ以上揺らしたくなくて、落ち着きたくて。


 朝凪は私の上着を握り締めており、その肩は余りにも心許ない。いつも前を向いている彼女からは想像できない態度で、私は人一人分の距離を開けて隣に腰かけた。


「涙さん……」


「汚れはだいたい取れたと思います。見た目には分からなくなったので。それでもクリーニングには出した方が良いでしょうね」


「す、すみません。ありがとうございました」


 朝凪が目元を拭って頭を下げてくる。私はコートを返し、少し擦れている彼女の目元を見つめた。朝凪は上着を脱ごうとした為それは止めておく。


「良いですよ、着ててください。私は平気なんで」


「で、でもそれは!」


「いま返される方が困ります。朝凪が風邪でも引いたら後味が悪いので。後日返して頂けたら構いません」


 強い言葉を選んで口にする。そうすれば朝凪が私から離れてくれる気がした。


 朝凪の顔を見ないまま立ち上がれば、手首を掴まれて体内に染みが広がる。私は横目に口を堅く結んだ美人を見つけた。


 朝凪の口が開閉される。彼女が何を心配しているのか上手く読み取れない。私が怒っているとでも思っているのか、自分の状態でも話そうとしたのか。そんなことは気にしなくていいのだが。


「涙さん」


 眉を下げた目と視線が絡む。


 私の脳裏には先生達の顔が浮かんでしまって、気づけば朝凪の腕を払っていた。


「……そんな、優しい声で呼ばないでください」


 * * *


 無性にイライラした。


 朝から何も良いことが無くて、自分の揺れる内情に収拾がつけられなくて。


 早足にパナケイアに辿り着き道具室へ向かう。そこには桜以外の道具室担当がおり、私は会釈だけして道具を一式持ち出した。


 白い上着を羽織って手袋をつける。アルアミラを被り、ライオスを入れたペストマスクをつけて。腕時計をつけてウォー・ハンマーを持った私は、新調したつば広帽子を目深に被った。先日までは「嘉音」と倒木の事故を受けた時に汚れたものを使っていたので、新しくなって少し気分が整う。


 私は砂時計を持って首を傾ける。今から一時間アテナで材料を集めれば流海の検査も終わっているかもしれない。流海の為になることをして、流海の元に戻ろう。


 私は砂時計を逆さにし、足先から砂になる。


 アテナに行って、材料を集めて。新しい材料は何を選ぼうか。何ならば流海の為になるだろうか。


 考え続ける私は、瞼を透かす光りが変わった所で伏せていた目を開けた。


 今日も美しい世界――アテナ


 どうして私達はここに来ると懐かしさを覚えてしまうのか。ヤマイとは何なのか。どうしてアテナの奴らに殺されなければいけないのか。


 何も分からないまま、私は水晶の林を駆けていく。腕時計を見ると一番近いのはαの果樹園だった。果樹園って幾つあるんだろう。今まで幾つ侵入してきただろう。


 林の中に視線を走らせる。静まり返っている世界には私の足音しか響いていないようで、太陽のようなものは何処までも高い位置にあり続けていた。


「……いや、おかしくねぇか」


 ひとちして足に力を込めてしまう。ブレーキをかけて立ち止まった私は、アテナで初めて耳を澄ますと言うことをしてみた。


 自分の周りにある筈の音を探す。風の音、木々が擦れる音。水晶の葉は擦れる毎に少し高い音を響かせて、風は常に心地よく上着の裾を揺らした。


 美しさと生命力に溢れた世界アテナ


 しかし、それでも、何故だろう。


 何故この世界には――


 私達と同じ姿をした「嘉音」達には今まで会ってきた。しかしそれ以外には会ったことが無い、見たことも無い。


 空を見上げる。そこは柔らかな白と黄色が混ざったような優しい色をしている。天の梯子が今にも下ろされるのではないかと思える清らかさ。それは何時に来ても変わらない。私はこの世界の。空の色が変わった様を知らない。最近はアレスの夜にこちらへ来ていたのに、午前中の今日もなんら景色は変わらない。


 私は周囲を見渡した。


 空気は白い輝きでも混ざっているように煌めいて、生えている植物たちは宝石のように眩く大地に根を下ろす。しかしこの水晶の林を駆ける動物はいない。美しき空を舞う鳥はいない。花々を渡り歩く蝶や蜂もなければ、地を這う蛇も蟻も無い。


 この世界にいるのは、二足で駆けるペストマスク達だけだ。


 それは何故。幻想郷と言っても過言ではない世界に、どうして人間に見える奴らしかいないんだ。これだけの世界ならば人魚やペガサス、ドラゴンや妖精がいたって私は驚かないのに。


 日が沈まない世界。


 生き物がいない世界。


 生まれた疑問は、片割れの言葉を思い起こさせた。


 ――汚すぎるのも駄目だけど、綺麗すぎるのだって駄目なんだ


「……毒の世界」


 なんとなく、空いている左手を開閉してしまう。思い切り息を吸い込めばライオスがアテナの空気を変化させ、私の肺を満たしていく。空気をゆっくりと吐き出すと――背後に飛び込んで来た気配に反応できた。


 振り向きながらウォー・ハンマーで牽制する。金属音を響かせて弾いたのは刀であった。刀身の真ん中あたりまでは刃と峰があり、先端に近づけば両刃になっている変わった刀。


 細腕に握られた刀は勢いよく弾かれて、目の前では少女が顔を歪めていた。


「ッ、空牙!!」


 絞り出された少女の声が仲間を呼ぶ。私は白銀の芝が踏まれる音を聞いて思考を研ぎ澄ませた。


 背後を取られたこの状況。ハンマーは振り抜き終わってる。右足に体重。後退は無理。ハンマーも振り直す時間はない。


 危機が迫る時と言うのは一瞬だ。光景も、思考も、判断も。


 自分の状況を即座に理解しなければ大怪我を負う。事故を避けられないならば軽傷で済ませたい。そういうもの。取捨選択して、切り捨てて切り捨てて切り捨てて。自分が一番問題なくいられる状態を選ぶのだ。


 培った経験で判断した私は、体重がかかっている右足を思い切り曲げる。両手とウォー・ハンマーも地面に着いて上体を低くし、伸びきった左足に意識を持っていった。


 私の頭があった部分を殴り飛ばした「空牙」がいる。少女の方は奥歯を噛んで刀を振り被り、私は体を無理やり動かした。


 左足の踵と脹脛の裏で「空牙」の脛を蹴り飛ばす。曲げた右足を軸にして、地面すれすれの後ろ蹴り。


 そうすれば「空牙」の体勢がぶれて、少女の腕に躊躇とまどいが見えた。


 彼女はそうだ。今まで何回か武器を交えたが、彼女はアテナの奴らの中でも反応が


 所謂――優しい子なのだ。


 そんな子が刃を持つだなんて不向きだろうに。


 私はハンマーを握り直し、長い持ち手の部分で少女の足首を叩く。蹴りと同じ勢いで足を叩かれた少女は顔を歪め、「空牙」が反射的に腕を伸ばしていた。


 私は左腕で地面を押して起き上がる。全体重をかけて体を回した右足が痺れたが直ぐに体勢は整った。


「ぐッ」


「ぃッ」


 先程とは逆。私の目の前で平伏した「空牙」と少女。二人は直ぐに武器を構えようとしたが、それより早く私はウォー・ハンマーを叩き落とした。


 そこで見る。「空牙」が少女の頭を抱いて庇った姿を。


 あぁ、止めろよ、そう言うの。


 私は手首を少しだけ動かしてハンマーの軌道を逸らす。「空牙」と少女の頭の横に叩きつけた鈍器は、地面を砕いて亀裂を入れた。


 白い二人の目が見開かれる。


 私は地面にめり込んだハンマーの頭を見つめて、深いため息を吐きながらしゃがんでしまった。


 曲げた膝に腕を置く。右膝には右腕を。左膝には左腕を。左の手指は脱力し、右手の指はウォー・ハンマーの持ち手を摩った。


「……止めてくださいよ、そういう、人間臭いの」


 肩から力が抜けてしまう。


 頭は重たく、重たく、まるで鉛のように下を向く。


 私に向かってメディシンの投与権利券を突き出してきた朝凪と竜胆が浮かぶ。私の怪我を心配して、アテナに行くことを危険だと腕を引き、怪我の完治を望む子達がいる。


「……ほんと、嫌になる」


 呟いた私の声はペストマスクに吸い込まれただろう。


 そう思ったのに、ペストマスクのくちばしを柔く叩く指があったから。


 私は顔を上げてしまった。


「なに、が……嫌、なんですか?」


 それは少女の声だった。


「おい、ほたる


 彼女をたしなめた「空牙」


 しかし少女――「ほたる」は私を見つめるばかりで、「空牙」に対する返答はしなかった。


「……殴打のペストマスクである貴方は、言っていましたよね。私達は、ただ生きたいだけなんですけどって。生きていたいならどうしてアテナへ来るんですか。貴方達は……ッ貴方達は!」


「生きたいからですよ」


 見開かれた「螢」の目は一体何に驚いたのか。分からない私は嘴に触れる彼女の手を下ろさせた。抵抗はない。手袋越しでも分かるのは、彼女にもしっかりと体温があると言うことだけだ。


「……私達のヤマイは進行します。進行すれば化け物になってしまう。周りを巻き込みたくないのに、害悪になんて成り下がりたくないのに」


 脳裏にマッキとなった男の姿が浮かんでくる。私の内に溜まっている染みは広がって、重たく喉に、鳩尾に、張り付いた気がした。


 気持ち悪くて堪らない。歯痒くて堪らない。どうせこの「螢」と言う少女だって私達を殺す対象として見ているのに、何を語っても理解なんてされないだろうに。


 噛み締めた歯痒さはアレスにいる誰にも伝える気など無かった。柘榴先生にも、猫先生にも、朝凪にも桜にも伊吹にも――流海にだって、伝える気なんてなかった。


 近くにいる人には吐けないことがある。優しい人には伝えられないことがある。近すぎて教えるのが怖いことがある。


 結果的には、違う世界の敵に吐露することが一番楽だった。そうすれば何でもない戯言として切り捨ててくれるから。


「だからアテナに来るんです。見つけたんです、アテナにある材料を使えばヤマイを抑制できる薬が作れるって。私達はその薬が欲しい。私はその薬を使って弟を少しでも楽にしたい。毒に犯されたあの子を救う薬を作りたい」


 語尾に力が入る。「螢」の手を握り締めたが振りほどかれることはなかった。


「貴方達がどれだけ私達を殺したいと叫んだって構いません。私達は殺されないように足掻けばいいんだから」


 食い入るように見つめてくる「螢」の目は揺らいでいた。


 体を固めている「空牙」は唇を引き結んだ。


「ヤマイ以外の奴らが私達を害だとしても、遠ざけても、嫌っても構いません。私達だってアイツらの幸せなんて願わないんだから」


 木霊した声がある。あぁ、どうして今日はこんなにも心が掻き乱されるのだろう。


 それも全部、最悪な夢のせいだ。優しい知り合い達のせいだ。間の悪い、染みのせいだ。


 私は「螢」の手を離してウォー・ハンマーを握り締めた。振り上げたそれで力の限り宝石の木を叩けば、甲高い音を立てて幹にヒビが入る


「誰も私達の幸せを、普通を願ってくれないならば、私達だけは自分の幸せを願ってもいいではないですか。普通を望んでもいいではないですか。大切な片割れの明日を、切望してもいいではないですかッ 誰もが私達を物のように見下して、患わない者の為だと大義名分を抱えた世界では呼吸の仕方も分からないのに!!」


 視界が滲んだ。全部全部嫌になる。


 流海に会いたかったのに、きっとあの子は今だってヘルスの為の検査をしている。あの子の中にある毒がヘルスに影響を与えるものなのではないかと、物として見られているに決まってる。


 よろけながら立ち上がった私は再び木にハンマーを叩きつけて、ヒビが広がる音を聞いた。


「私達は害悪なんかじゃない! 私達は人間だ! 物じゃない、化け物じゃない!! 幸せになりたくて、普通になりたくて、手を繋ぎたくて、気兼ねなく笑いたくて、ッ誰かに笑いかけて欲しくてッ!!」


 下瞼から熱い雫が零れていく。今日は駄目だな、本当に、どこまでも。


 私はもう、お母さんと繋いだ手の温かさだって思い出せない。お父さんに撫でてもらった穏やかさを、思い出せない。


「だからこうして、毒の世界に飛び込むんだ。暴力で解決するんだ! 殺される前に傷つけて、自分が望むだけの幸せが欲しくて、それを手に入れる為に貴方達から奪うんだッ」


 声が林に響き渡る。響いた叫びは私をより虚しくさせて、何も飛んでいない空を見上げてしまった。


「あぁ……無様だなぁ」


 誰よりも遠い存在に感情を吐き出すだなんて、返事をしない壁に向かって怒鳴ったようなものだ。


 虚しい、空虚だ。しかし叫ぶ前よりも滲みが薄れた。邪魔なものを吐き出せた。


 座り込んでいる「空牙」と「螢」を見下ろした私は、静かに首を傾けた。


「うるさい叫びでしたね。これ以上、質問がないならばさようなら」


 ウォー・ハンマーの頭を引きずって歩く。一歩一歩を踏みしめて、無駄な叫びで浪費した時間は巻き戻らないと嫌気がさした。


「ッ、私は、殲滅団ニケほたると言います!」


 立ち上がった音を聞く。脱力気味に振り返れば、刀を構えずに立ち上がった少女――螢がいた。


「おい、おま、いい加減に!」


「こっちは同じ殲滅団ニケ空牙くうがです!」


「お! い!」


 止めてくれよ、自己紹介なんて。


 他人でなくなってしまう。敵でなくなってしまう。何も知らない関係でなくなってしまう。


 空牙は螢の腕を掴むが、少女の目が私から逸らされることはなかった。


「貴方の名前、教えてください! 殴打のペストマスクさん!!」


 どうしてそんなに必死になる。どうして私に刃を向けない。


 嫌になる、嫌になる、嫌になるから止めてくれ。


 滲むのはアレスだけで十分だ。アテナは敵でいてくれよ。知ろうとしないでくれよ。近づこうと、しないでくれよ。


 弱く乱れている私の中に、再び滲みが落ちてしまうから。


 私はウォー・ハンマーで木を殴る。渾身の力をこめて砕き折る。


 そうすれば宝石が擦れる音共に空気が揺れて、私と螢達の間に倒木が出来上がった。


「私は、実働部隊ワイルドハントるいです」


「ッ、ありがとうございます」


「感謝だなんて、馬鹿らしい」


 ハンマーの頭を螢と空牙に向ける。二人の肩には力が入り、私は眼前に倒れる木を勢いよく殴打した。


 殴打のペストマスク。それが私の名前だったんだろ。ならばその象徴のように、殴って、殴って、殴り壊して進んでやるよ。


 ――涙さん


 あぁ、止めろ、出てくるな。


 私は深い呼吸を繰り返し、ペストマスクを片手で押さえつけた。


 ――涙


 ――涙さん


 ――空穂さん


 やめろ、やめろ、やめろ。


「涙さん」


 やめろッ


「呼ぶなッ」


 足がよろけて後ろへ進む。後ろへ、後ろへ、螢達から距離を取るように。


 私を心配する人達が浮かんでくる。


 入り込むな、近づくな、私の心に、これ以上の染みを作るなッ


「そんなに、優しい声で呼ばないで」


 なんて情けない。なんて滑稽な。


 アレスで朝凪に伝えた言葉を、アテナでも口にすることになるだなんて。


 私はきびすを返して走り出す。


 重たいハンマーを持って、無性に苛立っては我武者羅に木々を殴って倒し、踏み越えて。


 殴って、殴って、殴って殴って殴ってッ


 ――αの果樹園に辿り着いた。


 周囲を守っていたアテナの奴らを殴り飛ばした。


 血飛沫を被った。血だまりを踏みにじった。返り血を体全体で浴びた。


 殴って骨を折る。殴って内臓を傷つける。殴って、殴って、殴り飛ばして道を開かせる。


 私の邪魔をするな。私の心を掻き乱すな。私に近づくな。叫ぶな喚くな怒鳴るな耳障りだッ!


 邪魔だ、邪魔だ、全てが邪魔だ。


 温かさも、優しさも、気遣いも、心配も。


 だって、だって、だってそれらは――


 ――γの木の根に辿り着いた。


 血だらけの私は、正直ここまでの道のりを覚えていない。朧げな光景がちらつくが夢か現か判断しかねている。邪魔した奴らが着ていた上着を一枚持ってると言う事は、これを持ち帰ろうとでも考えた瞬間があったんだろうか。繊維から何か分かるかな。物は試しか。


 自分の白かった上着はどれだけの人数に血を吐かせたのか分からないほど赤黒く染まっている。新調したばかりの帽子も血液を滴らせ、ハンマーの頭には錆びのように血痕が固まっていた。


 骨を砕いて肉を断つ。破れた皮膚の感触を覚えている。折った骨は内臓に刺さっただろうか。


 私は、誰かを殺してしまっただろうか。


 重たいハンマーでγの木を殴打すれば、勢いよく揺れた葉が雨のように降ってきた。


 血だらけの手で袋を広げ、美しいγを受け止める。


 ――だって、ヤマイって化け物って意味でしょ?


 ――みんなそう言ってるよ


 そうだね、そうだよ、そうだろうね。


 幼い記憶が私に刺さったまま消えてくれない。


 ヘルスにとってヤマイは化け物だろうよ。悪だろうよ。害悪だろうよ。


「それでも、生きたいと思って良いじゃないか」


 好かれたいだなんて言ってない。認められたいだなんて思ってない。理解して欲しいだなんて願ってない。


 私達は、普通に幸せになりたいだけだ。


 だから私は流海の為だけに薬を作ろう。その為ならばアテナの奴らを血祭りに出来る。邪魔する奴らを全員踏みにじっていける。


 流海を治す薬を作る。流海を生かす薬を探す。


 その邪魔をする奴は全員――殴り殺したって構わない。


「だから、優しくしてくれるなよ」


 私は上着から砂時計を取り出して、逆さにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る