第22話 満天の星
ゾルゲン皇帝の話にも上がっていたが、皇国の貴族の間でも以外と俺達の素性を知っている人は多く、俺、ミヨコ姉、シャーロット、アリアの所には数多くの人が詰めかけて来た。
俺の場合話かけられる内容は主に、天空騎士団についてと、リーフィアとの関係……そして、お見合いの誘い。
前者2つに関してはありのままを言うだけで良かったが、最後に関しては大分難義した。
普段は騎士団あてに来るその手の誘いは、俺の意思を尊重して団長達が断ってくれていたが……皇国の貴族の方々にはそんな事は関係ない。
むしろ今がチャンスとばかりにグイグイ来るのだから、溜まったモノではない。
――しかも、仮に心に決めた人が居るって言っても、地位と収入さえ有れば一夫一妻制と言うわけでも無いため断れない所が難しい部分だ
対応する人数が50を超え出した辺で流石にうんざりしてきたため、トイレに行くと言って席を外しつつチラッと皆の様子を見る。
すると、シャーロットは慣れているだけあってうまい事対処しており、ミヨコ姉はアリアにサポートされながら何とかやれているのを見て安心した。
もよおしていたわけでも無いが、一応形だけトイレへと行き戻る途中で……一人の貴族の男性が声をかけて来た。
「初めまして、アステリオス殿。私はファンブル家当主、フーロ・ファンブルと申します」
「これはご丁寧にどうも、セン・アステリオスです」
差し出された右手を取り握手しながら、改めて相手を観察する。
年の頃は50代で中肉中背、やや険しい目元以外に目立った特徴の無い男性だ。
「1つお聞きしたいのですが、アステリオス殿がチャールズ皇子と懇意にされていると言うのは事実でしょうか?」
そう言ったファンブル卿の眼が、怪しく光った様に見えたのは俺の気のせいだろうか。
「懇意にしていると言うほどの話ではありませんが、以前学園を訪れた際には案内役を仰せつかり、幾つか言葉を交わさせて頂きました」
「ふむ。噂ではお二人は、大層楽しく学院の催しを観戦なされたと聞きましたが?」
ファンブル卿が顎髭をしごきながらそう聞いて来たので、俺はギクリとした後せき払いすると、必死に取り繕って応える。
――まさか、チャールズとため口で話してたなんて広まってないよな?
「えー……、チャールズ皇子が魔術戦に大層興味をお持ちだったので、軽く解説の真似事をさせて頂きました」
俺がその様に回答すると、ファンブル卿は満足げな顔で頷いた。
「やはり噂は事実でしたか……いやぁ、チャールズ様が幾度かアステリオス殿の話を楽しげにしていたのを聞いた者がおりまして、もしやと思いましたが……良かった良かった」
初めて顔を合わせた時とは打って変わって、柔らかい瞳でそう言うとファンブル卿は「これからも末永くお願いします」と言って、立ち去って行った。
「……一体、何だったんだ?」
そう思わず呟いた所で、モーリスさんやリーフィアが言っていたことを思い出す。
――もしかして、アレがいわゆるチャールズ派閥の人間ってことか?
その事に気づいてみれば、今日執拗にお見合いの誘いがあったのにも合点がいく。
要は、俺と言う人間をどっちの陣営が引き入れるかの勝負をしていたのだろう。
「くそっ」
思わず自分の馬鹿さ加減に苛立ち、壁を殴りつける。
致命的な発言はしていなかった筈だが、2人に忠告されていたにも関わらずこれでは、何のために教えてもらったのか分からない。
「……セン? どうかしたの?」
労わる様な、心配する様な声が聞こえてそちらを見てみれば、赤いドレスに身を包んだリーフィアが立って居た。
「……いや、何でもない」
みっともない所を見られたく無くて、思わず顔を背けながら横を通り過ぎようとすると、手を握りこまれる。
「何でもないって顔、してないわよ」
リーフィアがそう言って瞳を覗き込んできたので……誤魔化す様に頭を掻いた。
「そう……かもな」
苦笑いしながら応えると、リーフィアが俺の手を引っ張って会場とは逆方向に歩き始める。
「お、おい。あんま席外すと…・…」
「……いいから、ちょっとついて来て」
「……了解」
久しぶりに有無を言わせない口調でそう言われて、俺は内心白旗を上げながら黙ってリーフィアに手を引かれながらついて行く。
会場近くが騒がしかったため気づかなかったが、今の皇城は人の行き来も無く、静かなせいで……まるで俺達二人しかいないような錯覚に陥る。
「……確かこの辺りだったわよね?」
そんなリーフィアの独り言を聞きながら、客間の一室を開けてベランダに出ると――俺は思わず言葉を失った。
静寂に包まれた真っ暗闇の中、視界一杯に光の瞬きが……星々の輝きが広がった。
「すごい……な」
思わずそんな陳腐な言葉しか出なかったが、リーフィアも黙ってうなずいてくれた。
どれくらい時間が過ぎただろうか、1分だった気もするし、10分だったような気もする。ただ一つ言えるのは、さっきまで抱えていた自分に対する苛立ちやモヤモヤは殆どなくなっていた。
「ここが私のとっておきの場所……気に入って貰えたみたいで、良かったわ」
そうはにかむ様に言われ、思わず笑い返す。
「ああ、素敵な場所を教えてくれてありがとう」
「別に、大したことではないわ」
口ではそう言っていたが、暗闇の中にあってリーフィアの頬は僅かに赤くなっている様に見えた。
「それで、センは一体どうしたのかしら? もしかして、ランスに負けた事を引きずってるとか?」
リーフィアが星を見上げながら少し茶化すようにそう言って来て……俺は1つ大きく伸びをしながら応える。
「もしかしたら、それもあるのかもな。ただ、自分の馬鹿さ加減に嫌になってな……」
そう言って俺は、お見合いの件やファンブル卿について話をした。
「成程……ね。まぁ、確かに少しセンは脇が甘かったのかも知れないけど、でも政略とか策謀なんかに慣れてないんだからしょうがないじゃない?」
「俺一人の話だったら……まぁ、それでも良いんだけどな」
今回の件で俺が何か失敗すれば、リーフィアを始めとして、他の皆にも大きな迷惑をかけかねない。
――それは、俺の中では絶対に許せない禁忌だ
「センは……少し、背負い過ぎだと私は思うの」
そう言って来たリーフィアと目が合い、俺は目を逸らすことが出来なくなった。
「私達皆の事を真剣に考えて力に成ろうとしてくれている……それは凄く伝わって来るし、センの美徳だと思ってるわ」
一回そこでリーフィアは話を区切ると一歩近寄って来て、続きの言葉を紡いだ。
「だけど、センの苦手な部分もきっと誰かは補えるから……だから、もっと私達に苦手な所も晒していって良いのよ?」
そう言われて俺は、思わず空を見上げた……視界の端が滲み出した様な気がしたから。
「……サンキュな、リーフィア」
「別に良いわ。センには返しきれない程の借りが有るもの」
そう言ったリーフィアの声はどこか弾んでいて、それから暫くの間も俺達は星空の下二人で話し合った。
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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
最近更新が滞っており申し訳ありません。
理由としては本作とは別の作風――ラブコメ作品にも挑戦したい欲求にかられてしまい、そちらを推敲していたのが理由になります。
余りいらっしゃらないかも知れませんが、もし本作を読んでおられる方の中で、作者の書いたラブコメを読んでみても良いという方がいらっしゃったら、一度下記作品をお読みいただけると嬉しく思います。
尚、どちらの作品も一定間隔で更新出来る様、今後とも努力していきますので、引き続きよろしくお願いします。
「早起きは人生のトク!~爺さんを助けたら、資産4兆円の男の養子になって嫁候補まで出来ました~」
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