第14話 美少女×浴衣=超美少女

「もう、毎日訓練ばっかで飽きたー!!」


 食堂で皆と一緒に夕食を食べていた所、突然アリアがそう叫んだ。


 確かに、皆が騎士団に来てからというもの、やっていた事と言えば訓練、訓練、また訓練とまるで部活の合宿の様な始末だった。


「ははは、まぁ私の場合は体験入団と言う形で来ているけれど、君たちの場合はあくまで友人の実家に来ている様な物だしね。そう考えると、現状に苦言の一つや二つ呈したくなるのもまた、道理だね」


 グデーっと机に倒れ込むアリアを見て、レーナ先輩が苦笑しながら言った。


「お前の場合は、訓練に飽きたと言うより単純に遊びてえだけだろ」


 対面に座ったジークがそう言うと、アリアが頬を膨らませた。


「あーあ、これだから訓練大好きな奴はヤダヤダ……ナナちゃんも、そう思うよね?」


「ふぇっ!?」


 デザートのプリンを蕩けそうな顔で食べていたナナが、突然話を振られてビックリしている……うん、ウチの妹はいつも通り可愛いな。


「うんうん、成程……確かに、最近ちょっと訓練ばっかだったから、せっかくの夏休みだし楽しい事したいなぁとは思ってたかも」


 ミヨコ姉に耳打ちされて、会話の流れを理解したナナがそう言うと、リーフィアが珍しくナナの言ったことに対して難色を示す。


「私は……訓練をもっとしたいと、思ってるわ。もし皆が遊びに行くなら、私は置いて……」


 リーフィアがそう言った所で、その背後からヌッと変態が現れた。


「あんらぁ、そんな事言っちゃダメよ、リーフィアちゃん。稽古つけてあげてる時も言ってるでしょ? 何事もメリハリが大事なのよ!」


 野太い声で諭したのは、メイド服姿の変態――もとい、ガッチさんだった。


「師匠……そうは言っても」


「ダメな物は、ダァメ。丁度明日には花火大会があった筈だから、皆でそれに行ってきたらいいわ。ね? ユフィちゃん」


 そう言ってガッチさんが意味ありげにウインクすると、ユフィの背筋が跳ねた……ん?


 妙に驚いてるが、何か隠しごとでもあったのか?


「えっ、ええ……そうですね」


 そう言いながらユフィがチラッとこっちを見た後、大きなため息を吐いて話し始める。


「明日の16時から花火大会がありますし、騎士団でも出店など出すので、皆で参加しましょう……皆で」


「えっ、出店が有るの!? 私、出店の食べ物を食べるの夢だったの!」


 気落ちした様子のユフィと、何やら変なスイッチが入ったらしいシャーロットを眺めていると、ミヨコ姉が「そうだ」と言って手を叩いた。


「どうせだから皆で、浴衣を着てみない?」


 そうミヨコ姉が言うと、リーフィアやアリアが首を傾げた。


「あー、一部の子には馴染み無いかもね。浴衣って言うのは、主に夏祭りの時等に女の子が着る最終兵器リーサルウェポンよ。男性に対する魅力と言う名の戦闘力が、3倍に跳ね上がるわ」


 そんな謎解説を始めるガッチさんに、皆が「成程……」と頷いている。


 いやいや、その人が言ってること9割は適当だから……って言うか、ユフィや提案したミヨコ姉まで頷いているのはどうなのよ?


「花火、浴衣、出店、たこ焼き、りんご飴……」


 なんかよく分からないスイッチが入ったままのシャーロットに、思わずため息を吐きながら団長に明日の予定を説明しに行くことに決めた。





 翌日、午前中の訓練は普段通りに行い、昼食を取った後は自由時間になったんたが、女性陣は着付けなどで忙しいという事で、やる事も無くなった俺とジークは休みにも関わらず、隊舎の中庭で軽い手合わせをしていた。


「そう言えばお前とアリアは、俺達が遺跡行ってる間、アリアの実家に行ってたんだっけ?」


 手首の様子を確かめる様に刀を振り下ろすと、ジークに難なく受け止められる。


「まぁな」


 素っ気ない言葉と共に、鋭い斬上からの斬下しを寸での所でかわすと、刀を突きこむ――が、かわされる。


「先方の両親は何か言ってたのか? 相手方、伯爵家なんだろ?」


「いいや、元々病院では何度か顔を合わせてたから……なっ」


 言葉と共に渾身の四斬撃が放たれ、それを受けようとするが……四連撃目で刀を弾き飛ばされ、喉元に剣を突き付けられた。


――まだ握力が戻って無いせいで、握りが甘くなったな……


「参った、降参だ。……何だかんだで、お前も強くなってるよな?」


 そう言いながら降参の意味で両手を上げるとジークが剣を収め、俺は飛んで行った刀を拾いに行く。


「今のお前に勝っても、何も嬉しくは無いがな」


 そう言いながら、四連撃の調子を確かめる様に再度繰り出しているジークに呆れていると、べノン姐さんが手を振っているのが見えた。


「よっ、ミヨコ達の着付けが終わったから呼びに来てやったぞ」


「それは、わざわざすいません」


「別にいいって事よ。んで、そこのアンタがセンのダチか……成程、いい面構えしてんじゃないの」


「……ありがとうございます」


 複雑な表情をしたジークが一応感謝すると、ワハハと笑いながらジークの背中をバシバシ叩いている。


「いや、コイツの顔がいい面って……べノン姐さん、もう老眼始まってるんですか?」


「はっ、言うじゃねぇかお前。アタシが復帰した暁には、みっちりシゴいてやっからな」


「うへぇ……それは勘弁して下さい」


 そんなやり取りをしながら、少し広めの一室へと移動すると、べノン姐さんに扉を開ける様に促された。


「あー……入るぞ」


 一応そう断りながら室内に入り――心臓が跳ねた。


 ただでさえ可愛い皆が、髪色に合わせた浴衣を身にまとい、髪留めや小物入れを身に着けた姿は、一瞬呼吸が止まるかと思うほどに見惚れた。


「どう……かな?」


 少し赤面したミヨコ姉が、首を傾げながら聞いて来て、俺は鼻血が出てないか思わず確認しながら応える。


「うん、言う事がない程サイコー」


 そう応えると、ミヨコ姉が「えへへ」と笑っていた。


 ……可愛すぎかよ!


――ギュッ


「いてっ……て、ユフィか」


 脇腹をつねられたのでそちらを見てみれば、俯きながらもそっぽを向いたユフィが立って居た。


「……感想は?」


 身長差から、見上げる様な格好で、頬を赤くしながら聞いて来るユフィ。


「あー……うん、凄く可愛い」


 思わず目を反らしながら応えると、ユフィがクスりと笑った気がして見てみるが、その時には頬を僅かに赤くしながらも、いつものすまし顔へと戻っていた。


「お兄ちゃん! 見て見て、コレお姉ちゃんと柄がお揃いなの!」


 そう言って両手を広げながら浴衣を見せて来るナナを見て、思わず少しホッとする。


「ああ、そうだな。ナナにもその柄良く似合ってるよ」


「ほんと?  やたっ」


 俺が褒めてやると素直に喜ぶナナを見て、思わず口角が上がる。


「はぁ……さっきから見てれば、デレデレばっかして。ほんと、アンタって色々分かりやすい性格してるわよね」


「デレデレはしてないっての」


 そう言いながら振り返ると、ピンク色の浴衣を着たシャーロットが拗ねたような顔をして立って居る。


「……何よ、何か文句あるの?」


「いや、意外とそう言う格好も似合うなって思ってさ」


「なっ!? アンタって、ほんとに、もう!!」


 頬を赤くしながら癇癪を起こすシャーロットを見てニヤニヤしてると……少しボーっとした様子のリーフィアが視界に入る。


「祭りに行くのは嫌か?」


 単刀直入にそう尋ねてみると、リーフィアは首を横に振った。


「シャルと同じで私も出店などの物は食べた事無いから興味はあって、楽しみなのだけれど……」


「こんな事していて良いのか、不安になるのか?」


 そう尋ねると、素直に頷き返される。


 今のリーフィアの気持ちが、俺にも何となく分かった。


 かつて俺も学園入学前に、皆を守れる力が欲しい――その一心で我武者羅に訓練を行い、鍛えて体を壊したから。


「そうか。俺はその葛藤が悪いとは思わない。ただ、あんまり根詰めすぎると……俺みたいになるぞ?」


 そう言って笑いかけると、リーフィアがクスリと笑った。


「そう……かもね。ねぇセン」


「ん?」


「私の浴衣姿には、何か無いのかしら?」


 少し照れた様子ながら、ファッション雑誌の表紙の様なポージングをしたリーフィアに対し、俺は親指を立てた。


「勿論、超綺麗だよ。リーフィア」


 そう応えると、リーフィアが花の様な笑顔を咲かせた。

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