第7話 転移先と感謝の気持ち
白い光に包まれて強制的に転移させられた先に有ったのは……先ほどまで同様の石壁に覆われた部屋の中だった。
「リーフィアッ、シャーロットッ」
咄嗟に2人の名前を呼んで、周囲を見回してみれば……どちらもすぐそばに立って居る事を確認し、安堵する。
「ここは一体、どこなのかしら?」
リーフィアが油断なく大剣を構えながらそう疑問を口にし、扇を手に扉を見ていたシャーロットが俺の方へ視線を向けて来た。
「多分遺跡の中だと思うけれど……3人同じところに転移させられたのは、良かったわね」
「確かにな……2人とも、体や装備に異常はないか?」
そう尋ねると、2人は互いの装備を確認し合って「問題なし」と返してくる。
「そっか、それなら良かったが……2人とも、ゴメン」
そう言って勢いよく頭を下げると、2人が慌てふためく様子を空気から感じた。
「突然頭を下げてどうしたのかしら? 別に謝られる様な事をされた覚えも無いのだけれど」
リーフィアがそう言い、シャーロットが「私も謝られる覚えが無いわ」と応えて来るが……。
「多分、この転移に2人が巻き込まれたのは俺のせいだ」
そう告げて、頭を下げ続ける。
――転移直前に聞こえた、「汝に資格は、ありやなしや」と言う声が言った資格が天使の因子を指しているのだろうと、半ば以上の確信があったから
そんな俺の様子に2人が近づいて来ると……肩を掴んでゆっくりと正面を向かせた。
「そんな事、気に病まなくても良いわ。遺跡の探索だもの、何があるかなんて誰にも予測できないのだから」
「リーフィアの言う通りね、別にアンタ――センのせいで巻き込まれた何て誰も思って無いわよ」
そう2人に告げられて……俺は申し訳なさと、有難さに胸が一杯になる。
「ほら、そんな顔をしてないで、シャキッとして私たちに指示出しなさいよ!」
言葉と共にバシッと背中をシャーロットに叩かれて、思わずむせながら口の端を上げる。
「……ありがとう、2人とも」
改めて感謝を告げた後、部屋の外に繋がっていると思われる扉を見ながら指示を出す。
「扉から出た後は基本俺が前衛に上がるから、シャーロットは中衛、リーフィアは背後の警戒を頼む。後、今後は敵に気づかれない様に、小声かジェスチャーで意思疎通を取るようにする」
そう言うと2人が頷き返してくるのを確認して、部屋に1つだけ有る扉へ張り付くと――外の音を確認し、目立った足音などが無い事を確認の上、扉をユックリと開いて状況を確認する。
――すると、途端に金物臭い匂いが鼻を突く
匂いに顔を顰めながら扉の隙間から見えた景色は、先ほどまで俺達が居た部屋同様に、ピラミッドの中の様な景色が広がっていた。
ただこれまでとは明らかに、空気の淀み具合が異なっている。
「取り敢えず、見えてる範囲には魔物の類は居ないが、ナニかが居るのは間違いないなさそうだな」
そう言いながら扉をゆっくりと押し広げて行く。
「……いくぞ」
肩を回しながら静かに2人に告げると、部屋を出て……一番後ろを歩いていたリーフィアが部屋を出た所で、自分たちが出てきた部屋に続く扉が消失する。
「……っ」
シャーロットがそれを見て驚きの声を上げそうになるも、手で押さえて阻止した。
――まぁ、俺も思わず声が出そうになったけど
暫くしてシャーロットが落ち着いたのを確認すると、金属の匂いが強い左側の通路へと移動を開始する。
地面の硬い、無機質な感触を感じながら数分歩いた所で……曲がり角の先に、2体の赤黒いスケイルメイルが歩いているのを目にした。
――巡回しているのか? それにあの色……転移前に見た物とは違うな
血の様な色をしたスケイルメイルはつかず離れず2体一緒に移動しており、その様はまるで警備を行う兵士の様だ……。
そんな事を考えていると、スケイルメイルがコチラの通路へと近づいてくるのを確認して、小声で指示を出していく。
「俺とリーフィアの二人で一気に詰めるぞ……シャーロットはバックアップを頼む」
そう告げた後、腰に差した刀を抜くと雷撃を充填していき――俺の様子を確認したリーフィアが風を大剣に纏わせる。
リーフィアが準備出来た事を確認すると、2人に見える様に指でカウントを開始し、息を合わせる――。
――3、2、1……
0の瞬間2人で飛び出すとスケイルメイルへ肉薄し、その胴を一刀の下、薙ぎ払う――が、しかしスケイルメイルの持った剣に受け止められ鍔迫り合いになる。
必然、近くでスケイルメイルの兜の中を覗くことになるが、ソコには赤い炎が灯っている他は伽藍洞が広がっていて、中身は存在しない。
「っち」
軽く舌打ちしながら飛び退り、ナイフを4本投擲するが、直進して行ったそれらは、いずれもはじき落される。
しかしその隙に刀を担いだまま飛び上がると、スケイルメイルの頭上で宙返りしながら頭頂部を斬りつける。
――ガンッ
と言う鈍い音と共に敵の頭を下げさせると、体を捻りながら着地し――正面に晒された無防備な背中目掛けて、刀を振るった。
「はぁっ」
裂帛の気合と共に振るわれた刃は、今度こそ鎧に吸い込まれ……不気味な色をしたスケイルメイルを切り捨てた。
「リーフィアッ、今そっちに……」
思わず声を上げながらリーフィアの方へと向き直ると、丁度リーフィアの刃と……いつの間にか前衛に上がったシャーロットの雷の刃が、鎧を貫いた所だった。
「やるなぁ……」
2人が只の鎧と化したスケイルメイルから刃を引き抜き、中から魔石を取り出して灰にするのを見て、思わずそう呟いた。
「まっ、ざっとこんなもんね」
「最初、雷矢が効果なくて慌ててた気がするけれど?」
「それは忘れなさいよ!」
そんな風に小声で言い争いする2人のやり取りを見て、思わず口角が上がってしまう。
「2人とも、ありがとう」
改めて2人にそう言うと、キョトンとした顔をされる。
――平常心を保っている2人を見て、俺の心が少し和らいだため、思わず感謝する
「さっきと同じで何で感謝されたのか分からないけど、私たちも……センが居るお陰で、安心して戦えてるんだし、お互い様でしょ」
「ツンケンしながらも、最近何だかんだでセンの事を認めてるわよね? シャーロットは」
「別にそんな事無いわよっ!」
そんな風に軽口を叩き合いながら、俺達は転移先の遺跡の探索を開始したが……そんな余裕が続いたのは、異様な気配を放つ大扉を見つけるまでの話だった。
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