第21話 友人関係
1学期にあった事を、一部を除き話終えるとアリアは満面の笑みをしながら、ジークの脇腹を突いた。
「セン君以外とはあんまり喋ってないかと思ってたけど、昔と違って最近は結構楽しそうにしてるみたいじゃん? そこんとこ、どうなんだコノヤロー!」
「いつも以上にうぜぇ……」
ため息を吐くジークと
「その……聞きづらいのだけれど、アリアはいつ頃退院できそうなのかしら?」
「予定では、ギリギリ終業式には出られそうかなぁって位。足を怪我した事で魔力回路がおかしく成ってたのも、ようやく回復したみたいで」
そう言いながらアリアが大きく伸びをすると、皆少しほっとした顔をする。
「だからさっ、よければ皆とは夏休み中いろんな話したり、遊んだりしたいんだよね……どうかな?」
それまでとは違い、一転して不安げに聞いて来るアリアに対し、真っ先にナナが返事した。
「私もアリアさんと話したり、遊びに行ったりしたい! みんなもそうだよね!?」
その問いかけに皆が頷き返すと、ジークがアリアの頭を乱暴に撫でた。
「病人が変な事気にしてんじゃねぇよ」
「……うん」
俯きながらはにかむアリアを見た後、ジークが俺に向けて廊下の方を指さした。
「ちょっと俺達は飲み物飲んで来るわ」
そう皆に断りを入れると、ジークと2人で病室を出た。
病室からしばらく歩き、休憩スペースのソファに座る。
「なんだよ?」
「……その、なんだ」
何かを言おうとして口を開いてはやめるのを繰り返したジークが、何度目かにしてようやく口に出した。
「ありがとな……見舞いに来てくれて」
「別に大したことじゃねえだろ、あんま他の奴から話聞かねえけど、別の同級生だって来てんだろ?」
ウチのクラスの奴からは聞いた覚えが無いが、アリアのあの性格だ、頻繁に見舞いが来ている奴もいることだろう。
「入院して最初の内は、来てたけどな……」
そう言って語り始めたジークの話は、理解は出来るものだった。
元々気さくな性格と優れた容姿で人気の高かったアリアだったが、ジークと一緒に居る事が増えるにつれて少しずつ距離を置かれることが増えていき……事件が起きた事によって、その傾向は一層強くなったという。
それでも何人かは、転院する前に居た伯爵領内の病院へ足を運んでいたそうだが、ジークと面会が被ったりするにつれ徐々に減って行き……遂には面会に来るのはジークだけになったという。
だが会いに来なくなった彼女たちが悪いかと問われれば、そうでも無いだろう。中等部や高等部という多感で、友人関係も日々変化する時期に、半年以上も入院していれば近くにいる友人を優先するのもやむを得ないとは思う。
「アイツは気にしてないって言ってたが……俺さえいなければアイツは――」
「――テメェはバカか」
それ以上先を言わせる前に、怒り交じりに吐き捨てた。
「何でお前が悪い事になってんだよ、悪いのはアリアを監禁した連中だろ。……そもそも、お前が居ない方が良いなんてアリアが言ったのかよ?」
「いや……アイツは――アリアはそんな事は一度たりとも言わなかったが」
「なら、ウジウジしてんじゃねぇよ……それに、友人が来なく成ったのは別の可能性もあるしな」
「別の可能性だぁ?」
ジークが聞き返してくるが、俺は気にするなと言って答えなかった。
……別の可能性――アリアとジークの仲の邪魔をしたくなかった奴が居たかもしれないというのは、希望的観測だろうか?
「そろそろ戻ろうぜ」
そう言って立ち上がり、アリアの病室の前まで戻ってみれば、廊下の外まで楽しげな声が漏れ聞こえて来る。
そんな雰囲気の邪魔をしない様にゆっくりと扉を開けると、案の定
「あっセン戻って来たのね、私たちの飲み物は?」
そうシャーロットに聞かれたので、頭を掻いて誤魔化す。
「わり、買ってくんの忘れた」
「アンタにしては珍しく、気が利かないわね」
「まぁまぁ、シャーロットちゃん。弟君もそんな時くらいあるよ」
口を突き出して文句を言うシャーロットを、ミヨコ姉がなだめる。
「それなら、皆で行けばいいんじゃないかしら?」
そうリーフィアが提案すると、アリアがベッドの上で手を振った。
「あっ、それ私もサンセー! ジーク、車椅子持ってきて」
「ったく、しゃあねぇな」
そう言ってジークが車椅子を用意し、皆が廊下へ出ていくところで――ユフィが耳打ちして来る。
「……ジークは大丈夫そう?」
能力を使っていなくても感情の機微に
「そう。なら、良かった」
珍しく満面の笑みを見せたユフィと一緒に、先に廊下に出てアリア達を待った。
◇
結局アリアの見舞いに行った日は、昼食を一緒に食べた後も面会時間が終わるまで皆で話し込んだ。
正直俺やジークなんかは喉が痛くなったが、皆はそうでも無かったようで、思わず男と女の違いを考えたりもしたが、なんやかんやあった一日は幕を閉じた。
そしてアリアの見舞いに行った次の日――ようは今、俺は寮のロビーにあるソファに座って皆を待っていた。
なんでも、今週退院予定のアリアの退院祝いを早速買いに行くとのこと。俺達がいない間に妙に意気投合してた理由を皆に問いかけてみたんだが、残念ながら答えて貰えなかった。
「あっ、お兄ちゃんお待たせ!」
背後から声をかけられ振り返ると、膝丈程のスカートにブラウス姿のナナが手を振ってっており、その後ろにはハイウエストのロングスカートに、お揃いの白いブラウスを着たミヨコ姉が居た。
「ごめんね弟君、待った?」
「いんや、全然。今日は2人で同じブラウスにしたんだ?」
「うん、実はコレお姉ちゃんが作ったんだよ!」
そう言って袖を引っ張りながらナナが見せて来る服は、服飾に詳しくない俺からしたらプロの仕事と見紛うばかりだ。
「どんどん上手くなってくね、ミヨコ姉。その内店開けるんじゃない?」
「全然そんな事無いよ、まだまだ縫製が甘い所有るし……」
顔を真っ赤にして、ミヨコ姉が手を横に振っているが――。
「あら、ミヨコの腕で店を出せないんじゃ、ウチの国の洋服屋の大半は店を畳まなきゃいけなくなるわね」
クスクスと笑った後ツッコミを入れながら、細身のパンツにシャツと言ったカジュアルな服装のリーフィアが現れた。
「全くもう……皆して私をからかって」
「別にからかってるわけじゃなくて、皆素直に尊敬してるだけだと思う」
「俺もユフィの意見に同意だ」
声のした方を見れば、水色のワンピース姿のユフィが歩いてくる。
「ちょっとユフィ、先に行かないで……って、何よ? 何回も言うけど、この服は私の趣味じゃないからね!」
「なんも言ってねぇだろ」
いつものロリータ風の服を着たシャーロットに怒鳴られ、思わず肩をすくめるが、取り敢えず皆が揃ったのでソファから立ち上がり、皆で寮の外へ向かって歩き始める。
「んじゃま、買い物へ出かけるとしますか」
そう言って寮のドアを開けると、一気に夏の日差しが降り注いだ。
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