第13話 騎士団への一時帰還

「……やっと検査終わったか」


 思わずそう呟きながら窓の外を見てみれば、丁度ジェイ達がランニングしている姿がここ――天空騎士団に併設された病棟から見下ろすことが出来た。


「皆は今頃どうしてんのかね……」


 そんな事を思わず口からこぼすが、今週いっぱいは学院に戻る事は叶わないだろう。


 今すぐに命の危険が在る状態ではないが、それでも使徒化したことによる影響を精密調査するため、俺の情報が最も集約されているこの医療機関に搬送されて3日が経った。


 当然学校は既に始まっており、俺の代理として騎士団から派遣されたレインさん達がリーフィアの護衛として付いている状況だ。


 怪我は徐々に治ってきており、何とか松葉杖を付けば歩ける程度には回復し、腕の方も文字を書ける程度には動かせるようになった。だが、魔力核の方は依然修復中で、魔法の使用は固く禁じられてる。


――コンコンコン


「どうぞー」


 ノックの音がした扉へそう応えてみれば、ルーランさんが立っており、その姿は出会った頃となんら変わっていない。


「随分黄昏てるのね?」


「そうですかね? まあ体も動かせないし、先輩方は訓練中だし、皆は学院だし……極めつけには、ユフィから贈られた本はラブロマンスばっかなんだから、ちょっとはブルーな気持ちにもなりますよ」


「ふーん……」


 ルーランさんが俺のベッド横の机に置かれた本を手に取り、読み上げる。


「何々、『修道女の私はその日、白騎士様に出会った』ねぇ……」


 タイトルを読み上げたルーランさんに、探る様な目で見られる。


「なんすか?」


「いやぁ、白騎士様はどんな女の子がタイプなのかなぁって、そんな疑問が湧いて来てね」


 そう言われて、思わずため息を吐きたくなる。


「その手の恋話的な奴は、昨日までに先輩方に探られたんでお腹いっぱいです」


 ……まぁ、見舞いに来た先輩方の質問はそんな上品なものでは無くて、「もう女風呂は覗いたか?」だの、「騎士団の彼氏を探してるって言う、巨乳の女の子は居なかったか?」だのそういった内容だったが。


「ゴメンゴメン、一応検査の結果が出て、3日後には学校に復帰できそうな状態って分かったわよ」


「そいつは良かったです、いい加減寝たきりのこの生活にも飽き飽きしてましたからね」


「それなら、もっと自分の体を労わってほしい物だけどね……」


 そう言って呆れられた所で、部屋の扉がノックされた。


「どうぞー」


 返事を返すと、団長が自分の肩をほぐしながら入って来た。


「よー、会いに来るの遅くなって悪いな。元気してるか? セン」


「この状態でそれ聞きますか?」


 ギブスの付いた腕を掲げると、団長はニシシと笑いながら面会用の椅子に座った。


「いやあ、その状態はお前のデフォルトみたいなもんだろ。見舞いついでに、今回の件が何とか片付いた所で、お前の耳に入れときたいことが有るんだが……」


 そう言いながら団長がルーランさんを目くばせすると、「お邪魔みたいだから、一旦退散するわね」と言って部屋を出て行った。


「それで、耳に入れておくことって何ですか?」


「ん? ああ、まずなんだがセンの活躍でウチは正式に鉱山の里と、ヘイズ侯爵家から感謝状を寄こされたよ。お陰でウチの政治的な発言力は一層増した事について、感謝する」


 騎士団の団長としては、と言う所を特に強調した団長は、真剣な眼差しで言葉をつづけた。


「だがな、名実ともにお前の身内で有るジェイル・アステリオスとしては、今回の件は見過ごせねぇ……確かに、鉱山の里の長を助ける事は大事だが、自分の弟かガキの様に思ってる奴を犠牲にする位なら、騎士団の名誉なんざ要らねぇんだよ」


 燃える様な瞳で、吐き捨てる様に言った団長から、思わず目を反らす。


「……すいません、でした」


 そう言葉を漏らすと、団長は俺の髪をワシワシとかき混ぜた。


「まぁ、それを見る限り散々言われつくしたみたいだけどな」


 笑いながら団長が指さした先――俺の腕や足に着けたギブスを見てみれば、大量の書き込みがされていた。


 そこに書かれた内容は俺の体調を案じたまともな物から、馬鹿なものまで……俺がケガして戻ってきたのを、それぞれの言葉で励ます内容だ。


――まぁ、ガッチ・ゲイさんが呟いた「私のセンきゅんに、こんな怪我を負わせるなんて……生きては返さねぇ」には、メッチャビビったけど


「あー、後これも耳に入れとかなきゃいけないんだが……」


 そう言いよどむ団長に、思わず首を傾げる。


「どうかしたんですか?」


「現状調査中では有るんだが、鉱山の里の長をさらってたゲット伯爵が……殺されたらしい。しかも、頭部以外は原形も留めない程酷い有様だったってさ」


「は?」


 俺は、団長の言ったことが一瞬理解できなかった。


「俺達は伯爵には何も……」


「ああ、それは分かってる。だが、どうやらお前たちが潜入したのと合わせて伯爵を襲った人物が居たみたいだな……お陰で、伯爵領をどうするかで今中央は揉めに揉めてるよ」


 俺達以外に襲った人物――そう言われて、ガイゼルが口にした言葉を思い出す。


『そろそろ、サッサと処分して必要な物取ったら撤収するとしますか』


 意識が朦朧とした中だったが、奴が確かにそう言っていた事を団長へと告げると、途端に渋い顔になった。


「ってことは、ゲット伯爵は誰かの思惑によって殺された可能性が高いか。分かった、この件についてはもう一度検討する。まぁ何にせよ、センが死なずに帰って来て良かったよ」


 そう言って団長は椅子から立ち上がると、「くれぐれも暫くの間は、魔法を使うなよ」そう言い残して部屋を出て行った。


 団長が部屋を出ていくと同時、頭を抱える。


――あの、カエル伯爵が死んだ!?


 思わず、そう叫びそうになる。


 いや、あの男が死んだことは、本来喜ばしいことだ。


 ある意味コレでシャーロットは、ゲームのシナリオからは外れたのだから……だが、どうにも釈然としないものを感じざるを得ない。


 それは、当然奴を自身の手で断罪したかったという物も有るが、そんなに簡単に伯爵という地位にある男を用済みだからと暗殺するかと言う話だ。


――もし何かの意図が有るなら……この件はあくまで何かの前段に過ぎないって事か?


 そう考え事をしていた所で、病室の外から喧しい声が聞こえ始めた。

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