47.操縦術【2/17】

 先週はお祭り騒ぎだった。

 リチャード学長の合衆国大統領就任を祝うお祭りだ。


 ラファエルレイフ大統領は聖書に宣誓するのではなく、国民に向かって演説をした。

 そして国民に宣誓したのである。

 任期満了まで、強いアメリカ、心広いアメリカを全力で実現すると。


 これは多宗教国家でもあるアメリカの本来あるべき宣誓の仕方だろう。


 バチカンを始めイギリス、フランスなどから抗議は相次いだが、俺がそれら講義する国に出向いて説得していった。


 バチカンはその存在そのものを否定できる根拠があるけど公表してみるか?と聞いてみた。

 すると殺気だった暗殺者たちがごろごろ出てきたが、すべて身包み剥いで拘束した。


 ここにきてるのは俺だけじゃないんだよね。

 俺たち200人からのファミリーが姿を消して警戒してくれている。

 おかげでバチカンの秘密書庫にあったキリスト関連の古文献はすべてラーニングできた。


 やはりバチカンは知っていたのだ。


 俺は頃合いだと思い、宇宙軍司令のジョージ・レオナルド大将に会うためにコロラド州

 ピーターソン空軍基地に向かった。


 そういえば今日は水曜日だった。

 スキルメールを確認すると、今日授かったスキルは【操縦術】というものだった。

『どんな乗り物でも操縦できるようになる。』


 …これが免許取る前にあったら…。

 まあ、身体強化と感覚強化のおかげで全然苦労しなかったんだけどね。

 俺たちはフライポットに乗り込み、アメリカのコロラド州に向けて転移していった。


 アメリカ全土のほぼ中間地点に位置するこの空軍基地はピーターソン・スペース・フォース・ベースといい、元々はエアーフォースベース(Peterson Air Force Base)だったところだ。


 さて、何度も襲撃受けてる間柄だが、どんな挨拶をかましてやろうかな。

 俺は念話で、宇宙軍司令に問いかけた。

『まだあなたは私たちの敵ですか?それとも話し合う余地がありますか?』

 と。

 レオナルド大将はとっさに拳銃を構え、あたりを索敵している。


「誰だ!出て来い。」

『いやいや、そんな拳銃振り回しても無駄ですよ。あなたに報告は上がってないのですか、レオナルド司令官。』

 司令官は自分の握っている拳銃を見てラッチを外し、弾倉を確かめて、がっくりと肩を落とした。


「Norioか。いるんだろ?何の話をしに来た?」

『ご挨拶ですね、コマンダー。あれだけしつこく追い回していたくせに。日本にまでちょっかいをかけてくれて、その落とし前をつけに来たんですよ。』

 俺はそう言いながら机の上から物をひとつづつアイテムボックスに収納していき、司令官の部屋には何もなくなっていた。

『俺はいつでもあなたを殺すことができるんですよ、コマンダー。もう大統領も変わったことだし、二度と俺たちの殺害命令は出ないでしょうけどね。』


「あ…あれは、大統領命令で、仕方なくだな…。」

『まあ、その辺はどうでもいいですよ。さて、大統領が変わって、日米安全保障条約も撤廃される。そして、宇宙軍に大量な人員が来てしまいますよね。コマンダー、何か作戦はお持ちですか?』


 俺はそう問いかけながら、部屋の中のものをひとつづつ元に戻していった。


「い…いや。まだ何もプランは提出されていない。大統領からの命令もまだだ。」

『そうですね。俺の方から少し話してくるからと待ってもらっているんですよ。』


 俺は部屋の中に置きなおしたソファーに腰を掛けて、姿を現した。

 いきなり現れた俺に驚いた司令官は、それでも何とか取り繕い、向かい側のソファに座った。


「俺が司令官と話す時間を少しもらったんです。」

「なんだと…。いったい今更私に何の話があるんだ?」

「日米合同宇宙軍の創設へのお誘いですよ。」

「日米合同宇宙軍だと?馬鹿も休み休み言え。日本などまだロケットをようやく打ち上げたぐらいじゃないか。その国とどうやって連携を取る宇宙軍が作れるというんだ?」


 指令は少し笑いながら、余裕を取り戻していた。


「俺からの提案は今言った日米合同宇宙軍の創設ともう一つあるんです。それは地球連邦軍の創設です。そして初代長官にはあなたに就任してもらいたいと考えているんですよ。」

「地球連邦軍?なんだねそれは?」

「地球連邦政府が持つ唯一の軍隊の名称です。」

「地球連邦政府だと?そんなものが作れるわけがない。大体今の国連がそんなものの創設は拒否するだろう。」

「それが、先進国18か国からはすでに内諾をいただいているのですよ。日本と中共を除いてね。」

「…」

「まあ、話だけでは納得しないでしょうね。これが承諾書です。」

 俺は目の前のテーブルに18枚の承諾書を出した。

 そのうちの1枚を拾い上げて司令は読みだした。

「…これはイギリスの…。アメリカと日本が主導する地球連邦政府へ加入することを事前に承諾する。…これは本物かね?」

「ええ、本物ですよ。それらの国々は地球連邦政府の基本主導権を握る国々となります。もちろん、説得にあたって見返りを求められましたがね。」

「…地球連邦政府樹立の見返り?君はいったい何を対価にこれらの国々を納得させたんだね?」


「フライポット。」

「は?」


「各国に1,000機のフライポットの納入を約束しています。それも同時にね。」

「…フライポットとは何かね?」

「それはこの部屋ではいささか狭いので、あの窓の向こうに見えるハンガーでお見せしましょう。」


 俺は司令を促して、部屋のドアから外に出ていった。

 部屋の外には衛兵が警戒していたが、その部屋の中から見知らぬ少年が出てきたので驚き銃を向けた。

 しかし、すぐにNorioだと気づき、一層警戒した。


「無駄なことはしない方がいいよ。その銃もすでに殴るぐらいしか使い道はないからね。」

 と言って、軍用ライフルから抜いた弾丸を床に落としていった。

 部屋から指令が慌てて出てきて、衛兵を止め、一緒にハンガーに移動するように命じた。

 俺たちは4人で、表に見えていたハンガー(格納庫)まで移動した。

 そこで俺はフライポットを出して見せた。

 いきなり楕円形のものが出てきたので警戒していたが、やがて真剣にその機体を見だした。


「俺たちが開発した水空宙対応機体のフライポットです。定員は1名。武器はレーザーガンとレールガン。駆動は水燃料電池で駆動し、ほぼ無制限で空に浮かんでいられます。推進力は重力制御装置です。」


 俺の説明もむなしく、指令と衛兵は心ここにあらずの顔をしている。


「もう一台と。こっちは4人乗りの機体です。こちらでここにいる全員が乗れますので一度乗ってみましょう。」

 俺はそう言って運転席としてある一番前の席に乗り込んだ。

 次は2シートあり、警戒装置と攻撃装置を扱えるような機材が装備されている。

 そして最後の席がコマンダー席だ。

 作戦を練り、次々に指示を出して、全体との動きを調整する役目だ。

 勿論コマンダー席に司令官を案内した。

 覚悟を決めたのか、3人が乗り込んできた。

 俺はハッチを閉め、説明しながら機体を浮かべた。


「この機体は俺たちが開発した重力制御装置と水燃料発電装置で動く空飛ぶ機体です。気密性は整っていますが、まだヒーターを完備してないので、とりあえず成層圏程度まで上昇しますね。」

 俺はそう言って、3人を乗せたまま、光学迷彩をかけて毎秒20m程度で上昇していった。

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