46.ライフポット【2/10】

 今日は大統領選挙がある日だ。ビッグウェンズデーと題打ってはいるが、先週やらかした議会の全裸中継はまだ国民の記憶に新しい。


 今日も新しいスキルが届いた。

【ライフポット】

『このポットに入ることで様々な成長ができる。』

 …?

 様々な成長?

 どういうことだ?

 ライフポットという名前から『生命維持装置』を思い浮かべてたんだが、どうやら違うようだな。


 まあ、それはともかくアメリカ大統領選挙だ。

 共和党の代表候補戦では学長が圧勝していた。

 これは様々な方面への根回しもあったが、現政権と民主党の失態が尾を引いている。

 学長の唱える『教育と移民の戸籍取得、努力した人が報われる世界の実現』というスローガンに多くの人が賛同したが、反発をする人々も少なくなかった。

 これは既得権益をすでに持ってしまっている層だ。


 共和党大統領候補リチャード・ラフェルレイフは記者のインタビューに答えていった。

「まだアメリカは高々230年ほどの歴史しかありません。

 元から、今でも、アメリカは移民国家なのです。

 移民の受け入れ無しではここまでの国は作れませんでした。

 だからこそ、アメリカ国籍を取得した人にも元々持たれている国籍の箒までは求めていません。

 この国は様々な国からの移民を受け入れてここまで大きくなったのです。


 しかし、近年の大統領はこれを排除するような動きをしていました。

 本来ならこれは国家の基盤を揺るがす大問題なのです。

 増えすぎて困る難民を締め出すのではなく、受け入れる方向で考えられなかったのか。

 難民は難民になりたくてなっているのではない。

 その国では暮らせないから難民になってしまうのです。


 強いアメリカよ。


 なぜその人たちを受け入れないのですか。

 受け入れるためのシステムを作ることこそが、アメリカにとって必要なことだったのではないでしょうか。

 アメリカはまだ若い国です。

 受け入れるために流動的な試みができるほどに若い国家なのです。

 そしてそのアメリカに皆は希望を抱いて国境を越えてこようとするのです。


 中には過激思想や破壊活動を起こすような他国の工作員が紛れているかもしれません。

 しかし現在のアメリカはそれらの人も受け入れて、回っているのです。

 1,100万人いるといわれる不法入国者の人々がいて、そのうち800万人ほどがすでに就労しています。

 英語が話せない人、読めない人も多くいます。

 私が支援している動画サイトで勉強してみてください。

 あなたたちはそれを見た後、すぐにでも文字が書け、読め、話ができることに驚くでしょう。

 そして母国では受けられなかったであろう教育もそのサイトで受けてください。

 大学入学までの知識はすぐに身につくでしょう。

 その上で、堂々と入国管理局の扉を叩きましょう。


 私が大統領になった暁には、それらの人がそれ以上不法滞在を続けないで済むようなカリキュラムを組んでお待ちしています。

 あなた方が今後アメリカをもっと強くするためのカギになります。


 アメリカ国民よ。

 今以上の研鑽を積まないとすぐに隣の人に置いてきぼりを食らってしまうよ。


 世界最高峰と言われているMITは広く門戸を開けて、一緒に研鑽するものを待っています。

 努力した人が報われる世の中を一緒に作っていきましょう。」


 このインタビューは何度もTVで流された。

 この移民問題は、アメリカが抱えているジレンマともいわれている。

 拒否反応を示す人たちは自分が移民の子孫だという自覚がないか、すでに生活が貧困で、自分たちの生活が脅かされると危惧している人たちだ。


 そんな人たちに「もっと勉強しろ!」とMITの学長が訴えたのだ。


 その一方でメキシコ国境付近に20か所に上る『移民管理センター』を置き、そこで不法入国してきた人たちの事情を聴き、教育を施し、アメリカ滞在許可証を発行するシステムを発表した。

 このセンターには滞在者の自立、学習を促すための施設が予定されており、学習のメインはMIT監修のもと製作されたといわれている『移民者向け学習プログラム』だ。

 ここで危険思想のチェックや集団生活でのチェックを行い、不適合者は収容所に送られ、そこで再教育を受ける。

 収容所では道徳観念や社会ルールなどを主に教育され、それをクリアしなければセンターでの学習には復帰できなくなっている。

 また、このセンター内での殺人、窃盗、強姦などは厳しく取り締まられ、未遂であっても強制送還となる。

 これは入所の際に全員に告知されるもので例外は認められない。


『受け入れる体制は用意しました。ここを無事卒業できれば、晴れてあなたたちはアメリカに迎え入れられます。』ということだ。


 そして画期的だったのが、過去の不法入国者も受け入れると発表したことだった。

 どれだけ高齢者でもセンターが受け入れて、再教育を施し、識字率の向上、就職の斡旋を行うと発表した。過去の不法入国の罪は問わないというものだった。

 センターで生活している間は、衣食住の負担はすべてアメリカ政府が行う。


 これはアメリカ国民に大いに受け入れられた。

 なぜなら、すでにアメリカ国民として溶け込んでいるものの中にも、そのような人たちが大勢いたからだ。


 アメリカの永住権を取得するためのプロセスとして「合法的に」入国していなければ、いくら滞在期間が長くても永住権は取得できない。市民権も同様だ。


 中には第二次大戦後のどさくさにまぎれて、取得している国民も大勢いた。


 これらの人々がすべて合法的にアメリカ国民になるための道が示されたのだ。

 学長は敢えて一つの釘を刺した。


「グリーンカード取得までの道はこれで示されました。しかし、アメリカという移民国家に他国の干渉や攻撃に耐えうる国民であるためにも、新たにセンターからアメリカ国籍を取得した人たちには『帰化検査』というものも実施します。国籍を認められたいがためにごまかすような隣人はいらないのです。あなたのために、アメリカのために働く国民が必要なのです。」


 これは学長と俺の本根でもある。


 このシステムを日本にも導入しようと考えているのだ。

 それと学長にもう一つ爆弾発言をしてもらった。


「現在結んでいる米日安全保障条約と米韓相互防衛条約は見直しを行い、撤廃したいと考えている。これは日本、韓国共にアメリカの核の傘の元、ゆがんだナショナリズムが芽生えているため、今後の国交正常化に困難をきたす恐れがあるためだ。


 日本は先の大統領発言にもあったGHQの占領政策失敗における日本国憲法の平和条文が、この安全保障条約ありきで成立している経緯があるためだ。


 日本は真の独立国となってアメリカの盟友となってほしい。

 その願いを込めての米日安全保障条約の撤廃である。


 また、韓国は度々国民論争の的になっている在韓米軍の駐留問題に一定の結論を出そうと考えている。

 日本、韓国に駐留している米国軍人をアメリカ本土に引き上げ、新たに創設された宇宙軍や「移民管理センター」での防衛業務を行ってもらいたい。

 これにより、アメリカの駐留における費用がなくなり、「移民管理センター」の維持費や宇宙軍への予算としたい。」


 この発言に日本も韓国もあわてた。


 今まで自国の防衛を他国に委ねて安穏と暮らしていたのが、アメリカからの謝罪と共に防衛力を持たなければならなくなったからだ。


 韓国では今までさんざんアメリカ軍の駐留を追い出そうとしていた者たちまでが、自国軍で北朝鮮からの攻撃を防げるのかという論争が巻き起こっている。


 まあ、韓国はどうでもいいんで無視しますか。


 元々いたるところで政治の腐敗が進み、軍事費をはじめとして利権を確保している連中が多すぎる。

 その連中を一掃しようとしても、後釜も同じ穴の狢でしかない。


 一方日本では、先の2回の大統領からの命がけの謝罪と今回の発言を受け、与党がようやく憲法改正に乗り出した。

 アメリカの防衛力がなく、日本が攻撃にさらされると、中共、北朝鮮、さらには韓国からも攻撃される可能性が出てくる。

 国土防衛案は見直され、憲法改正に向けて大きく動き出した。


 アメリカでも米日安全保障条約の見直しと米韓相互防衛条約の見直しは大きく歓迎された。

 この二つの条約はアメリカ側が一方的に持ち出す予算が多すぎたのだ。

 日本も韓国もアメリカの軍事力に依存しているのは明白で、アメリカが危機の時に助けてくれる軍事力など今の日本や韓国にはない。


 日本での駐留費は1兆200億円を超える。そのうち思いやり予算として、日本は2,000億円弱の経費を支払っているに過ぎない。

 日本で3万6,000人程度、韓国で2万8,500人が駐留している。

 令和2年現在で日本は8,500億円、韓国は5,500億円要求されている。

 もっともこの数字は多分にアメリカからの経済圧力に勘案されている。

 つまり、軍を駐留させるためにアメリカからもっと物を買えという脅しだ。


 アメリカの軍産複合体が解体しかかっているこの時にしか、この発言はできない。

 そしてその後押しをするのが俺の役目となるんだよな。


 アメリカ国民は強いアメリカ、心の広いアメリカを夢見て、第47代アメリカ合衆国大統領にリチャード・ラファエルレイフは選ばれた。

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