18.建築【7/29】
水曜の朝が来た。
今日のスキルメールは【建築】というスキルを授かった。
『材料さえあれば何でも建築できるようになる。』
…これはすごいぞ。
俺は俺の土地にある山の頂上付近に一軒のログハウスを建ててみた。
うん。いいね。
本来なら建築の確認申請がいるんだろうけど、ここは都市計画区域外だし、このログハウスは単なる『管理小屋』だ。こういう使い方なら文句は出ないだろう。
俺は一人になれる空間を手に入れた。
……が。
一人でいられたのは、この部屋が見つかるまでだった。
夜には、メンバーが集まってきて、雑談室になっちゃった。
夜に俺を探して外に出た美香がどこからか流れてくるギターの調べを追いかけて、この小屋を見つけたらしい。
身体強化恐るべし。
すぐさまみんなに念話で伝えられて押しかけてこられた。
みんなここには飛行できたが、帰りは瞬間移動で帰っていった。
みんな能力を使いこなしてるよね。俺よりかも。
さて、そうこうしているうちにライブハウス出演の8/1が来た。
俺たちは18時から始まるステージのために17時には楽屋入りしていた。
今日は俺たちしか出演しない。
…が、事前に美智さんたちに言って、俺たちの前にドロップとブレーメンのステージを急遽組むことにしたのだ。
それぞれ3曲だけだが、これがみんなのデビュー戦になる。
まずはドロップからだ。
彼女たちが自ら申し出て、前座を務めることになった。
俺のコーディネートしたライダースーツが身体のラインをくっきりさせてかなり色っぽい。キャッツアイの上には彼女たちのそれぞれのイメージカラーでラインが入っていた。
この店は常連客が結構多いようだ。
初めから結構人が入っている。席はほぼ埋まってきつつある。
彼女たちはステージに上がっていき、それぞれがシールドを刺して準備している間中、ドッドッドッドッとバスドラムが響いている。
一曲目は『Bride of tears(涙の花嫁)』という曲だ。
この歌で歌われている花嫁の涙は決してうれし涙じゃないんだ。
悔し涙なんだよな。
親の仕事のために取引先の御曹司と結婚させられる。
なんで私がこんな目に?どうして私は恋しちゃいけないの?
そして結婚式には途方に暮れて涙を流すが、両親にはうれしくて感極まって流した涙に見えてるだろう。
…そういう曲だ。
一曲目から客の心はつかめたようだ。
かなり癖のある歌詞だからね。
あかりさんの歌い方はあきらめてため息ついてその上でニコッと笑って見せる程度の元気さというのかな。
そんな歌い方をしている。
次の曲は彼女達自身を歌った歌だ。
『Washed away(流されて)』
人に勧められて、心の中では嫌がってたけど人に合わせて流されて。
どうしてあの時思いとどまらなかったんだろう。
どうして助けての一言が言えなかったんだろう。
そんな感情がこもった公開を込めた歌だ。
決して麻薬のこととは言ってない。
誰にでもある、あの時こうしておけばよかったという気持ちを歌に込めているだけだ。
しかし事情を知っている俺たちが聞くと涙が出そうになる。
そして最後の曲になった
『Broken heart(壊された心)』
絶叫するように真子じゃないマークが歌いだす。そこにトモのサックスが絡まっていく。2番は未来じゃない、ミッキーが絶叫しだす。そこにリンのアルトサックスが絡まりだす。
そして終盤ベースとドラムのスネアだけの音になってマークのブルースハープが震える。
曲が終わったとたん割れんばかりの拍手と歓声が上がった。
彼女たちは曲が終わるとすぐに袖に引っ込んだ。
彼女たちは泣いていた。耐えられなかったんだろう。
よく頑張った。みんなから肩を叩かれ祝福を受けていた。
美智さんは楽屋に来て号泣だった。
……これは次のブレーメンにはプレッシャーだな。
「ふふふ。望むところよ。」
…えらく男前のセリフを吐いているあなたは誰?
いや、美香なんだけどね。
客席では今のドロップの演奏と歌の感想が飛び交っていた。
中には携帯で仲間を呼んでいるものもいる。
美智さん曰く、このあたりのバンドマンたちが来ているらしい。
グースのオーディションを通っていきなりレコーディングまで済ましたすごいバンドがあるというので集まってきている連中らしい。
美智さんが呼んだという音楽雑誌の編集者や大手プロダクションのプロデューサーも涙を流していたらいい。
しかしドロップは俺たちと今後は活動するのでマスコミ関係や取材は一切禁じている。
有名人になったら気軽にバーガーショップにも入れなくなるからな。
それでもどうしてもということで、インタビューと取材写真に応じることとなった。
「真子さん。言いたくないことは言わなくていいからね。俺たちは別に売れるためにやってるんじゃないから媚び売る必要は全然ないからね。」
俺はそうあかりさんの耳にささやいた。
うなずいたあかりさんはメンバーと共に写真撮影とインタビューに応じていた。
それを横で見ていた出番前のブレーメンの面々。
そりゃ緊張するよな。
「お前らはお前ららしいステージを踏めばいい。ヤジが怖くてステージに立てるか。そんな奴らがいたらお兄さんたちが蹴散らしてやるから心配するなよ。」
俺はそうやって話しかけながら少しでも緊張をほぐしていった。
みんなのお母さんたちも今日は見に来ている。
娘の歌う姿はどう映っているのだろう。
かなり感動して今頃ボロボロに泣いてるだろうな。
美智さんが呼んでいた大手プロダクションのプロデューサーはぜひ話をさせてほしいと楽屋に訪れたが、彼女たちは謝って断っていた。
「なぜだ?メジャーデビューできるんだぞ!」
と、心底驚く顔を見て冷たく真子さんは言い放った。
「あんたみたいな過去の実績だけで他人の才能で飯食ってるやつらを一杯見てきてるんだよ。メジャーデビューができる?あたしたちはそんなことどうでもいいのさ。今回のステージも、レコーディングも、頼まれたから出ただけなんだよ。おめえらみたいな腐った大人が食い物にするから子供は拗ねていくのさ。二度と面出すんじゃねぇ。」
と追い返した。
ひえ~。演技にしてもすごいね。
編集者が横でメモしてるよ。
この編集者もあのプロデューサーが嫌いみたいだね。喜々としてメモしてるよ。
「ごめんね。あんなの呼んじゃって。あの男の所為でダメになったバンドマンは多いんだよ。それで敢えて、あんたとこでは絶対に育てられない金の卵を見つけたけど見に来るかいって誘ったんだ。あかりちゃんが言ってくれてすっきりしたよ。」
そう言って笑いだした。
まあ、美智さんが納得してるんならいいだろう。
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