第71話 追い詰められた週末

 10月24日土曜日。テストも近付き、文化祭も近付く中、パレットは精神的にかなり追い詰められていました。けれど、勉強には最初からあまり身が入っていなくて、頭の中は文化祭用の短編小説の事ばかり。


「うーん、今の時代が舞台で面白い短編って……むむむ」


 ネットで知らない誰かに読まれるのなら気兼ねなく好き勝手に書けますが、ペンネームを使うとは言え、知り合い相手に読まれるのは変な緊張感があります。勿論、知り合いが確実に来るとは限りません。何故なら、彼女が文芸愛好会所属なのを知っているのはミッチー以外にはほぼいないはずですから。


「あ~、私も先輩達くらいの文才があったらなぁ……」


 色々行き詰まったパレットは布団に潜り込んでまぶたを閉じます。眠ったところで何も解決しませんけど、起きていても何も思い浮かばないからです。精神的なリセットですね。そうして時間は過ぎていき、彼女はガバリと起き上がります。


「眠れーん!」


 そう、ずーっと眠ろうとしていたものの、その願いは叶いませんでした。仕方なくパレットは暇潰しに部屋の中にある本を読み直します。テレビアニメ化もされた有名なラノベですが、初読みで夢中になって読むのと何度も読んだ後で読み直すのではまた違った発見があって、それで時間は潰れていくのでした。


「やっぱり面白いなぁ……。こんな語彙力が欲しい」


 結局一冊最後まで読み切った彼女は、ネタをひとつ思いついて簡単なあらすじをノートに書きます。自分の通う学校が舞台とは言え、リアル知り合いを登場させる訳にもいきません。なので、そこは実際の知り合いをイメージしつつ、架空の人物で話を組み立ててきました。


 話の流れ自体は日常系の話で、読み終わった後に少しくすりと笑えるもの。無難な展開の話です。ただ、起承転結の流れを詳しく書くと軽く5000文字は超えそうで、エピソードの取捨選択に頭を悩ませるのでした。


「何を削ればいいんだろ……。一旦全部書いてから削った方がいいのかな」


 パレットは腕を組んで、どうやって思いついた話を短編にまとめようかと考えます。あらすじの時点でエピソードを厳選すれば執筆も楽にはなるのですが、どれを残すかで印象も変わってくるので簡単には行きません。彼女はこの作業がとても苦手なのでした。


 悩みに悩んだパレットは、結局一旦思いついたあらすじで話を書いてみる事にします。執筆を開始してから約2時間で、ある程度の形になってきました。この時点で気力のゲージがゼロになった彼女は、作業を一旦放棄します。


「今頃はみんなテスト勉強してるのかな……」


 ベッドに倒れ込んだパレットはまぶたを閉じてその上に右腕を軽く乗せました。精神的に疲労していたのもあって、気がつけば数時間ほど眠ってしまいます。目覚めた彼女は、辺りが真っ暗になっている状況にかなり焦ったのでした。

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