第54話 金木犀
10月7日水曜日。パレット達は放課後部活でまったりと先輩達と雑談を楽しんでいます。ちょうど話の区切りがついて空白の時間が生まれたので、パレットは窓に近付いて風に当たりにいきました。
「う~ん、いい風~」
「て言うか、かなり曇ってきてんじゃん。台風の影響かな?」
「ああ、週末くらいにこっちに来るんだっけ?」
「だよ~。学校が休みになるくらい荒れたらいいのにね~」
いきなり始まった台風談義。ちょうど日本に台風14号が近付いてきて、予報上はこれから雨が続く感じになっていました。予報の通りの天候になれば今夜から雨が降ると言う事で、パレットもミッチーもすっかりブルーになっています。
「あ~。雨なんか降らなきゃいいのに~」
「いや、降るのは別にいいじゃん」
「え~? パレチー雨好きなん?」
「雨? 好きだよ? ただ、登下校の間だけは止んで欲しいかな」
晴れ好きなミッチーと雨好きなパレットは、ここで意見が食い違います。とは言え、パレットが雨好きなのは室内で感じる雨の雰囲気だったので、ミッチーとそこまで正反対と言う訳ではありませんでした。
「雨の景色を部屋の中から見るのって心が落ち着く気がしない?」
「まぁ、雨音は嫌いじゃないよ? 予定がないなら別に雨も嫌いじゃないし」
「そうそう、外出予定があるだけで最悪になっちゃうよね」
「何だ、パレチーも雨嫌いなんじゃん」
「だから条件次第なんだって」
2人が降って湧いたような雨談義で盛り上がっていると、そこに大西先輩が近付いてきます。
「そろそろ帰るよ~」
「あ、はーい」
「分かりましたー」
こうして放課後雑談タイムも終わり、パレット達は帰路につきました。先輩達は教室の鍵を返したりと用事があったので、視聴覚室を出た時点で別行動。
帰り道でも2人は趣味の話とかテレビの話で楽しく話しながら歩きます。今日の会話のペースは、ミッチーがメインでパレットは相槌担当になっていました。
「でさ、あのオチはヒドいなーって思ったよね」
「そうそう。意表を突かれたよね」
「CM明けも引きずってたじゃん、また笑ったよね~」
「あははっ」
そうして、帰り道で住宅街の傍を通っていた時です。どこからか漂ってくる香りに2人はほぼ同時に気付きました。
「あっ、パレチー……分かる?」
「これ金木犀だね。いい香り~」
「近くに木があるんだろうね。秋だなぁ~」
「そうだ! 金木犀と言えばさ、ウチの親ヒドいんだよ」
「うん?」
ここまでずっと聞き役だったパレットが、金木犀の話題になった途端に雄弁になります。この突然の展開に、思わずミッチーの方が聞き役に回りました。
「金木犀の香りが漂ってくると、トイレの臭いだ~って」
「ああ、ウチもそうだよ~。昔はトイレの芳香剤が金木犀だったんだって」
「ミッチーのとこもそうなの? 金木犀の香りのトイレ、昔は多かったのかなぁ?」
「多分そうなんだよ。今じゃ無臭が普通なのにね~」
そうです。昔はトイレの香りと言えば金木犀だった時代がありました。ただ、いつの間にかそのブームも去って、この話題で盛り上がるのはいい年した大人世代以降と言う事に。パレットの親世代でも若い親ならこの話題が通じないかも知れません。
当然、今時の中学生が金木犀でトイレをイメージする事は有り得ない事なのでした。金木犀の香りと言えば、トイレ以外でも色々な香りグッズがあったものですけど……今の世代の学生達の間にもまだあるのでしょうかねぇ。
金木犀談義をしながら上空の様子を確認していたパレットは、気持ち早めに動く雲を目にして少し表情を曇らせます。
「これから台風が近付いて風雨が強くなったら、金木犀の花も散っちゃうね」
「じゃあ、今の内に思いっきり吸い込んどこ!」
「あはは、そうだね!」
こうして2人は思いっきり金木犀の香りを吸い込んで、秋の雰囲気を体中にしっかりと染み渡らせたのでした。
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