第52話 自作に自信を持とう
10月5日の月曜日。放課後になったパレット達は視聴覚室へ。そこで先輩達と合流します。教室が視聴覚室とは言え、一応部活で使用している訳ではないので普段はこの部屋の設備を使う事はありません。堂々と使っていいのは、正式な部活として許可の出ている金曜日だけです。
と言う訳で、今日の先輩達は自前のタブレットを持ってきて動画を見ていました。校則的には持ち込み禁止ですけど、持ち物検査がある日以外に見つからなければOKなのです。って言うか、そもそもタブレットを持参する生徒なんてほぼほぼいないと思われますけどね。
「こんにちはー」
「今日もよろしくです~……ん?」
教室に入って室内の様子を確認したパレット達は、いつもと違う雰囲気を感じてすぐに先輩達の近くにまで移動しました。
夢中になって動画を見ている先輩方の肩越しから、ミッチーがぐいっと覗き込みます。
「何見てるんですかぁ~?」
「「わあっ!」」
画面に集中していた2人は、まるで練習したみたいに声を合わせて驚きました。そうして、すぐに大西先輩が振り返ります。先輩は頭をかきながらミッチーの顔を見つめました。
「なんだ、みちるやん。びっくりしたわあ」
「先輩、何見てるんですか?」
「秋クールアニメのPVのまとめ。先に見ておけば見る作品を厳選出来るしねえ」
「先輩は何を見るんですかっ!」
「魔女の旅々とかかな。一応ラノベアニメはチェックしないとやし」
そう、大西先輩はラノベアニメチェック派です。必然的に異世界ファンタジーばかりになってしまうのですが、それが楽しい様子でした。ちなみに部長の場合は――。
「わ、ワタシはおそ松さんとか……期待してる……」
「ああ、楽しみですよねー!」
どうやら視聴の選択基準は好きな声優さんのようでした。ミッチーがそれに気付いて反応したかどうかは分かりませんけど……。
そんな感じで、4人で集まっても秋アニメの話題で盛り上がります。好みが違ったり重なったりで盛り上がったりそうでなかったりしましたが、誰一人として作品をけなす事だけはなかったので場の雰囲気が悪くなる事だけはありませんでした。
推しアニメを力説したミッチーは、一通り話し終えて一息つきます。
「いやぁ~やっぱアニメの話はいいね~」
「私らも自作のアニメ化目指して頑張らななあ……」
「やっぱ先輩も目標はそこですか!」
「そのためにはまず書籍化よね!」
先輩の目標を聞いたミッチーの間はキラキラと輝きました。そうして、すぐに隣の席の友達に視線を移します。
「パレチー、負けてらんないね!」
「え?」
「目指せ書籍化だよ!」
「や、無理だよー。私なんてまだまだ下手っぴだしぃ……」
パレットは手を素早く振ってその可能性すら即否定しました。その態度を見た先輩の目の色が変わります。
「パレット、あんた自作に自信を持たなアカンよ?」
「え?」
「自虐はね、ふざけて言うのならともかく、マジで言うのはダメ。読者増えんけん。自信満々で胸を張って読んでって言う方が読者も安心するんよ」
「自信、持てたらいいんですけど……」
それはとても有り難いアドバスではあったのですが、自分の実力からすっかり気落ちモードに入ってしまったパレットに先輩の言葉は中々届きません。そんな煮え切らない彼女に向かって、先輩は言葉を続けます。
「自信ないですけど、食べてくださいって言われて出された料理を食べたいと思う?」
「それは……ちょっと悩みますね」
「これ絶対美味しいから! 間違いないから食べて! って言われたら?」
「ちょっと食べてみたいかなって思います」
「そう言う事よ」
先輩はそう言ってパレットに微笑みかけました。この喩えでようやく腑に落ちたパレットも、パアアと表情が明るくなります。
「すぐに自信が持てなくてもええんよ。ただ、頑張って書いた自作を自分で悪く言わんといてね。それは何もええ事ないから」
「分かりました。有難うございます!」
「執筆を続けてたら実力はその内身につくけん。まずは趣味を楽しまなね」
「はい!」
突然始まった創作講座はここで終わり、またアニメ談義に戻ります。自作に自信のなかったパレットですけど、もう少し前向きになろうと思いを新たにしたのでした。
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