第47話 お腹を冷やしちゃダメ
9月も最後の水曜日。パレットは半袖の夏の服装で登校。今日は雨が降っていて寒かったのもあって、クラスの大半が長袖にフォームチェンジしていました。
彼女が教室に入ると、それに気付いた友人がすぐに駆け寄ってきます。
「パーレチ! おはよっ!」
「あっミッ……オメェ、裏切ったな?」
「え? 何が? あッ……」
そう、ミッチーは9月いっぱいまでは半袖で通すと宣言しておきながら、既に長袖で登校してきていたのです。裏切り者発言でそれに気付いた彼女は、開き直ってバンバンとパレットの背中を豪快に叩きました。
「細かい事は気にしちゃダメだよ。あははー!」
「ちょ、痛い痛い」
こうしてミッチーは長袖登校の事を力づくで有耶無耶にする事に成功します。パレットはそのまま自分の席に着席。鞄の中のノートとかを机の中に入れました。
全ての作業が終わると、窓の外を見ながら頬杖をつきます。その視線の先にはしとしとと降る雨の景色。
「はぁ、一日中降るのかなぁ……」
「大丈夫、帰るまでにはやむって」
「それは根拠のある情報? それとも勘?」
「勘!」
いつの間にか席にやってきていたミッチーがパレットの独り言に反応します。その自信満々な言い方が彼女らしかったので、パレットは軽く微笑みました。
そんな態度を目にしたミッチーは、少しだけ気を悪くします。
「あ、疑ってるな~」
「そんな事ないよ~。ミッチーの勘は気象庁より頼りになるんだから!」
「おおっ! それはそれは。お褒めに預かり光栄です」
「「あははっ」」
最終的に意気投合した2人は揃って笑顔になりました。ここで話題もリセットされて、少しの間沈黙の時間が流れます。周りのクラスメイト達の雑談がいい感じのBGMになっていました。
そうして、パレットがまた視線を窓の外に移したタイミングで、ミッチーが話しかけてきます。
「そう言えばさあ、かなり寒くなってきたからこれからは気をつけなくちゃだね」
「えっ?」
この先の読めない呼びかけに、パレットは困惑しました。困り顔の友人の顔を見たミッチーはすぐに話を続けます。
「これからはお腹を冷やしたらすぐに大変な事になるって話だよ」
「ミッチーはお腹弱いの?」
「うん。もう冷蔵庫で冷やした水は飲めないね。トイレと友達になっちゃう……」
ミッチーはそう言うと大きくため息を吐き出しました。本当に辛そうなその表情を見て、冗談で言ってる訳ではない真剣さを感じます。パレットはそんな彼女に何か言葉をかけようとしますが、すぐには何も言葉が思い浮かばないのでした。
「ど、どんまい……」
「パレチーはお腹大丈夫なの?」
「まぁ、私もあんまり冷やしたらヤバいかもだけど……」
「いいな~。あたしも丈夫な腸が欲しいよ~。冷水飲んだら100%だからねこっちは……。昨日もそれで大変だったんだから……」
それからしばらくはミッチーのお腹が弱い独白は続きます。そんなしんどい話を聞いていて、パレットは彼女が寒さに負けて信念を曲げた理由も分かった気がしました。体を冷やすと体調が悪くなるからなのだなと……。
その後、雨は昼休みまでにはすっかりやんで日の光が射してきます。ミッチーの勘の正しさに感心しながら、雨上がりの冷たい風が肌寒く感じたパレットは窓をピシャリと閉めたのでした。
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