第40話 フリートーク その1

 ここはメルヘンタオルシティの市民の森の特設ステージ。そこでは何故かパレットとミッチーが2人で並んで揃って立ってコントのような事をしています。これは何かのイベントと言う訳でもないので、観客はいません。

 2人は誰もいない観客席に向かってバラエティーのフリートークのように適当に会話を楽しんでいるようです。


 観客席側から見て右側にパレット、左側にミッチーが並び、まずはパレットが話を始めました。


「えー、と言う訳でですねー。いきなりフリートークと言われて出てきたんですけど」

「あの作者にも困ったものですよねー」

「って言うか、何話せばいいのこれ?」

「何でもいいから話して、だって」


 そう、そもそもこれは作者の猫がネタ切れに合わせて設定した間に合わせシナリオです。2人にステージに上ってもらって、好き勝手に話をして欲しい。オーダーはそれだけでした。2人の口からどんな爆弾発言が飛び出すか楽しみですね。

 とは言え、流石にこの無謀な展開にパレットも困惑気味でした。


「えっと、メタ的なのでもいいの? って言うか、もうこれがメタなんだけど」

「何でもいいみたいよ。パレチーは何かある?」

「うーん。そもそも、この小説ってってエッセイを小説にしようプロジェクトだった訳じゃん」

「だね~」


 メタ発言OKと言う事で、パレットは早速この作品のコンセプトから切り込み始めます。この流れをミッチーもぬるっと受け入れました。止める人もいないので、更にパレットはこの話を続けます。


「なのに出来上がったものって、小説に寄りすぎてない? 今までの話、ただの日常系の小説だよ」

「ちょっと各話のタイトルが直球すぎる感じのね」

「テレビ番組で例えるならこれ、ドラマだよ」

「ほう」


 このたとえ話展開にミッチーは感心します。そうして、わざとらしい身振り手振りを加えながらパレットの持論は続くのでした。


「エッセイ小説を目指すならバラエティにならなくちゃでしょ。バラエティーのフリートーク。細かい舞台設定とかいらんでしょ」

「ああ、確かにエッセイ漫画とか舞台がどことか特に説明のない作品も多いよね」

「いきなりスタジオにキャラが集まって話をしてるだけ、みたいなマンガも多いよね。あれでいいと思うんだ」

「まぁ、キャラが出てきて吹き出しがあればマンガだもんね」

「と言う事は、エッセイ小説は『日々脳以内雑談』の方が形は近い訳よ。この話もあの方式ですればいいんじゃない?」


 パレットが一気に話し終えたところで、ミッチーは何かを思い出したみたいです。今度は彼女がその話を広げてきました。


「方式と言えばさ、エッセイ小説は日記だって前に猫言ってたじゃん」

「ああ、そうだね~」

「日記にしたけりゃ、まぁ自伝でもいいけど、何で三人称? そこは一人称でしょ。後さ、架空のキャラで日記を演じるにしても、どうして猫耳キャラが主人公なんだって言うね~」

「その癖猫耳っぽさも全然表現しきれてないもんね、死に設定だよこれ」


 話はこの作品そのもののダメ出しに移っています。あれ? フリートークとは言ったけど、どんどん展開が怪しい方向に進んでいるぞ……。この2人に任せたのは間違いだったかな?

 ヒートアップしてきた話は更に暴走を続けます。調子に乗ってパレットが続けました。


「ケモミミ要素をちょっとでも表現出来たのって、大西先輩の狐耳だけじゃん」

「だよねー。あたしのねずみ耳設定も死んでるな~。ハハッ!」

「ちょ、その笑い方は……」

「こほん。えーと、このトークどこまで行ったら終わりなん?」


 暴走が過ぎたので、話の流れを戻そうとミッチーが軌道修正を試みます。ただの雑談だと話も終わらないので、ここで終了条件の確認に移ったのでした。

 しかし、最初に作者から話を振られたパレットはここで衝撃的な一言を告げます。


「全然決めてないよ」

「何それ! ダメじゃん」


 どうやって終わるのか全然決まってない事が分かり、ミッチーは軽く失望します。しかし、決まってないと言う事は、逆にいつでも自由に終わらせられると言う事でもありました。そこで、彼女は改めて話を仕切り直す事にします。


「じゃあさ、取り敢えず今後のこの話の予定とかは?」

「そんなの猫次第だし」

「うーん、話が広がらないね。誰か呼ぶ?」

「呼ぶって言われても、困ったな……」


 2人だけの会話に限界を感じたミッチーは新キャラの投入を提案しますが、いきなり話を振られたパレットは困惑します。このコンビのピンチに、舞台袖から新しい人影が現れました。


「ふっ……早く我を呼ばないから、話が混沌の渦に巻き込まれるのだぞ」

「出たー! 厨ニ病!」

「人をおかしいやつみたいに言うな!」


 突然現れた文芸愛好会唯一の男子会員、渡部。彼はミッチーからのレッテル貼りに異を唱えました。ただし、その言葉を彼女は普通にスルーします。


「だっていつもおかしいじゃん」

「渡部君はいつもそんな感じなの?」

「ふっ……それは秘密だ」

「絶対部活の時だけだって。普段からおかしかったらクラスが違っていても情報は来るでしょ」

「あーそれもそうか」


 ミッチーの推測にパレットも納得します。それが図星だったのか、渡部はこの展開を前に突然大声を上げました。


「うわああーっ! それ以上は言うなーッ!」

「ほら動揺してる」

「普段は一人称が僕とかだったり?」

「黙秘権……」


 パレットの想像したその一言に対して、渡部は沈黙。これは答え合わせをしているのと同義です。この流れを横で聞いていたミッチーは、クスクスと笑いを堪えていました。


「あ、これもう確定だわ」

「もくひけーん!」

「まぁそれはいいとして、渡部には何かネタがあるの?」

「うむ。もっと我を活躍させろと言いたい」


 渡部がこのコントに乱入してきた理由、それはどうやら作者に直談判するためだったようです。つまり、もっと出番が欲しいようですね。

 この要求を聞いたパレットは、すぐのその可能性について言及しました。


「まぁでもそれは無理なんじゃない? だって渡部君って部活の時しか接点ないし」

「そんなの、我視点の話を書けば済むだけではないか……」

「え? いいの?」


 彼の主張にミッチーが口を挟みます。その疑問が出てくる事自体が理解出来なかった渡部は、思わず彼女の方に顔を向けました。


「何?」

「普段視点の話を書いたら、僕キャラが確定しちゃうよ?」

「ぐ……」


 その有り得るかも知れない可能性に渡部は唇を噛みます。こうして彼の暴走を止めたミッチーは、更に話を続けました。


「大体猫はさあ、厨二病キャラの描写苦手なんだよ。まだギャル描写の方が得意なくらいらしいし」

「何……だと?」


 作者の能力的な限界の指摘を聞いた渡部は、更に動揺します。その様子を目にしたミッチーは、ニンマリといたずらっぽく笑いました。


「今からギャルキャラにチェンジする?」

「や、やだよ!」

「あはは、顔真っ赤だ」

「く、屈辱……」


 ミッチーにからかわれた渡部はすっかり口数を減らしてしまいます。しかし、そこで口撃の手を緩める彼女ではありません。今度は、渡部の顔をじーっくりと興味深そうに眺めます。


「あ、よく見たら渡部って女装似合いそうじゃない?」

「は……?」

「ちょっとメイクとかやってみよっか? 新しい扉が開くかもよ~」

「うわああああ!」


 強引に女装される未来を想像した渡部は、その場から脱兎のごとく離脱しました。ステージから飛び降りて姿が小さくなる彼の姿を、2人はじいっと見つめます。

 特にミッチーは、渡部がいなくなってとても残念そうにしていました。


「逃げられたか~」

「ミッチーがからかうからだよ」

「いなくなったものはしょうがないな。そろそろ終わる?」


 助っ人も消えたので、改めてミッチーはパレットにコントの終了を打診します。と、ここでまた新たな人物が2人の背後から現れました。


「あ、終わるん? 間に合わんかったかー」

「「せ、先輩?」」


 そう、それは2人の頼れる先輩の大西先輩です。この意外な人物の登場に、パレット達は思わず声をハモらせました。ただ、さすがは先輩です。時間を確認してすぐに事情を把握した後、2人に向かって軽く微笑みました。


「じゃあ次回には出番頂戴ね」

「「は、はいっ!」」


 2人のハモった返事を聞きながら、先輩は颯爽とステージを去っていきます。パレット達は、その姿が見えなくなるまでずっと黙って見送ったのでした。

 改めて2人きりになったところで、パレットは残念そうに軽くため息を吐き出します。


「どうせなら最初から先輩に登場して欲しかったね」

「まぁ、次回には登場確定と言う事で」

「じゃあ、今日はここで終わります!」


 と言う訳で、今度こそ2人はフリートークを終わらせ、誰もいない観客席に向かってペコリと頭を下げました。ステージを降りた彼女達は、やりきった満足感に包まれます。


「ふう、楽しかった」

「ではこれからもよろしくね~」


 最後は読者に向かってペコリと挨拶。と言う訳で、これからもこのエッセイ小説をよろしくお願いします。いつもよりボリュームが大きくなってしまいごめんなさい。

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