第39話 県外ナンバー

 シルバーウィーク4連休の最終日。パレットも作品を書き上げたと言う事で、ミッチーを誘ってまたイオンモールに遊びに出かけていました。2人共初秋の季節に似合う服装でおしゃれして、この連休最終日を楽しみます。


 まずは今話題の映画を観たり、今話題の本を読んだり、今話題の服を品定めしたり……モールを最大限に楽しみました。とは言え、2人もまだ中学生、自由に使えるお金もそんなにないのでほぼほぼウィンドウショッピングや立ち読みです。

 そうやってモールを満喫して満足げなミッチーが、パレットの顔を見つめました。


「大体回ったし、次はどこ行こうか?」

「やっぱ最後はあそこっしょ」


 そう言って2人が向かったのはペットショップ。地元には動物園も猫カフェ的なものもないので、簡単に動物を眺めるのにはここが一番手軽なのです。それに、見るだけならお金もかかりませんしね。

 お店に着いたパレットは、すぐに犬猫コーナーに向かいます。この時点で2人共顔がほころんでいました。ミッチーがそこで大人しく座っている柴犬に注目します。


「ああ、子犬ちゃんかわいい~」

「猫もかわいいよ~。眠ってる~」


 その後も2人は売られている沢山の動物を目にしてその度に小さく盛り上がります。パレットが小鳥達を眺めているところで、ミッチーはしゃがみこんでハムスターを見ていました。


「ねぇパレチー、ハムスターなら飼えるかもよ。安いし」

「うーん……。でも生き物を飼うの、自信ないなぁ」

「まぁ確かに、命に責任を持たなきゃだしねぇ……」

「それに、死んじゃったら淋しいじゃん」


 この会話のせいで楽しい時間を過ごしに来たはずなのに何だか切ない気持ちになってしまい、2人はテンションをやや下げた状態でペットショップを後にします。

 モールの外に出たところで、パレットは友人をそう言う気持ちにさせてしまった責任を少し感じました。


「ねぇミッチー。クレープ食べて帰らない?」

「え? おごり?」

「んな訳ないでしょ! クレープが100円ならおごってもいいけど!」

「だよね~」


 ふざけ合っていつもの雰囲気に戻った2人は、笑い合いながらフードコートに向かいます。様々なお店が並んでいますが、目的も決まっているので他のお店に浮気せずにまっすぐクレープ屋さんに向かいました。


「ねぇ、ミッチーは何にする?」

「私は一番安いのでいいや」

「じゃあ2人同じのを食べよ」


 と言う訳で、2人は仲良くバナナチョコを注文しました。出来上がったそれを手に、2人は適当な席に座ります。最初は食べる方に夢中になって会話もなかったのですが、余裕が出来てくると自然に口が動きました。


「美味しいね、パレチー」

「でもやっぱ高いよね~」

「それはほら、場所代とか、技術代だよ」

「ボロい商売ですな!」


 そうやっておやつを堪能してすっかり機嫌の直った2人は、今度こそ帰るために駐輪場へと向います。自転車に乗って家に向かう途中で、道路を行き交う車を見ていたミッチーはある事に気付きました。


「うわ、今日はやたら県外ナンバーが多いよ」

「だって連休だもん。遊びに来てんじゃないのー?」

「でも地元なんて何もないのにな~」

「その何もないのがいいのかもよ~?」


 そう、いつもは地元ナンバーばかりを目にしているのですが、今日はやたらと県外ナンバーばかりが目に飛び込んできていたのです。地元以外のナンバーが珍しい事もあって、ミッチーもパレットも変に興奮しました。


「うわ、パレチー見てみて、岡山ナンバーだよ」

「こっちは福岡だー」

「京都ナンバーが走ってたよ~」

「ちょま、あそこ……横浜だって! すごい~!」


 結局、折角イオンモールまで遠出したのに一番興奮したのが帰り道になってしまいます。までも、遠出しないと県外ナンバーにも出会えなかったので、全くの無駄と言う訳でもなかったのですけどね。

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