温泉

「まさか原田くんに下着姿を見られるなんて思ってもいなかったよ」


 温泉に入ってる澪は恥ずかしそう呟く。

 反応からすると怒っていない様子で、ただ恥ずかしいだけのようだ。

 初めて異性に見られたということなので仕方ない。


「うう~……海斗くんにちゃんと言っとかないと。見るなら私だけにしてって」


 事故とはいえ、自分以外の女性の身体を海斗が見たから、愛奈は「むう~……」と頬を膨らます。

 愛する彼氏には自分だけを見てほしいと思うのは当たり前のことだ。

 海斗のためであれば愛奈は自分の全てをさらけ出せるし、もっと愛されたい気持ちでいっぱい。

 自分だけを見てほしいという想いで愛奈の脳は埋めつくされていると言っても過言ではないくらいだ。


「愛奈は原田くんに見てほしいの?」

「うん。全部海斗くんに見てほしい」

「そっか……変わってるね」


 澪の言葉の意味が分からす、愛奈の頭にはてなマークが浮かぶ。

 付き合っているのだし、望むなら全てを差し出すのが愛奈の考えだ。

 恥ずかしいからなどという理由で断って飽きられたら嫌だし、浮気なんかされたら気が狂ってしまいそうになる。

 だから大切な彼氏である海斗望むことは何でもしてあげたい。


「今日も海斗くんに抱かれたい」


 頬を赤らめて呟いている愛奈を見て、澪はさらに顔が紅潮する。

 二人がしているシーンを想像したのかもしれない。


「そういえば抱いてくれないと眠れないって言ってたね」

「うん。海斗くんに抱かれた時の幸福感を味わったらもう……」


 頬に手を当て、愛奈は「きゃ……」と恥ずかしがる。

 クラスメイトがいる教室で堂々言っときながら何恥ずかしがってるの? みたいな視線を澪に向けられるが、愛奈は特に気にしいない。


「海斗くんと寝たいから部屋変わってくれたりしない?」

「それは難しい相談かな。夏希さんがもう少しまともであれば良かったんだけど……」


 海斗が守ってくれるから愛奈に直接的な被害はないけれど、嫌な理由はわかる。

 二人きりだといっぱい抱きつかれることになるだろうし、もしかしたらキスもされるかもしれない。

 何かされるとわかってて一緒の部屋になるバカはいないだろう。


「でもでも、海斗くんに抱かれないと安心して眠れないの」

「私は経験ないけど、そんなにいいものなの?」

「うん海斗くんが私の全てを包み込んでくれる感じがして幸せ」


 思わず妄想してしまい、愛奈の身体は海斗を求めてしまいそうになる。

 いっぱい……というかずっと抱き締めていてほしい。


「このでっかい浮き袋で原田くんを誘惑しているのか?」


 温泉プカプカと浮いている愛奈の大きな膨らみに、澪の視線は釘付けだ。


「違うよ。澪ちゃんのも大きいと思うよ」

「愛奈には負けるもん。愛奈のを触れば大きくなるかな?」


 両手の指をワキワキと上下させ、澪は愛奈にセクハラしようとしてくる。


「私のを触っていいのは海斗くんだけだよ。澪ちゃんがセクハラ親父になってるよ」

「はっ……これじゃあ夏希さんと変わらない……」


 愛奈の胸を触ろうとした澪は、最早夏希のセクハラと同じだ。


「海斗くんに会いたい」


 少し一緒いないだけで寂しくなってしまい、愛奈は海斗を求めるように右手を上げた。

 早く抱き締めてもらいたい……そんな気持ちでいっぱいだ。


「愛奈は原田くんに依存してるよね」

「うん。海斗くんは私を救ってくれたヒーローだから」


 小学生の時に海斗が虐めから助けてくれなかったら、愛奈はどうなっていたかわからない。

 たまにニュースであるような自殺までしていた可能性すらあっただろう。

 もう好きで好きで仕方ないし、一緒にいれるためなら何だってする。


「だから寝る時に海斗くんを部屋に呼んでもいい?」

「え?」


 愛奈の言葉に、澪は驚いたように目を見開く。


「大丈夫だよ。抱いてもらうって抱き締められながら寝ることだから」

「そうなの? なら大丈夫かな。原田くんが私に手を出すことなんてないし」

「うん。問題が一つあるけど……」

「そうだね。夏希さんかな」


 海斗を部屋に案内する前に夏希が来る可能性は充分に考えられる。

 異性より同性を警戒するなんて変な話だが、夏希には警戒しなければならない。

 いっぱいお酒を飲ませて寝させる方法がいいかもしれないが、それまでに手を出そうとしてくる可能性が高い。

 夏希が暴走しないように海斗が側にいてくれるはずだが、寝るまでにどれだけ時間がかかるかわからないのだ。

 先に海斗が寝てしまうことだってあるかもしれない。

 充分な対策が必要だ。


「色々と考えないとね」

「そだね。何で夏希さんはあんな性格的になっちゃったんだろ……」


 変態の夏希のこと考えたのか、澪は「はあ~……」とため息をつくのだった。

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