第14話 まだまだ続くから!
「俺は、いろんなことからも逃げ続けている。今もまだ。」
「ううん、そんなことない。誠はちゃんと向き合ってくれていたんだね。」
そう言い、美海は俺の手を握りしめる。
「あのさ、一つ言って良い。」
琴美があえて空気を壊すような淡々とした口調で言う。
「いや、マジで気持ち悪いよ。それ。美海だけなら恋する乙女だけど、オッサンがそれってかなりヤバいよ。」
琴美の言葉に頬が急激に熱くなるのを感じる。
「いや、だって、そういうのは…」
「いやいやいや、本当に気持ち悪いから。」
言い訳しようとする俺に優子が追い打ちをかける。
「それにさ、じゃあ、なんで今二人は悩んでるの?」
優子は首を傾げる。
「それは、私の願いで、誠は辛い思いを…それに誠の子供もいなくなって…」
美海は言葉に詰まりながら言う。
「俺も、こんな俺が美海と恋をする資格なんて…」
「だからさ、それがおかしいと思う。」
優子はきっぱりと言い放った。
「誠が辛い思いするのなんて当たり前じゃない。だって、誠が美海に勝手に恋して勝手に拗らせてるんでしょ?美海が責任感じることなんてないし。」
「それに子供のことだって、今となっては未来の一つの可能性ってことじゃん。そんなこと言いだしたら二人で散々アタシたちの未来だってかき回してきたじゃん。誠の見た未来じゃまだアタシ引きこもってるんでしょ。もう完全に未来変えてるじゃん。」
「誠だって変だよ。だって、未来にはそうなってたかもしれないけどさ。今の誠は結局童貞じゃない。童貞の妄想全開って感じが本当に気持ち悪い!」
琴美と優子はメチャクチャな理論でさらに激しく俺たちを責め立てた。
「それは、そうかもしれないけど、なんでお前ら、そんなに…」
「そうだよ。そんなに私達気持ち悪いかな。」
俺と美海が反論を試みようとした時、琴美と優子は教室の電気を付け、俺たちの前に立つ。
「お前!アタシ達のヒーローなんだろ!カッコ悪くウジウジしてるとこなんか見せるなよ!カッコ良いとこちゃんと見せろよ!」
「美海も!つまんないことでクヨクヨして後悔するなんて迷惑!私たちの事ここまで引っ張ってきたんだからしっかりしなよ!本当に誠に伝えたいことはもう言ったの!?それだけで絶対後悔しないの!?」
「誠も!美海に全部言わせんな!自分の気持ち言ってないだろお前!男の口から言えよ!」
ついに優子と琴美がキレた。いや、真一も無言で俺の背中に正拳突きしている。
二人の剣幕と背中に突き刺さる打撃に押され、美海と向かい合う。
「えっと、その、美海。」
「は、はい。」
俺の言葉に美海は背筋を伸ばす。
「こんな、気持ち悪い男って知って、余計幻滅したかもしれないし、まだまだめんどくさい事ばっかりで美海にもこれからも迷惑かけると思うけど…」
俺の言葉を美海は固唾を飲んで聞き入る。
「やっぱり俺、美海と一緒に居たい。これからも。」
そういうと俺の背中に真一の正拳突きが刺さる。言葉の足りなさを真一に指摘される日が来るとは思わなかった。
「美海。好きだ。ずっと俺と一緒に居て欲しい。俺とこれからも青春して欲しい。」
美海は顔を赤くし、視線を右に左に彷徨わせた後、見上げるように俺を見て
「私もずっとずっと愛してます。これからも。誠と生きていきたいです。」
美海と両手を握り合う。互いに視線が絡み合う。すると急に気恥ずかしくなり俺たちは視線を逸らした。
「そこはキスだろ!このバカ!しっかりしろ!」
琴美が激昂して俺に拳を突き立てる。
「勘弁してくれ。なんかもう、恥ずかしすぎて死にそう。」
そう言い、琴美の方を振り返る俺。
その俺の頬に美海はキスをした。
驚いて振り返る俺に美海は耳まで真っ赤にしながら言うのだ。
「私たち、もう十分気持ち悪いからさ。開き直ってみた。」
琴美たちはそれで一応満足はしてくれたようだ。
「みんなも、ありがとう。みんなに聞いてもらえてよかった。」
俺と美海はみんなに向かい頭を下げる。
「みんなが居てくれたから、私は行動することができたし、誠はちゃんと向き合うことが出来たと思う。本当にありがとう。」
美海が姿勢そのままに言葉を続ける。
「ほんとにさ、手間のかかるオジサンオバサンだよ。こりゃ、変なところでケンカでもして簡単に別れそう。」
琴美は嫌味交じりに言う。
「私達だって、これからもっと青春するんだから。二人の事手伝った分、私たちのことも応援してよね。」
優子はウィンクをしながら言う。
真一は俺たちに親指を突き立て、グッドサインを送っている。
嗚呼、みんな温かい。本当にいい仲間を持った。心からそう思った。
そうだ。これが青春なんだな。みんなが俺達のために頑張ってくれる。だから俺達もみんなのために頑張れるんだ。
そんなことを思うと涙が溢れた。でももう、涙を隠す必要はない。だってその涙ごと受け止めてくれる仲間が居るんだから。
どのくらい時間がたったのだろうか。外はもう真っ暗で下校時刻などとっくに過ぎている。それでも俺たちがこの部室に居られたのは遮光用の暗幕が室内から漏れる光を遮ってくれていたからだろう。
みんなで部室を出る。廊下には見慣れた二つの人影。理子と七海だ。
二人は俺たちを見ると優しく微笑んだ。
「終わった?帰ろっか。」
一緒に校舎を出る。中庭に出ると秋口の肌寒い空気が俺たちを包んだが、それを感じてなお、胸の中は温かさで満たされたままだった。
そうだ。俺たちの青春はこれから始まるんだ。星と仲間が叶えてくれた奇跡。
俺は全力で青春することに決めた!
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