#67 “コーデリアの家”

――マスタ―! 撃ってください!


《“海底”のクラ―ケン・モンスタ―》との戦闘の際に聞こえた、

あの声は一体なんなのだろうか……? 女性の声だった。


そうだ。

管理用コンピュ―タも文章で俺のことをマスタ―だと言っていた。

つまり、あの声の主は《最初の洞窟》にある管理用コンピュ―タなのだろうか?


そういえば、あの時の巨大化したレ―ルガンは一体なんだったんだ?

気がつくと、意識することもなく俺は《レ―ルキャノン》と声に出していた。

別に俺が中二病だったわけじゃない。気がついたら《レ―ルキャノン》という言葉が頭に浮かんでいたのだ。


あれもスキルの一種なんだろうけど、威力が桁違いだった。 

明らかに強敵だったフォルトを一撃で粉砕したあのスキルは尋常じゃなかった。


「おい、ハヤト。何難しい顔をしている」

「お兄ちゃん! なにか考え事をしているのですかっ」


それに、《レ―ルキャノン》は確実に俺が設定したスキルじゃない。

何故ならば、俺の今のメイン武器――レ―ルガンは元々加賀美かがみがこの世界に持ち込んだ武器であり、

この世界に最初からあった武器ではないからだ。


そのレ―ルガンを一時的に強化させる《レ―ルキャノン》というスキル――は恐らくレ―ルガンから取った名前だろう……多分。

キャノンってなんか強そうだし。英語わかんないけど。


「ハヤトくんっ! 悩み事なら一緒に考えるわよ!」

「イオも手伝います! ……ハヤトさん?」


だとすると……管理用コンピュ―タは現実世界のレ―ルガンを知っている可能性が高い。

そういえばレアもミサイルを知っていたな。

少なくとも、現実世界のことを知っているのは俺と加賀美だけではないらしい。


「ハヤト様! 聞いていますの? ハヤト様っ!」


後は……クラ―ケンが名乗っていた“フォルト”という存在。

あいつも俺の名前を知っているようだった。

フォルトは一体何が目的なんだ……? 

う―ん……? 謎は深まるだらけだ。


――ドスッ。


俺は後頭部を殴られる


「痛ッ! な、なにするんだよコ―デリアっ!」


一体何処から取り出しのだろうか……。

コ―デリアは重そうな本を持っていた。


「そ、その本で殴ったのか? 殺す気かっ!」


「だってさっきから声を掛けても頭を抱えてばかりで、いつまでたっても反応しないんですもの」

「だからって本で後頭部を殴るなっ! ……それで、なんだ?」


「……ハヤトが次は何処どこに行くかと言ったのだぞ」


「ああ、そうだった……。次は何処に行こうかな?」


俺は彼女たちに声をかける。


「……ならば、私と一緒に世界征服をしにいかないか? ハヤト」


「いや、遠慮しとく」俺は即答する。

「ハヤト様」

「ん? どうした?」

「どこにも行く宛がないのなら――」


と、コ―デリアは嬉しそうな表情で、


「――“わたくしの家”に遊びに来ませんか?」

「――――えっ?」

「なにが『えっ?』ですの?」


コ―デリアの家? そんなのあったっけ?

……そりゃ誰にだって家はあるか。

そういえば事あるごとになにかと比較しては、自分の家の方が上だと言っていたな。


でも、あの家は……。


「コ―デリアさんのお家ですか! イオ行きたいです!」

「わたしも行きたいですっ!」

「コ―デリアちゃんの家はきっととっても豪華な家なんでしょうね!」

「……リアの家か。楽しみだ」

「わたくしの家で、皆さまの歓迎パ―ティでもやりますわ。 どうですかハヤト様?」


家ね……。

何かが引っかかるな……。


「あ、ああ。そうしよう。《カロン》と言う名前の森の奥にその家はあるんだっけ?」

「ええ。そうですの!」


というわけで、俺達は《カロン》に向かった。



◇◆◇◆


空は暗く、夜だった。

俺達はカロンの中を進んでいく。

ざわざわと、木がゆれ動いており、昆虫が小動物がたくさんいる。


「〜〜♪」


コ―デリアはとても上機嫌で森の中を歩いていく。


「どきどきっ、わくわくっ!」


レアはワクワクしている。


「どきどきっ、わくわくっ!」


イオはレアのセリフを繰り返す。


「お前ら、仲いいな」


二人は本当に仲良さそうだった


「コ―デリアさんの家って一体どんなお家なのでしょう……!」


イオは目をキラキラさせていた。


「きっと王子様が住んでいるのですっ!」


レアも目を輝かせてそう言う。


「王子様……いいわねっ! あとは……メイドとかもいるのでしょうね!」


リシテアもワクワクしているようだった。


「後は……闇の世界の住人とかも沢山いるのだろうな」

「いや、闇の世界の住人はいないだろっ」


俺はフェーベのボケに冷静に突っ込む。


そうこうしている内に、《カロン》最深部へとたどり着いたようだ。

俺達は門をくぐり、玄関前にたどり着く。


「どうですの? とっても大きいでしょう! ここがわたくしの家ですわ……っ!」


コ―デリアは家の玄関の前に立ち、仁王立ちをする。

家は月の光に照らされており、家と周りの情景じょうけいがよく見えた。


「えっ? ここがコ―デリアちゃんの家……?」

「ここがですかっ……???」

「そうですわよ? 何かおかしいですの?」


「「…………」」


一同は沈黙する。コ―デリアをのぞいて。


「皆さんわたくしの家の迫力に圧倒されていますの! でもここからが本番ですのよ?」

「リア……」


コ―デリアは玄関のドアを開け中に入っていく。


――キイィ……。


「ハヤトさん……」


イオは何かを察したのか、俺に不安そうに声を掛けた。


「分かっている。とりあえず中に入ろう」

「はい……」


この屋敷は確かに巨大だ。

《ディオ―ネ》や《ジュピタ―》の城並にはでかいな。


だが――ではなかった。

いや、正確には昔は立派な家だったらしいというのが正しいか。


建物自体は面積がとても広いように見えるし、階層は三階建てだろうか?

確かに雰囲気だけなら“屋敷”と言ってもいいだろう。


しかし建物の周りの花壇に生えていた花は完全に枯れており、

元々は綺麗に並べられていたであろう木は枯れ、枝の部分には蜘蛛の巣だらけだ。


家の窓や玄関も廃れており、管理が行き届いていない。

何よりも致命的だったのは――。


天井の一部が崩落ほうらくしていたことだ……。


「〜〜♪」


コ―デリアの後ろ姿は相変わらず楽しそうだった――。

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